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八十四幕 IF③

 三津谷陽一、年齢は二十歳で都内の大学に通う大学生二年生。

 明里と香織の従兄弟に当たる存在で大学に通うため、実家の青森から上京して一人暮らし中。

 身長は180㎝と高く、明里目線から見ると線が細くて足が長い上に容姿も綺麗に整っている美形な男性に映る。俺が亜種劣化版の三津谷陽一だとすれば、こっちはその欠点を補った存在。


 これぞ成長した自分の理想像に当てはまるルックスに羨ましいと思う一方で、どうして性格面はこんなにもチャラチャラした陽キャ系野郎に変貌してしまったのかと嘆くばかりであった。


「二人共、今日は俺が奢るから好きなものを頼んでいいよ」


 メニューを手渡し、笑顔でそう告げる陽一にカッコイイとか微塵と思えなかった。なんでかな?

 それはさておき、駅前のカフェへと連れられ、お昼を奢ってもらうことになった。

 俺もここに居る陽一と少し話してみたかったし、こっちの世界を改めて把握する手掛かりにもなるので反って好都合であったが……香織は彼と食事をするのが物凄く嫌そうだった。


「お姉ちゃん。私、この人と一緒にいるの嫌なんだけど」

「ありゃりゃ、相変わらず香織ちゃんは手厳しいな~。そんな嫌われるようなことした覚えないけど」

「生理的に無理です」

「酷いな~ホントに」


 これに関しては流石の俺も陽一に同情した。

 嫌いな理由がその一言で片付けられては関係性の改善する糸口は断たれているも同然。

 

「ま、俺は二人のこと好きだからいいんだけどね」

「……キモ」

「おやおや、香織ちゃん。そんなこと言っていいのかな?」


 鞄をごぞごそと漁り、中から数十枚の写真束を取り出して机に並べる。

 その一枚一枚を確認してみると見覚えのある衣装を着た香織とヒカリの姿や笑顔でポージングを取っているヒカリ……といった昨日のライブ時のステージでの光景が観客目線で現像されていた。

 

「これって、昨日のライブですよね?」

「そうだよ。麗華さんにカメラマンとして呼ばれててね。特設の観客席から二人の可愛い姿をバッチリでこれで収めておいたよ」


 こっちの世界の俺……二人のこと好き過ぎじゃね?

 写真をよく拝見してみると二人の良さが最大限活かせるアングルでカメラの中で物語る最高の絵がしっかりと切り取られている。単にカメラの技量が高いからとかではなく、二人の良い部分をよく知っていて尚且つ好きだという気持ちを全面に押し出さなければ撮れないような写真ばかり。

 この陽一は自分の気持ちに真っ直ぐで心の底から二人を応援してくれる良い人なのかもしれない。


「どうだい香織ちゃん、お気に召すものはあったかな?」


 物凄い食いつきで写真を一枚一枚凝視する香織に声を掛けるも真剣な眼差しで「黙ってて」と一蹴される。「はい…」と萎縮した陽一はしょんぼりしながらメニューを開いて、何を頼もうか考え出す。

 そんな彼にふと尋ねる。

 

「陽一君ってカメラ得意だっけ?」

「いや。明里ちゃんがポーチカに入って、ジルさんからカメラマンとして雇われるまではカメラなんて触れたことはなかったけど……二人の愛を最高の形で残そうと思ってたら上達してた。まさに愛の力だね」

「まぁ、それはさておき」

「明里ちゃんも平常運転~」

「陽一君ってジル社長とどこで知り合ったの?」

「あれ、前も話さなかったっけ?」

「いいから。お願い」

「分かった。確か、ジル社長と会ったのはSCARLETライブを観た後に偶然にも明里ちゃんと唯菜ちゃんに遭った日。俺を二人に近づくファンか、ナンパ野郎だとジルさんが勘違いして注意を促してきた時が出会いで……その後にも渋谷で会って、話していたらポーチカ専属のカメラマン採用された」


 ……どうしよう。話が色々と変更され過ぎてて反応に困る。

 何一つとして俺と被る要素がこっちの陽一にはない。


 むしろ、ヒカリで過ごした時の方はほぼ完全に起きた状況が一致しているような気がする。

 それを確かめるにはヒカリとの交流が深い唯菜やルーチェ達と会わないといけないが、今日のところは明里について探るしかないようだ。問題はどう探るか……だ。

 香織には完全に懐疑的な目で見られてしまい、下手に問いかけることは出来ない。


 さっきうっかりにも正体を明かしてしまいそうになったが、こっちの世界での自分(陽一)が居たと知ったことで明かすことを躊躇った。名乗った所で余計に信じてもらえそうになく、冗談だとしか捉えられないだろう。なら、聞く相手は目の前にいる。


「ねぇ、陽一君。昔の私と今の私ってどんな感じかな?」

「え、見た目的に?それとも性格的に?」

「出来ればどっちも教えて欲しいかな。今度、雑誌インタビューがあって、そこで自分のことを話すんだ。それで他人から見た子供の頃の印象とか教えて欲しくて」

「へぇ~いいよ全然。まぁ、この話はちょっと長くなると思うから先に注文してもいいかな?お腹ペコペコでさ」

「じゃあ、私も……って、香織いつまで写真見てるの」

「お姉ちゃんと同じものを頼んでおいて」


 依然と写真から目を離さない香織が見ているものにチラッと視線を移す。

 かなり多くある写真の中でもヒカリだけが写された写真ばかりを厳選している。

 それも可愛いポージングの時ばかり。

 あれ、写真で見るヒカリってこんなにも可愛いのか……と自画自賛した。

 

「あの~香織ちゃん。それ一応、この後麗華さんに送る用の物だから」

「データで送ればいいじゃん。いつもみたいに頂戴!」

「おねだりしてくれたらいいよ」

「するかバカ!キモイから全部回収」


 写真の上に覆い被さるように身体でカバーするとその隙に写真を全て回収し、手際よく鞄に全てしまう。

 

「ま、元からあげるつもりだったからいいけど。それより昔の明里ちゃんだっけ、えっと……今と同じで明るくて穏やかで落ち着きがあるのは変わりないかな。昔はかなり人見知りで香織ちゃんの方がお姉ちゃんぽかったとか」


 それは意外な事実だ。

 

「その話……私も参加する。てか、私の方がこっちよりも正確にお姉ちゃんを知っているし」

「あの、先ず注文を……」

「勿論そうだとも。でも、香織ちゃんが知らない明里ちゃんも俺は知っているから。語れることはたくさんあると思うな」

「ふん。話してみなよ」


 さっきから何でお前はそんなにも高圧的な態度なんだ、香織。

 年上のお兄さんだろうと容赦なく嚙み付く。

 物怖じしないのがこっちの香織なのだろうか。

 そんな二人のヒートアップした三津谷明里について語る会にお昼ご飯を食べながら、参考がてらに耳を傾けることにした。

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