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二百八十一幕 復活ライブ②

 フェスというアイドルグループが集結し、一度のイベントで気になるアイドルグループを知れるまたとない機会で、ポーチカを初めて知る。

 界隈で勢いがあると知られていても、実際のライブはまだ観たことも参加したこともない。

 そんな参加者は決して少なくはない。むしろ、多いくらい。

 1000人規模が集結するこの会場の約半分以上か、七割近くの人がポーチカを知っていても実情を知らない。

 

 たった数か月前の横浜アイドルトーナメント。

 その時と比べれば遥かにファンが増え、知名度も向上したと言えよう。


 だがしかし、まだ遠いと唯菜は改めて実感した。

 自分が目標としているアイドルグループはこの場にいるほぼ全員に認知されるくらい有名。

 今し方、ライブを行ったRe:UNIONの方が自分達よりも倍以上ファンがいるのは目に見えている。


 以前に比べれば遥かに自分達も成長した。

 けど、まだ足りない。

 まだ、伸びないといけない。


 成長と現実を今一度重く嚙みしめながらも……唯菜は嬉しそうに笑む。


 だからなんだ。

 関係ない。

 

 そんな分かり切ったことを今更、強くは受け止めない。

 それはライブ中に感じて、改善することではない。

 それに今はもっと違うことを考えて、感じて……行動に移すべきだ。


 そう、意識すべき相手は自分自身でも、幼馴染でも、憧れでもない……

 今、私が意識する相手は目の前にいるお客さんとポーチカの皆……そして、私の相棒だ。


 楽しませたい。

 もっと見て欲しい。

 負けたくない。


 このライブ中に溢れてくる様々な想い。

 それを胸の中に留めておくなんて勿体ない。

 だから、私も想いを歌に乗せて……みんなに……ヒカリへ届ける。

♢ 

「……!」


 一歩、唯菜が前に立つ。

 ヒカリと並び立っていた唯菜は意図的に視界に自身が入るよう少しだけ調整をした。

 独奏に近いヒカリの歌に会場の誰もが注目を集める中、唯菜はその横で静かに準備をした。

 

 まるでそれは前衛的な自身をアピールするかの如くリーダーという自分を誇示する。

 その横顔に以前のような迷いは一切感じない。

 むしろ、一人だけ目立つなんてズルいと言わんばかりの様相で歌う準備に入っていた。

 そんな唯菜らしくない一面に思わずヒカリは目を大きく見開き……そして、嬉しさのあまり笑みがこぼれる。


 ヒカリの独唱が終わるタイミングで唯菜が声を重ねる。 

 ヒカリのような魅力的な歌声ではないものの、曲の意図を深く解釈し、丁寧に自らの声を合わせる。

 まるでそっと肩に手を置くようにすっと自身の存在を伝える。


 自身を決して強くは主張しない。

 ただ合わせる。

 聴く者に違和感を与えず、されど邪魔をしない。


 それはひとえに歌のレベルが同じでないといけないが……その必要はない。

 唯菜は並び立ち、歌に変化をつける。

 一人が放つ想いを込めた歌に、別の想いを込めた歌を乗せる。


 色を塗り替える訳でもなければ空気をガラッと変えはなしない。

 ただ聴く者にちょっとした色の変化を感じさせ、飽きさせず常に新鮮な何かを付け加えることで発見させる工夫であった。


 それは三津谷香織がライブ中で最も得意とするパフォーマンス。

 ちょっとした変化を示すことがより一層ライブ内での登場人物達の存在感を示すことにも繋がる。

 幾度もSCARLETのライブに足を運び、三津谷香織のファンとして唯菜は多くを彼女から学んだ。


 ただリスペクトするだけではなく、自らの武器や力として使う。

 三津谷香織に憧れ続けた唯菜だからこそできる芸当にジルは大いに感心を寄せた。


「唯菜ちゃんらしい歌だ」


 決して自分は三津谷香織に成れない。

 そう自覚しているのだとしても、決して悲観はしていない。

 むしろ、割り切ったが故のパフォーマンス。

 自分にはない発想を取り入れ、自分ができる最大限のアピールを実行する。

 

 白里唯菜というアイドルがようやく確立された。

 そのことにジルは満足そうに微笑み、同じく肩の緊張を解いて横で見守る同僚を横目で一瞥した。


「嬉しそうでなによりだよ。だけど……まだだ……」


 ポーチカというグループを手掛けたプロデューサーとして今の光景が完成形だとは思っていない。

 五枚あるうちの2つの花弁はようやく再び揃ったに過ぎない。

 ポーチカの真骨頂とも言える耀きを放つにはもう3人が加わらないと始まらない。

 そして、その完成はもうそろそろだと胸を躍らせる。


 二人のデュエットにもう一人、歌が加わる。

 二人よりは落ち着いた声でやや緊張が帯びている。

 それをサポートするような入りでもう一人、決して小ささを感じない強い意志を宿した歌声が加わり……全体を包み込むような安定した存在感を歌にもたらす声がさらに加わる。


 唯菜を中心として五人が一斉にステージへと同じ立ち位置に並ぶ。

 少しバラバラにも感じたグループが一瞬で一体感をもたらし、サビに勢いをもたせる。


 その光景。

 その瞬間。

 その体験を心待ちにしていたファンも胸を熱く躍らせ、歓喜に満ちた表情で彼女達を応援する。


 アイドルがとファンがもたらすライブの一体感。

 これぞポーチカというアイドルグループが示すライブである。

 それを再度実現した彼女達はその勢いのまま後半の五分間を熱く駆け抜けた。

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