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今、何をしていますか…

作者: なか

「秋の歴史2022」テーマ「手紙」より着想しましたが、ジャンルが歴史ではないのでこちらに投稿しました。

最後までジメジメした内容です。





−−俺は今、何をしていますか?−−




バイトからの帰り道、最近頭の中に繰り返し浮かんでくる言葉がまた頭をもたげてくる。


今は…しがないフリーター…か?…


夜の街の明かりを見るともなしに目に映しながら、繰り返してきた答えを疲れた頭に浮かべる。

この生活を始めて何年になるのか、考えるのも面倒で朧げにしか思い出せない。

歳は28、いや29だったか。自分の年齢も思い出せない事に乾いた笑いしか浮かばない。


何をしているかなんて考え出したのは、あの手紙を見つけたからだ…




先日、滅多に帰らない実家へたまたま帰った。

自室の並べられた漫画本の乱れに何気なく手を伸ばし、懐かしく思いながらその中の一冊を手に取った。その一冊を開いた時、触った感触に違和感を感じて裏側の表紙を広げると皺の入った薄い封筒が挟まっていた。封筒の存在をすっかり忘れていた俺は、何も書かれていない封筒の中身を見てやっと思い出した。

それは小学生の頃に書いた、未来の自分に宛てた手紙だった。

未来の自分への表題で始まった手紙には『この手紙を読んでいる俺は今、何をしていますか?』と書かれていた。手紙には他に手紙を書いた時の事が書かれていたが、正直何が言いたいのかわからない内容だった。自分で書いたのだから大体の意味はわかるが、もっと他の事を書けよと、自分をつっこみたくなった。

そんな残念な自分をそのまま写した内容の手紙の一言に、残念ながら散々心を揺すられている。

今の生活を選んだのは自分なのに、周りを僻む事しかできない。そんな自分に嫌気が差すのは今に始まった事じゃない。




アパートの最寄り駅を出ると、賑やかな声が聞こえてくる。酒を飲んだ帰りなのか、駅前で会社員らしき集団が何やら騒いでいた。楽しそうでなによりだが、五月蝿くて仕方ない…。その賑やかな声を避けるように駅前を通り過ぎる。

駅前を出る所で、4・5人の騒ぎながら歩く制服を着た学生とすれ違った。あれは高校生だろうか。駅前の時計は、2本の針が仲良く上を向いていたはずだが呑気なもんだ。まぁ、呑気にできるのも今のうちか…。

堪らずため息が漏れる。

高校生にまで僻んでいる自分に呆れるしかない。視界に赤信号が映り足を止める。


いい加減今日も疲れた、帰って風呂入って寝よう。


そんな事を考えながら、青に変わった横断歩道を渡り出す。

突然、横から耳が痛くなるような音がして視界にライトの光が映った。その途端、体に凄まじい衝撃が走り視界がごちゃ混ぜになる。視界が傾いたまま止まったかと思った時には地面に横たわっていた。


あぁ俺、ひかれたのか…


霞む視界の中で、映っているのは車のライトだろうか。

かろうじてひかれた事だけを理解したところで、視界の端から暗闇が覆っていく。


俺、これで死ぬのか…。どうでもいい人生の奴は、どうでもいい死に方するんだな…


遠のく意識の中でそれだけが浮かんで消えていった。






……

………

どうでもいい人生だって思うようになったのは、いつからだっただろうか……



暗闇の中、ふと言葉が浮かんでくる。



その言葉に引きずられるように、これまでの事が思い浮かぶ。


今はバイト生活をしているが、これでもその前は正社員として働いていた。

高校を卒業してから就職をして、そこそこ真面目に仕事をしていた。ただ、3年か4年経った頃から、どうしても仕事が嫌になった。職場が悪かったわけではないと思う、比較的まともな職場だったはずだ。仕事が楽だった訳ではないが…。ただ、続けるのが辛かった。もともと、一つのことを続けるのが苦手だった。社会人として働けばそれも変わるかと思ったが、結局は変わらなかった。

初めの仕事を辞めた後は、とりあえずバイトを始めたがそこも続かず辞めて、後は向き不向きも重なり転職を繰り返している。

思えば、昔から何でもかんでも続けるのが苦手でできない事の連続だった。




いつから苦手だっただろうか…


確か、小学校に入った頃にはその傾向があったと思う。


朧げに小学校の風景が浮かんでくる。


思い浮かんだ風景の中では、通っていた小学校の校舎、校庭に教室の姿が朧げな色彩で懐かしく通り過ぎていく。

いくつも通り過ぎる風景の中で、小学校の時の記憶が蘇る。



そういえば、小学校に入った頃は授業で椅子に大人しく座っている事から苦手だった。隙があれば、あっちこっち走り回っていた気がする。学校の廊下を走っては先生に怒られ、虫を捕まえては女子が逃げていた。

元気が良かったで済むような話ではない。ほんとに落ち着きが無くて、授業をまともに受けていなかった。まともに勉強をしていなかった為か自ずと成績は悪く、勉強は躓く事ばかりだった。まず、足し算引き算から躓いたのだ。信じられないと思う人もいるだろうが、俺にとっては事実なのだからどうしようもない。勉強は初めから不得意でしかなかった。きっと、頭の作りから残念なんだろう。

かと言って運動が得意だったわけではない。走っても他の人に置いてかれ、投げてもボールはその辺で落ちる。鉄棒も、一回転するだけで精一杯。得意なスポーツは、取り敢えずなかった。きっと、運動に関する作りも残念なんだろう。


あの手紙を書いたのは確か小学校6年の頃だった。

卒業を控えたクラスでお決まりのタイムカプセルを作ることになり、一人ひとり未来の自分に宛てた手紙を入れる事になった。他にも何かを入れていた気がするが、興味が無かったのか全く覚えていない。そのタイムカプセルに手紙を入れる時になって、俺はふと疑問を抱いた。


