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九十幕 IF/文化祭・準備

 文化祭の準備期間が始まって早三日目の金曜日。

 明里達のクラスは演劇を出し物と決めたため、小道具班、衣装班、役者班の三つに別れて各々の仕事を独自で進めていた。

 

 実際の会場は教室ではなく、別棟の講義場を模した記念館ホールを使用する手筈となっている。

 本学園生徒総数延べ600人の収容可能なスペースを有し、尚且つ200人以上の外部入場者も入れる規模の施設。ステージに立つと奥行き感のある構造で両サイドにマイク用スピーカーが付いていることからちょっとしたコンサート会場にも捉えられる。

 実際的な話。その講義場は今回のライブ会場でもある。


 蘭陵女子学園には今や話題沸騰中のアイドルグループであるSCARLETの三人が在籍しており、学園内にも彼女達を応援するファンは少なくない。

 特に明里のクラスには柚野が居ることもあってか、比較的ファン数は多い。彼女達は外でもアイドルであり、学園内でも有名なアイドルとして学年中に知れ渡っている他、他学年や附属中学の生徒にもその名を轟かせている。

 そんなファンである生徒達の要望もあってか、文化祭の最終日には蘭陵女子学園祭限定のSCARLETライブを校内で実施することが予定されている。

 教室の中央でクラスの女子生徒達が和気藹々と小道具を作成する傍らで二人の女子生徒がメジャーと筆をそれぞれ握って明里の身体を隅々まで観察し尽していた。


「ねぇねぇ、三津谷さんは最終日のステージにサプライズ出演とかしないの?」


 衣装係でメジャーを持った手芸部の三橋夏南(みつはしかな)がバストとヒップのサイズを図りながらふと、そのようなことを尋ねてくる。


「今の所、そんな予定はないかな」

「え、そうなの?意外」


 そして、もう一人。少し離れた位置で明里の全体像を掴みながら衣装のデザインをスケッチブックに描き込む美術部の真鍋美悠(まなべみゆ)が同じ外部受験生組で一年生の頃から仲の良い友人である夏南の質問に呆れて注意を促す。


「こらこら、それを聞いたらサプライズの意味ないでしょ。仮に決まってたとしても言える訳ないじゃん」

「そっかー。ごめんごめん」

「いや、本当にそんな話は一切ないから」


 SCARLETのライブにゲスト出演といった話は今の所、明里の下には何も届いていない。

 それを受ける最終的な決定権は陽一の意志次第であるが、無論断るつもりでいる。


 明里をよく知っているクラスメイトならまだしも、校内の純粋なSCARLETファンからすれば異物も同然。下手に波風は立てたくない陽一はこのライブに関して、如何なる理由があろうとも観る側に徹すると決めている。


「そうなの?てっきり、文化祭では三津谷姉妹のパフォーマンスが観れるんじゃないかってワクワクしてたよ」

「あ、それ結構噂になってるよね。でも、C組の香織ちゃんは否定しているみたいだけど」

「え~やったら絶対に盛り上がるのに」

「こっちの演劇もあるし、そんなポンポンと何度もステージに立っている余裕はないって」


 文化祭は初日と最終日の二日間にかけて行われる。

 そして、監督である柚野率いる2ーAクラスの公演予定時刻は以下の通りであった。

 初日は午前中最後のプログラムに入れられ、最終日は午後のメインステージであるSCARLETライブの一つ前の公演が予定されている。それぞれあまりにも好都合過ぎる時間帯配置。

 

 これには何かしら裏で仕組まれているんじゃないか……陽一の予想通り、ある人物が裏で仕組んでいた。

 犯人の名は安達春乃。

 生徒会の一員であり記念館ホールのイベントプログラムを作成した張本人である彼女こそがA組の演劇時間を決めた人物である。

 

 これには流石に記念館ホールを使用する他の文化部やクラスが猛抗議に出るかと思いきや、不満の声を挙げた生徒は一人たりとも居なかったという。

 その主な理由がSCARLETの前座を一様に拒否したのが最もたる要因らしく、その譲歩として初日の午前中最後のプログラムに2ーAの演劇が割り当てられた。

 

