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第三世界:首輪をつけられしミューティーンズ

《ミューティーンズ:監獄要塞》


 この世界はとてもファンタジーだ。

 どれだけファンタジーかというと、花が歌い鳥も踊るくらいにファンタジーだ。


 しかし、そんな世界であっても戦いというものはなくならない。

 魔王ネメアの圧制を打倒する為、俺達は奴のいる要塞へと攻め込み遂に大広間まで追い込むことに成功した。


「覚悟しろネメア! お前を倒し、あたし達は自由を手に入れる」


 先頭のバーニーが声を張り上げ、それに応えるようにネメアはのっしりとこちらへと向き直る。


「愚かな家畜共め。自由によって滅んだ部族がどれだけいた? 我が管理しなければ満足に生きられぬ劣等種め」


 金色の毛皮に身を包むネメアの姿は、まさしく黄金の獅子であった。

 あまりの迫力にたじろぐも、キャスパーがそれを押し返すように一歩前に出る。


「言われるがままに生き、そして死ぬことに何の意味があるの!? そんなの、息をしたまま死んでるのと同じじゃないの!」


 それに勇気付けられるように皆も一歩前に出る。

 魔王ネメアはやれやれといったように顔を振り、こちらに対抗するように歩みを進める。


「度し難い野良共め。お前達には首輪ではなく、我が爪と牙を研ぐ栄誉をくれてやろう。歓喜に咽び泣き、震えながら死ぬがよい!」


 魔王ネメアの肉体が一回り大きくなり、その恐ろしい爪を牙をあらわにした。

 だが決意した俺達は恐れない。


「そのお前の首を剥製にしてやる!」


 魔王ネメアが動くよりも速く、バーニーが自分と同じ大きさの大剣を、身体を独楽のように回転させて斬りかかる。


「フン、その程度か」


 しかしその剣は魔王ネメアを傷つけるどころか毛皮に吸い込まれ傷ひとつ付かなかった。


「我が黄金の毛皮を錆びた鉄程度で刈れるものか! “裁定の鋏”を持たぬお前らには、万に一つの勝ち目もないわ!」


 そう、魔王ネメアの”黄金の毛皮”は物理攻撃を吸収する効果がある。

 そしてこの世界に錬金術や支援魔法といったものはあるが、相手を直接攻撃する攻撃魔法というものがない。


 だからこそ奴に攻撃するには毛皮を刈り取る為の”裁定の鋏”が必要になるのだが、それを手に入れるには一人の仲間が犠牲になる必要がある。

 俺にはそれを許せるだけの覚悟がなかった。


「先ずは一匹目ェ!!」

「危ないバーニー!」


 魔王ネメアが振り下ろす腕から、バーニーを庇う。


「チィッ、ケナシザルめが。我が爪を喰らっても平然としているか」

「これがあるから、俺も前で戦えるんだ!」


 この世界において防具というのは軽視されがちである。

 防具をつけるほど動きが鈍くなり、それなら回避に専念した方がいいという共通認識があるからだ。


 だからこの世界の皆は最低限、急所を守るだけの胸当てとかしかつけていない。

 おかげで露出がちょっと高く、目のやり場に困ることもあったりした。


 だがそんな世界だからこそ、前の世界で必死に覚えた”結界術”が役に立った。

 これが破られない限り、仲間の俺は身代わりになれる。

 

「バーニー、無茶、しないで」

「すまない、やはりあたしの剣は通じなかった……」


 錬金術師であるコマがバーニーを立ち上がらせ、別の剣を持たせる。


「皆、これが最後の戦いだ! 行くぞ!」

「ああ! 勇者が倒れる前に決着をつけるぞ!」


 俺が魔王ネメアの攻撃を防ぐ中、隙をついてバーニーが毒液がたれた短刀で斬りかかる。

 確かに”黄金の毛皮”は物理攻撃を防ぐが、状態異常までは無効化できない。


「いくよ、ランダマイゼーション!」


 キャスパーの状態異常魔法が魔王ネメアにかかる。

 複数の状態異常がランダムにかかる魔法である。


「クラシカルボム」


 さらに錬金術師のコマも複数の状態異常を発生させるポーションを投擲し、魔王ネメアには毒・感電・火傷・冷傷・腐食・自傷の6種類もの状態異常がかかった。


「フハハハ! この程度で我を本気で倒せると思っているのか?」


 確かにかかった状態異常の数は多いものの、ひとつひとつのダメージは低い。

 バーニーの攻撃が500ダメージだとしたら、状態異常は1つにつき10ダメージ……つまり、60ダメージにしかならない。


「そして……フン!」


 ターンの経過による自動治癒によって魔王ネメアの体力は少し回復し、さらに状態異常も1つ解除される。

 状態異常の中には敵の行動を制限するものがあるものの、この自動治癒によってハメ殺すということができない。


 俺は長期戦の覚悟をした。


《60ターン後》


「ハァ…ハァ……ど、どういうことだ……どうして我が追い詰められている…!?」


 長期戦の結果、ネメアの魔王は瀕死にまで追い込まれていた。


「簡単だ。お前が軽視していた状態異常こそが、お前を追い詰めた原因なんだよ」


 この世界において状態異常は重ねがけが可能である。

 そして普通ならば放っておいても消える状態異常でも、重ねがけによって自動治癒までの必要ターン数がリセットされる。


 その結果、いま魔王ネメアの身体には恐ろしい数の状態異常がかけられている。


 毒60スタック・猛毒24スタック・感電37スタック・火傷51スタック・冷傷49スタック・腐食33スタック・呪い8スタック・寄生キノコ18スタック・霊傷7スタック・自傷54スタック・挫傷58スタック。


 合計429スタック……つまり毎ターン4,290ダメージだ。

 しかもまだ増える。


「ゴホォ!……ハァ…ハァ……だがお前を倒しさえすれば…ッ!」

「無駄だ!」


 魔王ネメアが力を振り絞り俺を攻撃するが”結界術”で防ぐ。


「ば、馬鹿な……そんな小さな身体で、どうしてそこまで持ちこたえられる!?」

「通常、”結界術”で蓄えられたエネルギーは攻撃に転換するが、俺はそれも防御に回している。つまり、お前が攻撃すればするほど、攻撃を無効化する回数も増加するんだ!」


 なんなら後ろからバーニーとかに軽く殴ってもらえばゲージが増えてずっと無敵とかもできる。

 流石に今回はさっさと倒したいので攻撃にまわってもらってるけど。


「ゴフッ……は、話を……」


 断る、と言う前に魔王ネメアが倒れた。



「勝った……勝った、のか?」


 バーニーが恐る恐る魔王ネメアに近づき剣でつっつくも、毒の状態異常が発生しない。

 つまり、世界に平和が訪れたということだ。


「やった! やったよ! あたしら勝ったんだ!」

「ありがとう勇者! 君のおかげだ!!」

「ん……ありがとう、勇者」


 バーニーは抱きつき、キャスパーは頭を俺に押し付け、そしてコマは大胆に俺の顔を舐めてきた。

 ここに来るまで28日……俺が死ぬまでまだまだ時間がある。

 もう俺を止められるものは何もない。

 さぁ悔いのない至福の日をを堪能するぞ!

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