このタイムカプセルを開ける時、俺はその場所に居るだろうか……


そう思った俺は、皆んながタイムカプセルに手紙を入れている時にこっそり自分の手紙をポケットへ隠した。先生が、皆んなが手紙を入れたかの確認をするなか嘘の返事をして…

その後、タイムカプセルが開けられたのか開けられていないのか俺は知らない。結果的に、俺の疑問は当たっていたことになる。




次は中学か。そう思うのと同時に中学校での様々な風景が浮かんでくる。


毎日通った校門前に昇降口、使っていた教室と小学校よりも大きかった体育館。

下手をすると小学校の記憶と間違ってしまいそうな、ありふれた学校の姿が朧げに浮かんでくる。



中学校に入っても、勉強も運動も変わらず出来ないままだった。

さすがにもう、椅子に座っていられないような事は無かったが、勉強の躓きは引き継がれて基礎が出来ていない俺は永遠に勉強ができないだろうと悟った気がする。

部活は一応運動部に入っていた。

部活に入った事でそのスポーツが得意になり…っと言う展開にはならず、部活での成績は地を這うもので、同じように成績が伸び悩んだ友達と放課後遊びに行く感覚でやっていた。

そういえば、部活でも毎年ある大会は面倒だった。もちろん、俺の担当はほぼ応援だ。そこで、応援にそう何人もいらないだろと思った俺は、こっそり途中で抜け出すか何だかんだと理由をつけて休んだりしていた。友達と抜け出して買い食いをしたのは、いい思い出ってやつだろうか。

もう随分朧げな思い出だ。

遊んだりぼんやりしたまま中学校生活を送り、飽きる頃には卒業を迎え進学が待っていた。




次に浮かんできたのが高校での風景だ。


うんざりする満員電車での通学、年季の入った校舎。中学校までとは違う雑然とした教室に薄汚い校舎裏。通っていると慣れてくるのかそんなものかと思う。

懐かしいフィルターがかかっているのか、中学校とも小学校とも違わないような気がしてくる。



俺は当然、バカでも入れるレベルの低い高校へ通った。

そこで驚いたのは、俺よりも成績の低い人がいた事だ。とは言え、俺も成績は底辺だった為どっこいどっこいではあったが、当時は世の中いろんなやつがいるんだなぁとぼんやり思った気がする。レベルの低い学校であったからか、勉強は色んな意味で少し楽になった。矢鱈と勉強が出来る人や俺とは違い普通に勉強ができる人がいない、同じ様な成績の人ばかりの中にいるのはなんだか変な感覚だった。友達とテスト前になって慌てて勉強をしたりとこれまでと同じ事をしていたが、これまでに比べて少し気持ちが楽になった気がする。

高校では部活には入らずに、放課後はもっぱら友達と遊んで過ごしていた。

あぁ後、バイトも短期のを数回ほどやった。短期でもバイトに行くのは怠かったが、面倒くさいとかのレベルだったと思う。実はそう思っていただけで、小さい頃からの続けられない性分がでていたのかもしれないが。

そういえば、あれも高校で…って、これ以上黒歴史を引っ張り出すのはやめよう。うっかりすると、次々と残念な思い出が出てきそうで慌てて記憶の蓋を閉じる。

ぼんやり授業を受け、テストでは成績に唸り、放課後には友達と遊んで帰る。そんな生活を3年続けるとまた、卒業が待っていた。



卒業後の進路では希望が無かった為、学校から勧められた会社へ就職した。

就職したからには、これまで遊んでばかりだったけど真面目に働こうかと思っていたが、そう長くは続かなかった。

仕事は3年や4年では終わらない。むしろ、それからが大事で長く続いていく。うんざりしないで続けていける人の感覚が、俺にはわからなかった。いくらお金が貰えるからと言って、働く事とは別だ。





でも、

もうその生活も終わりだ。


もう働かなくていいし、余計な心配や煩わしさは無くなる。

やっと、楽になる。



周りから、生活してきた部屋や仕事場、街の景色が消えていく。


その代わりに暗闇が広がると、どこか安心するような気がした。

……




暗闇に沈んでいくと思っていた意識が、ふと浮き上がるような感覚があった。

周りに広がる暗闇は先ほどのものとは少し違う気がする。それに、体を覆うような僅かな重みを感じる。

不意に僅かに瞼が開いた。差し込む光の眩しさに、思わずもう一度瞼を閉じる。

少し慣れたところで、またゆっくりと瞼を上げていく。眩しい光の中でぼんやりと物の形が見えてくる。目に映るのは白っぽい天井に壁、様子からすると何処かの病院の病室か。



これは…現実か?

いや、さっきまでのが夢だったのか…


俺は、生きていたのか……



小さく息を吐く。

病院のベッドで寝ている事が体感的に伝わってくる。



ここがあの世でないなら、俺は、生きているのだろうな……



助かった事に喜ぶところなのだろうが、さっきまで暗闇で安心していただけに拍子抜けとは違うなんとも言えない気分になる。



それにしても、眩しいな。



長い間寝ていたかのように、目に映る景色がまるで自ら白く発光しているかのように眩しい。よほど天気が良いのだろうかと思い、首をなんとか動かして光が差し込んでいると思われる先を見てみるが、窓の外は晴れているように明るいが天気まではわからなかった。全身の重さとは正反対に明るい景色をもっと見てみたい気もするが、指を動かすのも億劫でとりあえず天井を見上げた。



天井まで眩しいってなんだ…



もう一度、小さく息を吐く。





さて、これから



どうするか











最後までお付き合いいただき、ありがとうごさいました。

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