 陽一自身、この時間帯配置を知った瞬間に(あ、これ前座だ)と気付いたものの、春乃の考えを直ぐに理解するとすんなり受け入れた。


「でも、最終日は私達の演劇を披露して、SCARLETのライブだよね?明里ちゃん。そのまま、衣装姿でライブに出たりも出来るんじゃない?」

「それナイスアイデア!」

「いやいや、勝手に盛り上がられても困るって。そもそもグループが違うし」

「そうだよね。何ならポーチカの二人が主演の演劇ってだけでもかなり凄いことだし、これ以上の贅沢はあんまり言っちゃ駄目だよね……」

「別に贅沢っていう程じゃないでしょ」

「いやいや、そんなことないって。クラスの演劇、学校中で物凄く噂されているし」

「そうなの?」


 実際そうであった。

 陽一の耳にその情報が入り込まないだけで2ーAクラスの演劇はSCARLETライブに次ぐ話題性が校内で広がりつつある。

 『今や話題沸騰中の新進気鋭アイドル【ポーチカ】の三ツ谷ヒカリこと三津谷明里と楢崎春こと幸村小春が主役を演じる【美女と野獣】。その監督を務めるのはSCARLETの天然爆弾と知られる三崎柚野!!』といった謎のキャッチコピーが口頭で出回り、学園中の多くの生徒に演劇の詳細が知れ渡っていた。

 それにつれて、演劇に対する期待度も大きく膨らんでいる。


「なんか、決まった時は他人事みたく盛り上がってたけど……ここまでくると他人事じゃなくなるよね」

「分かる。私が作った衣装を皆に観られるってなると真剣に取り組まなきゃって思うよね。部長も気を遣って、暫くはこっちに専念していいって許可くれたし」

「私も同じく」


 お互いに衣装作成と衣装デザインを一から任された身として演者とは異なるプレッシャーを肌で感じていた。

 所詮はクラスの出し物でお遊び程度の演劇……といった価値観が一転して、今や大注目されているメインプログラムの一つとして位置付けられていることに陽一も内心でプレッシャーを感じていた。


「まぁ、取り組もうにも……未だ台本すら手元にないって状況が三日も続いているけど」


 監督で構成作家(シナリオライター)も担う柚野が演劇用のシナリオを書き始めて三日。

 締切日を今日の放課後までと自ら指定し、今も静かなコンピューター室で演劇部で脚本も経験している渚とサポート役の委員長の三人でシナリオの構成を練っている最中であった。

 この間にある程度の衣装デザインや小道具の作成を推し進め、週末明けから残りの五日間で演劇練習を行うことを予定しているが……予定通り進むか危うい。


「柚野ちゃん大丈夫かな。凄くプレッシャー感じてたけど」

「昨日とかも放課後に三人で居残って相談してたっぽいよね。それにSCARLETの活動で土日両方ともライブがあるらしいし。今日完成しなかったら、週明けに間に合わないんじゃ……」

「みんな、お待たせ!」


 教室のドアが勢いよく開かれ、大きく息を切らした柚野が印刷した台本を持って明里の前に立つ。


「あかりん、これ台本」


 手渡された30ページくらいある内容をペラペラとめくって内容を拝見する。

 演劇の与えられた時間は約一時間。

 その時間内に収まる内容を構想し且つオリジナルの『美女と野獣』要素が詰まった面白く綺麗な作品の出来に陽一は読んでいて胸を躍らせた。


「これ考えたの、本当に柚野さん?」

「勿論だよ!……と言いたい所なんだけど、約二名の意見が割と強く反映されているので……私の功績はこれっぽっちだよ~」


 自信無さげに指で軽く摘まんだ仕草をしてみせる。

 その意見を反映させたという約二名の人物が後から入ってきた。


「お待たせ明里」

「さぁ、早速練習しようか。お姉ちゃん!」


 情熱に似た何かを胸に秘め、演劇に対して監督よりも熱い姿勢を示す渚と香織が明里に手を差し伸べる。

 同じクラスメイトで演劇部に所属する渚が気合いを入れるのは陽一も理解出来た。

 しかし、他クラスで演劇には一切関係のない香織が隣に立っていることには疑問を抱いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりSCARLETライブは外せないですよね! 陽一くんは異物だから出ないって言ってるけど果たしてどうなるのか。ちなみに私は見たい派です。
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