えっ、異世界転生したのに一ヶ月以内にエッチしないと死ぬんですか!?
もしも実際に異世界転生したならば、普通はドキが胸々……いや、心が躍るはずだ。
なのに自分の心が跳ねるどころか静かに正座しているのはきっと目の前にいる神のせいだろう。
「……なんでシ、その目な」
「いやらしい目ではないです、神に誓って」
なにせ宙に浮いた丸い肉の塊から何本もの触手が蠢いているのだ。
これで興奮できるほどヘンタイのレベルは高くない。
「それにしては目線が不自然でシね」
「それならせめてもうちょっと人の形に似せてもらえないでしょうか、頭がおかしくなりそうです」
ゲームだったら毎秒正気度が乗算で減っていってるレベルだ。
「定命のやつは不便でシねぇ。これならどうでシか?」
そういうと肉の神様は触手から口のようなものを作る。
問題は口を開いていないのに声を発しているところだ。
「あの、それどうやって喋ってるんでしょうか」
「空気の振動でシ。ほら、身体がプルプル震えてるでシ」
「じゃあその口は何なんですか?」
肉神様の触手にある口を開けると、中にあった目玉数個と目が遭った。
「目は口ほどに物を言う、でシ」
「これだから神様ってやつは!」
あまりにもヤバイ光景で正気度が更に減った。
たぶんそろそろ狂う。
いや、もうこの状況が幻覚なのかもしれない。
「ナレは神をなんだと思ってるんでシュか」
「ひとでなし、なのでは」
ソースは北欧神話。
いや別に他のところの神話でもやらかし案件は多数あるけども。
「それで、冒涜的な神様が自分に何の用で」
「うむ。ところでお前はモテモテになりたいと思ったことはないでシか?」
「死ぬほど思ってましたけど」
死んでもモテたいと思うのは男の子のサガというものだろう。
実際もう死んでるけど。
つまり、あとはもうモテるだけ?
「うんうん、そう言うと思ってたでシよ。そんなお前にチャンスをやるでシ」
「それはいわゆる、異世界転生ってやつですか!?」
「しかもお前が好きそうなやつでシ。その名も”一ヶ月以内にエッチな事をしないと死ぬ異世界転生”でシ」
……パードゥン?
なにそのエッチしないと出られない部屋の異世界バージョン。
「あの、なんでそんな事を……?」
「普通にエッチな展開じゃ駄目なんでシ。一緒に旅をして、危機を乗り越え、日常を重ね、そして結ばれるという過程を存分に楽しみたいんでシ」
分かるわ、普通のRPGにあるちょっとした匂わせ関係とか大好き。
エッチなゲームじゃ摂取できない貴重な栄養分である。
初めてこの神様に共感できた。
「というわけで、頑張ってエッチしながら魔王を倒してくるでシ」
「って問答無用っすぁああああああ!?」
邪神の触手が俺を飲み込み、そして意識を失った。