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余命15日目の夜会話

《凜音視点 15日目:大きなテントの中》


「えー、それでは残り15日でどうやって魔王を倒すか会議をしようと思います」

「移動時間だけで15日かかるのでは……」


 あれから魔王の情報を集めつつ、自分を鍛えながら旅を続けてきた。

 勇さんが死ぬまで残り15日ということで、こうやって作戦会議が始まったのだが……。


「移動しながら準備を整えればいいじゃない! はい凜音さん、今のところ判明してる魔王の情報は?」

「魔王ヘカトン、100の腕で剣と盾を使うそうです」

「……腕が100本もあるとか不便じゃね? それ動けんの?」

「ま、まぁ比喩表現かもしれないですから。とにかく本体を攻撃する為に腕を1つずつ切り落とそうかと

「100本ある腕を切り落とすより2本しかない足を切断して動けない状態を眺めて失血死を待つのは? あ、腕で這いずってくるか」


 多分、本人は至極マジメに作戦を考えているんだろうけど、出てくる案が容赦のないものばかりだ。

 異世界転生しすぎて人の心をなくしてしまったんじゃないかと心配になってくる。


「そうだ! ニェちゃまの風呂の残り水で攻撃力が2倍になるんだから、ダイヤ様の水も使えば―――」

「ひっ、ひぃ!」


 ダイヤ様が勇さんから逃れるように私の服の中に隠れる。


「ダイヤ様! 貴方の使徒の為なんです! どうか、どうかここは! 一肌脱いでください!」

「そもそも身体を洗った水を使わないでくださぁい!」


 尤もな話である。

 多分、こういった捨てちゃいけない常識を捨ててしまわないと、1ヶ月で魔王を倒せないのだろう。


「こんな無駄話してるくらいなら、どうやったらお前がモテるか話し合った方が建設的でシ」


 勇さんが暴走してきたからか、ニェ様も口を出してきた。


「はぁぁあああああ!? モテようと思えばモテられるんですけどぉぉおおおお!?」

「じゃあお前、この15日でどれだけフラグ建てたでシ?」


 さっきまで勢いよく喋っていた勇さんの動きが止まった。

 しばらくして、錆び付いたロボットのような動きで口を開く。


「ほ、ほら、今回の俺らって見学者なわけでして、勝手にフラグとか建てたらさ、どうかと思うんすよ」

「そういえば魔王討伐の旅をしてる凜音は皆に好かれてるでシね。修行しながらクエストをこなしつつフラグも何本かあるでシ。……で、魔王討伐もクエストも修行もしてないお前は何してたでシか?」

「ッスゥー………勉強、ですかねぇ」

「勉強した結果、どうしてお前がモテないか分かったでシか?」

「顔!!!!」


 あまりにも堂々とした宣言で、思わず頷くところだった。


「ファイアンサーでシ? 間違ったら次の異世界転生ではEDにするでシ」

「テレフォン! テレフォンをお願いします!」


 そう言って勇さんが川で溺れた子猫が助けを求めるような視線を送ってきた。


「多分、勇さんは魔王討伐の際に必要なクエストだけをクリアしてるんですよね? 必要なことを、必要なだけ。余裕がないから、そこに恋愛という要素が入り込まず、人と接しないから問題があるのではないかと」

「そう! そういうこと! 余裕がないとダメなの! やっぱ1ヶ月じゃ無理なんですって!」


 なんだろう、この人の場合は1ヶ月が1年になっても、やり込み要素みたいのに夢中になって失敗する未来が見える。


「じゃあ次の余命は2ヶ月にするでシ? 失敗したらその次の異世界転生ではTSさせるでシ。もちろん相手は男限定でシ」

「あー! 剣でしかダメージ与えられないならどこまでが剣の定義なのか調べないとなー! やっぱ検証って大事だよなー!」


 ニェ様の提案に返答することなく、勇さんは逃げるようにテントの外へ出て行った。

 嫌とは言わないあたり、わりと本気で悩んでいるのかもしれない。


「チッ、逃げたでシか。まぁまだチャンスはあるでシ」

「そのチャンスは、モテさせることについてですか? それとも性転換させることについてですか?」


 そう尋ねるとニェ様がニヤリと笑う。

 この神様が私の担当じゃなくてよかったと本気で思った。

 そして勇さんがテントの外に出て行き、身の安全を保証されたダイヤ様が服の中から出てくる。


「ニェ先輩、僭越ながら私からも。彼は恐らく共感性が乏しいのではないでしょうか? 人の喜びが共感できない、痛みを共感できない。だから人とズレてしまう。だから誰かと一緒になることができないとか」

「てめー、一般論でアイツを語るなでシ。ブチ殺すでシよ」

「ひぇっ! な、なんですか。何がダメだったんですか!?」


 ダイヤ様が折角出てきたというのに、また服の中に戻ってしまった。

 今までずっと威厳のあった女神様だったというのに、今はとても可愛いという感想しか出てこない。


「―――といっても、何も知らずに評価しようとしたらそうなるでシか。いい機会でシ、どうしてニェがアイツを選んだのか、主人公にしようとしたのか教えてやるでシ」


 ニェ様は気だるそうに身体を起こし、とつとつと語りだした。

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