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三幕 序章/変身③

 帰宅途中の駅でドイツ製の外車に載せられた俺は屈強なボディーガードマンの二人に挟まれる形で初めて乗る高級外車に胸を踊らせていた。

 ワクワク感もしないのに動機が止まらず、ただ座っているだけなのに変な汗が止まらない。


 うん。強がっていたけど、無理だ。

 胸を躍らせているんじゃなくてこれは恐怖。


 左右からの異様な圧力に怯えているだけなのだと認めざるを得ない。

 それに耐えること約三十分。

 ちらりと見える外の景色が多くのビルが聳え立つ大都会へと様変わりしていたことに気付く。

 見覚えのある通りの風景を頼りに頭の中で位置情報を検索する。


 ここってもしかして原宿?


 正確には原宿と表参道の中間ある明治神宮前駅の付近であると駅の看板から察する。

 片側三車線の一番左端に車線変更し、そのまま小路へと入り、直ぐ近くにある五階建てくらいの建物の地下駐車場へと入っていく。

 狭い駐車場スペースにもう一台、高級外車が見えるとその横に車を停めた。


 完全停止した直後、ボディーガードマンの二人が真っ先に両サイドのドアから出る。

 重圧感から解放された俺はホッと息を吐きつつ「さぁ、こっちだよ」という声に従って車から降りる。

 建物の中は思った以上に広くはなく、先の駐車場と同様にスペースにも限りがある。

 エレベーターが開き、降りると直ぐ目の前に玄関らしき光景が目に入る。

 

「あぁ、靴は脱いでね」


 うん、玄関だった。

 指摘通り、靴を脱いで部屋に上がる。


「ジ……いえ、ボス。我々は待機室にて休憩させて頂きます」

「ご苦労様。いつも通り、ビルの警備を頼むよ」

「承知致しました」


 三人のボディーガードマンはエレベーターから降りず、そのまま下の階へと降りていく。

 彼らがいなくなったことであの圧から解放され、少しばかり肩の荷が降りた気がした。

 いやぁ~怖かった。

 中身はいい人なのだろうが、見かけに圧倒され過ぎた。


「どうしたんだい、早くこっちに」


 いつの間にか廊下の奥へと進んでいった銀髪碧眼イケメンが消えていたのに気付くと、彼の声がした方へと歩く。廊下の奥、そこには真っ白な綺麗な壁を基調としたリビングが広がっていた。

 事務所の社長室を想像すると執務机と応接用の並び合った黒いソファーが簡単に思い浮かぶが、目の前の光景はイメージとはかけ離れたものだった。


「ここは僕の事務所の社長室兼生活部屋なんだ」


 廊下を出て右側には壁に埋め込まれた超絶綺麗な画質のテレビに、ベッド代わりにもなりそうなフカフカのソファ。その反対側にはダイニングテーブルとキッチンや冷蔵庫が備え付けられている。


