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八十幕 序章/IF⑧

 白いモヤが晴れた先には見覚えのない赤い煉瓦製で出来た綺麗な学校が奥に控えていた。

 薄っすらとぼんやりしていた意識がはっきりと現れるにつれて、自分が居る場所が直近の記憶と齟齬をきたしていた。

 

「え、ここどこ?」


 見知らぬ正門の横に立ち、通り過ぎていく女子学生らに『ご機嫌よう』と漫画やアニメの世界でのお嬢様学校でしか聞き及ばない上品で丁寧な挨拶を受ける。そんな仕草を見よう見まねで倣い、ぎこちない笑顔を浮かべて『ご、ご機嫌よう』と返す。

 そこで自分の声が男ではなく女の声……ヒカリであるとそこで気付く。

 

「何でヒカリの姿なんだ?それにあの制服って……蘭陵女子の制服だよな。つか、俺も着てるし」


 可愛いフリルの付いたスカートに半袖で上品なワイシャツ姿。見慣れない革製の鞄を手に持ち、まるで自分がこの学校の生徒であるかのような格好を冷静に確認する。


「なんか、もう色々と訳分からなくなってきたが、一旦記憶を整理しよう。俺は確か……SCARLETライブに行って、ゲストとして参戦して、香織のソロステージを見ようとしたら……」

「私のソロステージが何だって?」


 噂をすれば偶然にも正門前で同じ制服姿の香織と鉢合わせる。


「香織!ナイスタイミング」

「え、なに?」

「なぁ、何で俺がこの学校の制服着てるのか、教えてくれない?」


 他人には聞かれないよう、正門の端っこに香織を連れてヒソヒソ声で話す。


「何でって、それはお姉ちゃんがこの学校の生徒だからでしょ」

「いつ俺がここの生徒になったんだよ」

「……一年半くらい前から?」

「な訳あるか!俺は中原学園に通っている筈だろ。お前と同じ学校なんて有り得ない!」

「さっきから何を訳の分からないことを言い続けているの?第一に、お姉ちゃんが私の学校に通いたいって言って受験したんでしょ」

「それはない」

「あったから、ここに居るんだよ。それにさっきからその口調はどうしたの?俺っ子気質にでも目覚めたの?」

「いや、訳の分からないのはお前の方で……んん?」


 さっきから全然話が嚙み合わないどころか、香織は俺をお姉ちゃんと呼んでいる。

 反応を見る限り、噓を吐いている感じでもない。

 まるでずっとそう呼び続けているような親しみ感が妙にある。


「ちなみにだけど、俺……じゃなかった私は十七年間、香織のお姉ちゃん?」

「うん」

「アイドルの三ツ谷ヒカリという顔を持ってる?」

「うん。お姉ちゃんが」

「唯菜との関係性は?」

「信頼し合えるパートナーであり親友?かな……てか、何で私が答えているの」


 そう尋問している間に学校の方から時間を知らせるチャイムが鳴り響く。

 

「あ、早くしないと朝のホームルーム始まっちゃうよ。二学期初日から遅刻なんて私やだよ」

「うん、行ってらっしゃい」

「何を馬鹿な事を言ってるの!昨日のライブで疲れて頭がおかしくなっているのは分かったから、今は早く登校するよ」


 正門を通り抜け、記憶上初めて踏み入れる学校内の敷地を無理矢理手を引かれながら駆けていく。

 下駄箱に着くまで俺は冷静にこの状況を見極めるべく、ある一つの仮定を立てた。そして、その仮定が現実であると下駄箱の前に貼られた五文字の名前から確信した。


 恐らくだが、この世界は俺の居た世界ではなく、似たようで根本的に異なる別世界なのであると察した。

 

 この世界に三津谷陽一は存在しない。


 存在するのは三津谷明里という知らない自分であった。

三章をこれから読む方へご了承して頂きたいことがあります。


すみませんが、三章はあまり『アイドル』をしません。

少し本作品の主題とは離れたストーリーになりますので、ご了承ください。


結論だけ言いますと、三章は四章ための準備回です。

簡単に読み進めてしまって構いません。

その代わり四章ではしっかりとアイドルをすることを宣言します。


それではまたどこかの後書きで。

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― 新着の感想 ―
変身中にTSリングが壊れると強制的に精神が入れ替わって元の体なくなるっぽいけど、何もしてないし何も知らない明里ちゃんが勝手に別世界に飛ばされるのかわいそすぎる。
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