九十三幕 幕間/出会い
灰色の空。
荒んだ心の風景を現実世界に表しているような寂しい空の下で仰向けに昼寝をしていた。
本来であれば生徒はおろか教員ですら立ち入ってはいけない屋上。
教員室に保管される鍵を使わなければ、誰も入ることの出来ない場所であるが俺は唯一の侵入手段を偶然にも入手していた。
それは教員室の鍵と同じ屋上へ繋がるもう一つの鍵。
中学に入学して早々、香織と同じ空間に居ることを避けるべく、一人になれる場所を求めて屋上へと向かった。しかし、鍵が掛かっているため外に出ることが叶わなかった。
それから暫くドアの前に広がる小さな空間を陣取り、ひっそりと一人で昼食を取っていたある日、隅に置かれていた廃棄机の引き出しから古い鍵を見つけた。
それが何処用の鍵であるか、ロールプレイングゲームをしている者なら一瞬で察し、ドアを開けないか試しに鍵を差し込んでみるであろう。
案の定、その鍵は屋上へと繋がるもう一つの鍵であった。
侵入手段を得た俺はそれ以降、机の中に隠してある鍵を用いて度々屋上へと侵入してはお昼休みの時間を一人で過ごす日々を送っていた。
それに伴い、俺の心は日に日に嫌な尖りを帯びていった。
子供っぽく未だに失敗をズルズルと心の中で引き摺り、香織が居るという理由でクラスメイトとの関わりも殆ど断っていた。
部活動に属していたが初めの頃はまともに顔を出さず、放課後もサボって事あるごとにここで過ごすような暗い生活を過ごしてしまっていた。
……それから約一か月経ったある日。
俺は彼女と出会った。
『あの~寝てます?』
ショートに切り揃えた目立つ葵髪が一瞬だけ開いた瞳の隙間から見える。
『おーい。おーい』と何度も執拗に呼び掛けて起こそうとしてくることに苛立ちを覚える。
『……誰、あんた』
『誰って……君、三津谷陽一君だよね』
『そうだけど』
『私、幸村小春。小学校は君と同じなんだけど』
『クラス、一緒になったことあったっけ?』
『ない……と思う』
『じゃあ、知らない』
昼寝休憩に再び戻ろうと目を閉じる。
『もうお昼休み終わっちゃうけど』
『放っておいてくれ。五分前の鐘が鳴ったら適当に戻る』
『いや、もう鳴ったけど』
『……』
授業にサボると先生の目が厳しく怪しまれることを危惧していた俺は必ず授業前にはクラスに戻ることを心掛けていた。
『へ~意外と真面目?』
『先生から変に目を付けられたくないんだ。てか、どうやって入った?』
『普通に開いてたけど?』
普段は外に出た後、誰も入ってこないよう鍵を掛け直して念入りに警戒していたが、不注意にも鍵を閉め忘れていたらしい。
『てか、君こそどうやって入ったのここ。普段は鍵掛かっているよね』
『さぁ、どうだか。悪いけどもう戻るからさっさと出てって』
『イジワル……じゃあ、明日またここに来るから話してよ』
『やだ。来るな』
『ええ~そんなこと言っていると先生に屋上使っているのバラしちゃうよ』
『……好きにすれば』
『どっちの意味かは分からないけど、好きにさせてもらうね。じゃ、またね』
陽気な笑顔で一方的にそう告げると一足先に屋上から出て行く。
『なんだ、アイツ』
小学校は同じと言えどもほぼ初対面に等しかった。
俺が覚えていないだけで数回は顔を合わせて話したことがあるのかもしれない。
そう思わせるのは彼女が去り際に見せた笑顔があまりにも印象深かったから。
『……眩し』
雲の隙間から差し込む一筋の陽光に照らされながら俺はゆっくり身体を起こした。