 事務所というよりも彼の私部屋だ。

 てか、タレントじゃなくて社長だったのかよ。

 どう見ても社長なんて立場よりも稼ぎ頭の所属タレントという印象だ。

 社長にしてはあまりにも見た目が若すぎる。


「僕が社長と聞いて意外かい?」

「そりゃまぁ……」


 外の光景が気になり、全面ガラス張りの窓の傍までいくとこの事務所の真ん前にある明治通りの一部が一望できる。

 空は既に昏く、下を走るは車のヘッドライトや街灯の明るさが徐々に街を照らしていた。


 こんな東京の一等地に良い事務所を持てる人間がこんなにも若いなんて驚きでしかない。


「気に入ってくれたかな?」

「……よくこんな騒がしい場所に住んでいますね」


 外から発せられる車や大型トラックのエンジン音。

 そういった雑音が響くのは都会ならではと思うが、流石にこの雑音の中で生活したくは思わない。

 賑やかな都会とは聞こえがいいかもしれないが、賑やか過ぎるのは生活環境として快適とは言い難い。


「僕も最初のうちは慣れなかったけど、段々と気にしなくなるよ」


 寝る間の静寂を愛する俺にこの空間寝食を過ごすのは耐え難い。

 あぁ早く家に帰りたい……そう気持ちが強くなる一方だが、生憎と彼の気が済むまでは帰れない。

 着ていた上着を脱いだ彼が戻ってくるとソファに座るよう促される。


「わざわざついてきてもらってすまなかったね」

「いえ」

「では、先程の話の続きといこうか」


 ここは先手必勝。

 口にするであろう話題を先に読み取り、事前に俺の意志は揺るぎないものだと伝える。


「芸能界に入るというのはナシでお願いします。俺はそもそも興味ないですから」

「おっと、それはフライングが過ぎるんじゃないかな?僕はまだ何も言ってないよ」

「フライングも何も他にもその件で連れて来たのでは?」

「そうなんだけど……取り敢えず、僕の話を聞いてもらえるかい?」


 聞くだけなら構わない。

 何を話されても意思が変わらない自信もあるしな。


「君が芸能界に入りたくない理由。それは妹ちゃんとの比較という点で間違っていないかな?」

 

 間違ってはいないが、別にそこが主な理由ではない。

 それに香織と比較されることには慣れている。

 そして、こういう話し合いの場でも下手に本音を漏らして自分という人間性を相手に理解させないようするに立ち回り方も。


「そうですね。大体は……」

「先も言ったけど、容姿に関しては僕は特に気にしていない。だが、僕個人の意見も含めればこうして君と話さない限りはこんなにも興味を持たなかっただろうね」

「率直ですね」

「お世辞は嫌いなのだろう?それに僕は君と腹を割って話したいのさ」


 腹を割って話す……ね。

 正直に言って、この人は全く信用ならない。

 それに話していると妙な胡散臭さも感じる。


 この人の目的が読めない以上、こちらとしても腹を割れない。

 少し質問も兼ねて探りを入れてみるか……


「それで、あなたは俺を芸能界に入れて何がしたいのですか」


 その目的についてまだ知らされていない。道中の静寂な車内で気まずさのあまり理由を聞いても彼は「後で」の一点張り。

 目的を聞いて真っ向から断らない限り、いつまでたっても解放されなさそうな状態を鑑みて、単刀直入に伺う。


「あぁ、それについてまだ話していなかった。この事務所はまだ設立して二年くらいしか経っていなくてね。手始めにアイドル事業をしてみたものの……中々上手くはいってなくてね。業界では下の下にいるだろう。なんなら底辺と言ってもいい」


 平然と現状を語る彼の言葉には些か色々と驚いた。


 設立してから二年。

 活動実績もほぼない状態だというのにこの事務所は綺麗だ。

 しかも、こんな東京の中心地に事務所を建てるには莫大な費用と維持費がかかる。


 相当な大金持ちじゃない限りはやっていけないだろう。

 そう自分で指摘を挙げるが、目の前に座る人物の身成やボディーガードマンを雇う要素を詰め合わせれば相当な富豪なのは明白。

 

「とまぁ、何をやろうにも先ず準備と経験を積んでいる段階ではあるんだ」


 大体は理解した。

 恐らくそのアイドル事業に白里も関わっている。

 彼女を主軸とした事業展開がメインなのだろう。

 

「ちなみになんですが、俺が事務所に入ってやるとしたら何をするんですか?アイドル以外で」


 念の為に聞いておく。

 今の話を聞いて物凄く嫌な予感がしてならない。

 もしも予感通りなら俺はこれにて……


「勿論、アイドルさ」

「すみません。俺はこれで帰らせて頂きます」


 爽やかな笑みを浮かべて予想通りの回答を聞いた瞬間、ソファの横に置いた鞄を持ってササッと帰ろうと立ち上がる。

 話しはこれで終わり。いや、終わらせてもらう!


「ま、待ってくれ!まだ話は終わっていない」

「アイドルをやれって話なら尚のことお断りします」

「何も僕は男性アイドルを君にやれと言ってないよ」

「じゃあ、なんですか。女性アイドルをしろと?」

「まぁ……そうなるね」


 気まずそうに視線を逸らして肯定するも「じゃあ、俺はこれで……」と話しを切り上げる。

 よし、帰る。帰らせてもらう!

 これ以上の話は無用。いや、したくない。

 変に話を長くすればそのうちボディーガードマンを呼んで退路を断たれかねない。

 色々と後手を打たれて帰れなくなる前に先手必勝の逃げに出る。

 

「くっ、かくなる上は……」


 それを見越した彼は俺の腰当たりをみっともないない態勢ですがりつくように制止させる。


「まだ話は終わっていないんだ!」

「終わっていないも何も、俺に女装してアイドルやれっていうのなら他を当たって下さい」

「安心してくれ、僕の考える案では三津谷陽一であるとことを隠してアイドルとしてデビュー出来る」

「隠しても嫌ですよ。何で俺が女装しないといけないんだ!」

「ん?その点は心配しなくていい。君は女の子としてデビューするのだからね」

「は?どういう……」

「隙アリ」


 俺の意表を突いた言葉を述べ、少しだけ完全に動きを止めた瞬間を見計らって手首に何かをはめられる。コンパクトな腕時計に似た何か、それが肌に触れると一瞬にして肌の色と同化する。

 左手首に何かが巻き付けている感触はあるものの、目ではそれを物として視認できない。


「今、一体何を……」

「じゃあ、そのまま手首に触れてみて」


 胡散臭い詐欺商法に巻き込まれた感がするも、言われた通り左手で手首に触れる。

 やはり、目では視認出来ないが触れると何かが腕に身に付けられているのが分かる。

 

「なんですか、これ?」

「腕輪さ。では、君の妹ちゃんを想像してみてくれ」

「香織を…ですか?」


 無言で肯定したのを受け、胡散臭く思いつつも言われた通り実行する。

 すると、不思議な事に自身の身体に現れた変化を一気に体験した。

 突然あったものがなくなり、ないものがある。

 加えて、胸の辺りに生じた質量的な違和感に気付き、無意識のまま両手で胸をムニュと掴む。


 ん……ムニュってなんだ?


 男の俺に掴む胸なんてない……筈がなく、そこには大きくはないものの両手でしっかり掴めるくらいのサイズの胸の膨らみがあった。

 両手の掌を通じて柔らかくも弾力のある感触が伝わる。


 何だこれ、触れていると気持ち良く……って、あれ!?


 直ぐに股間辺りを擦るも、アレがないことを確信した。

 途轍もなく嫌な予感に駆られた俺は窓ガラスの前に立ち、反射したガラスを通じて自分の身体に起こった変化を目で確認する。


「うそ……だろ」


 噓ではない。身体の変化に伴って声も高いソプラノボイスに変質し、短かった髪は肩にかかるくらいまで長くなり、制服の胸辺りが豊満……とは言えないにしてもそれなりの膨らみを宿していた。


「どうやら上手くいったようだね」

「上手くいったって何ですか!てか、コレ!」

「見ての通り、君は女の子になったのさ!」

「そんなん見れば分かりますよ!俺が言っているのは何で女になったのか!」

「それは簡単さ。君が身に付けたその腕輪はえっと……あぁ、TSリングと言ってね。対象の性別をトランスする機能を有しているのさ」

「……噓ですよね?」

「本当さ。ほれほれ、君の身体をもう一度見てみたまえ」


 手渡された手鏡を覗き見るとそれはどう見ても女の子と化した自分の顔。この人が言った通り、俺は明らかに『性別』が変わっていた。自分でも中々に可愛いと思える美少女へと……

 髪色も相まってか、その面影は何処か俺の知る人物と近い顔立ち。


 というよりもこの顔は紛れもなく……


「香織?」

「それはそうだよ。君と君の妹である三津谷香織ちゃんは血を分けた双子の兄妹。君が女の子になれば彼女と似ていてもおかしくない。これじゃあもう姉妹だね」

「だね、じゃないですよ!これ、元に戻れるんでしょうね?」

「無論だとも。それは君の意志で自由に性別を切り替えることが可能さ。変身する際に異性の自分をイメージすれば変わることが出来る」

「それって、意外に難しくないですか?」


 女になった自分を想像するなんて……あっ……


「気付いたようだね。君の場合は双子の兄妹だから、異性の自分は妹の姿に近しいと同一視される。だから、簡単に出来たのさ」

「へー」


 そう言われるも、俺は疑心暗鬼に駆られる。


 果たして本当に戻れるのだろうか。

 一生このままの姿で生活を強いられるのではないのだろうか。


 そんな懸念を解消すべく再度腕輪に触れ、元の自分を思い浮かべようとすると……


「今日はまだ、そのままでいて欲しい」

「何故です?」

「彼女達に君を紹介するためさ」


 なんか勝手に話が進められている気がしてならない。というより進んでいる。

 拒否権を認めたにもかかわらず、この人は何食わぬ顔で話を続ける。


「俺はまだ入ると決めた訳じゃ……」

「今の君を見て、君はどう思った?」

「どうって……」


 もう一度、鏡を覗く。

 そこに映る自分は紛れもなく女で、平凡で味のない顔の男はいない。


 この顔で学校に通えば、明日からクラスの人気者になれると思える程の風貌。

 身長は少し縮み、肩幅や足の太さも細くなりスラッとしたモデル体型に近い。

 胸はそこまで大きいとは言えないにしても、両手でしっかりと掴めるくらいの豊かさは実っており形も綺麗だ……と思う。

 

 これなら香織にも負けず劣らずの容姿……というよりも、これは香織だ。

 俺が香織になったと表現する方が説得力があるし、自分の中での理解も早い。


「自覚してきたようだね。君が可愛いということに!」

「……乗せようとしても無駄ですよ。第一、見た目が女になろうと中身は男のままなんで」


 それだけは揺るがない。

 決してこんなTS展開に自分がなったとしても(もうなってはいるが)俺の心は男であり続ける。


「俺っ子アイドルでも構わないさ。君の容姿なら見た目とのギャップで人気出そうだけどね」

「そういうことは言ってないです。それに芸能界に入りたくないのは俺の容姿が理由じゃないです」

「じゃあ、なんだい?」

「興味がないんです」

「それは理由ではないだろう。僕が言うのもなんだが、君は食わず嫌いが過ぎるよ」

「食わず嫌いも何も……無理強いさせてやらせることもでないですよね?」

「仰る通りだ」


 マジで何なんだこのイケメン野郎。勝手に人の性別変えさせるような事までしておいてよくもそんな台詞を言えるな。イケメンであんな怖いボディーガードマンがいなかったら顔面をぶん殴っていた所だ。


「でも、僕のプロデュースするアイドルには白里唯菜ちゃんも居る。君が彼女に近づく良い機会だと僕は思うよ」

「別に白里を好きじゃないと伝えましたよね。それに女のまま仲良くなっても意味ないでしょ」

「勿論。事務所の規約として公言している訳ではないが恋愛はNG……だけど、女の子同士での恋愛なら認めるつもりさ。特にメンバー同士なら尚更ね」

「意味不明過ぎますから」


 もう相手にするにも疲れてきた。

 ただでさえ、この身に起きた突然の現象に理解を苦しんでいるのに目的も意図も一切掴めないこの人の言動に頭を悩まされるのも何だか無性に腹が立ってくる。その上、このままだとズルズル向こうのペースにハマってしまっていつまでも家に帰れなくなる。

 どうにかして無理矢理にでも変身を解き、強行手段を用いて帰るしか……


「どうか、頼めないだろうか」


手首を掴みかけた途端、彼は頭を下げて懇願する。


「今の僕では彼女達をステージに立たせてあげても、それを観に来た多くの人達に彼女達の魅力を伝えるのは難しい。でも君が彼女達……唯菜ちゃんの隣に立てば何かが変わる。僕はそう感じているんだ」

「また、適当なことを……」

「適当じゃないさ。僕は本気で言っている」

「……」


 こればかりは本気なのだろう。

 頭を下げてしっかりと誠意を見せている。

 唯菜達を想う気持ちに噓偽りはなく、プロデューサーあるいはマネージャーとしての実力不足を嚙み締めてお願いしているのだろう。


 しかし……だからといって『やります』とは簡単に返事できない。

 アイドルなんて……特に女性アイドルなんて始めたところで俺に何のメリットはない。


 むしろ、その逆。

 身分だけではなく、正体や存在すら偽って行うアイドルなんてリスクばかりを背負うだけ。

 もしも、存在がバレたりすれば連日のニュースに取り上げられる処の問題では済まない。


 ある意味では、この選択は今後の人生を左右する選択だと言っても過言ではない。

 後先も含めてしっかり考えれば……ここで身を退くのが正解だ。

 断りを述べて、きっぱりとアイドルはしないと告げる。


 だから、ちゃんと伝えるんだ。

 『やりません』とはっきりと!。

 

「……」


 なのに……声が出ない。

 心の内ではいくらでも覚悟を決められる。

 いざ現実で言葉を口に出そうとした瞬間……俺は躊躇いを覚えた。


 奥の鏡に映る自分を改めて目の当たりした途端……決めていた覚悟が揺らいだ。

 そして、自然と鏡に映る自分に妙な期待や希望を抱いた。


 女子になった自分があまりにも可愛いからか……こんな姿で歌って踊れたらこの人が言う通り、人気の出るアイドルにもなれるかもしれない。

 

 いや、そんな変な期待を馳せず、いつものだらけて腐り切った生活に身を投じる方が安心で安全……なのだが、まだ見ぬ世界への入り口に繋がる門の前に立ち、右往左往しながら悩む自分がいた。


「迷っているのかい?」

「……まぁ少し」


 クスリと笑んだ彼は改まって再び言葉をかける。


「一度は閉ざした可能性を君は今、新たな形で再び開いている。君から見てその輝きはどうかな?」


 強いか。

 弱いか。

 

 二択で言えば、勿論前者。

 女の子になった自分に俺は予想だにしない凄く魅力的な何かを感じている。

 それがどういうものかはっきりとは分からない。

 

 ただ分かることは……そこに踏み込まなければ何も得られないということだ。


 その先に待ち受ける景色や時間がどれだけ今よりも明るいのか、踏み込んで経験して見ない限りは何も分からない。だから、迷っている。

 

「そう難しく考える必要はないさ。何事も挑戦が大事だよ」

「気楽に言わないで下さい。後戻り出来ないとかだったら……」

「お試しでも構わない」

「お試し?」

「そうだとも。暫くその姿で活動してやはり嫌というのであればやらないと言ってくれて構わない。その時は僕も手を引くことを約束しよう。どうかな?」

 

 そんなトライアル期間ありなのかと疑わしいが向こうから持ちかけてきた提案である以上、悪くはない案だと思ってしまった。


 鏡に映る女の子になった自分は端から存在しない人間なのだし、辞めた所で何か白里達と気まずいとかはない。まぁ、俺の中でしこりみたいのは残るだろうが……お試しでも良いというのなら少しやってみてもいいかな。別に。


「……わかりました。その条件であれば……やります」

「本当かい?」

「お試しで」

「それは有り難い!では、早速彼女達に君の紹介を……」


 その点について陽一は「ちょっと待った」をかける。


「メンバーに俺をどう紹介するつもりですか?」

「うーん。即興で考えたんだが、君の名前、三津谷陽一をいじって三ツ(たに)ヒカリなんて名前はどうだい?」


 即興に程があるとツッコミたくなるも、これ以上反論する気すら起きなかった俺は「えぇ、もうそれで結構です」と投げやりに了承した。


 かくして、ここに三ツ谷ヒカリというアイドル(仮)が誕生した。

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