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二百七十二幕 日常

 仙台から帰ってきた次の日。

 元の姿に戻れた俺はいつも通り学校に登校した。

 

 どうやらあの一件以降、俺の意思でヒカリの姿に成れるようになった。

 元の状態に戻った……そう言っていいのか分からないが、以前と同じように自分の意思で切り替えることの方が遥かに助かる。


 それに伴い、早急に解決すべき問題が一つ消えた。

 しかし、新たな問題が一つ増えるのがこの面倒な役割の難点でもあり……どう説明したことやら……


「おう、陽一。こんな早くから来るなんて珍しいな」


 学校の昇降口に入って間もなく新城と遭遇した。

 朝から陽気な様子に少しばかり羨ましくも思う。

 

「早くってお前な……言ってもホームルーム開始の20分前だぞ」

「いつもはギリギリだろ」

「そうだけど。別に少し早く来るくらいいいだろ」

「ま、そうだな」


 相当時間にルーズな性格だと思われているのだろうか。

 学校ではそうかもしれないが、ポーチカで活動して以降は遅刻なんてしたことない。

 10分前行動は基本で、割と早く来ているからそう思われるのも少し心外だ。


「それで、三連休は何してたんだ?」

「……旅行?」

「なんで疑問形なんだ」

「さぁ」

「で、どこに行ったんだ?」

「仙台」

「へー、なにしに?」

「……観光?」

「松島とか行ったのか?」

「まぁ、行った」

「へー。なるほど、なるほど」


 ニヤリと新城は悪い笑みを浮かべる。


「なんだよ。その顔」

「いや、なに。お前が仙台と松島に行ったって言うからさ。まぁ、なんだ。お前にもようやく春が来たんだなと……嬉しくなってな」

「なに言ってんだ。普通にキモいぞ」

「隠さなくていいって。ほらあれだろ、白里さんと付き合ってんだろ」


 一応、周囲に気遣って声を細める。

 

「なんでそう思ったんだ?」

「昨日、松島に行ったって白里さんが投稿してたの見てな。ほれ」


 どうやら新城はポーチカの唯菜公式のSNSアカウントをフォローしているらしい。

 いつの間に……と内心で思いながら昨日、撮った写真をスクロールして確認する。


 まさか二人で撮ったあの写真を載せたりはしてないよな。

 写真の殆どがヒカリ以外のメンバーとのものばかりか唯菜単体のみ。

 流石に活動休止中のヒカリを載せる筈が……


「……!」

「ん?どうした?」

「いや、何でもない」


 最後の一枚。

 見晴らし台で景色を眺める黒髪の少女が映っていた。

 いつもの黄色髪ではなく黒、背中だけ映しているのでパッと見ただけではヒカリだと分からない。

 だが、気になってコメント欄を見てみると……『最後の一枚がヒカリなのではないか?』という推測をするコメントが多数寄せられていた。


「まぁ、あれじゃないだけマシか」

「なんだよ、あれって。お前やっぱり白里さんと……」

「黙ってて悪かったが、俺は今白里達のグループのマネージャーをしてるんだ」

「は?マネージャー?お前が白里さん達の?」

「Pの人と知り合いで、バイトとして少しだけな」

「そういや、三ツ谷さん……じゃなかった、三津谷明里さんはお前の従姉妹でポーチカのメンバーだっけか。そこで接点があって、コネで白里さんにお近づきになった訳だ。役得だな、陽一」

「ファンが知れば激怒ものだけどな」

「おい、否定はしないのか?」

「否定?」

「そうだよ。お前が白里さんのこと好きだってこと」

「あぁ、それ……新城の思ってる通り、俺は白里が好きだよ」


 付き合ってることは否定するが、好きという気持ちは本当だ。

 それを今更誤魔化すつもりはもうない。

 片想いであってもそれだけは不思議と嘘を吐いて隠したくはない。


「意外だな。てっきり隠すもんかと」

「嘘を吐くのはもうこりごりなんだ」

「ははっ、なんだよそれ。でもまぁ、お前が白里さんをなぁ~……ま、がんばれよ」

「彼女持ちは楽しそうでいいな」

「青春最高」

「リア充爆発しろ」


 なんて自分でも言ってはいるが、今の生活には満足している。

 男女の青春とやらとは未だ無縁に近しいかもしれないが、特別な青春を送れてはいる。

 いずれ新城みたいになれればいいかもしれないが、それはまだ先だ。

 今は先ず、来月に控えている戦いに向けて準備をしなくてはならない。


 戻れたのはいいとして……今度はヒカリの姿で色々とやることがあって大変だ。

 それに以前のような二重生活も今日から再び始まる。

 気を緩めて変に唯菜の前でボロを出さないようしなければ……


 そんな重圧と謎の疲労感に溜息を吐いた俺は少し重たく感じる教室のドアを開く。


「あ、三津谷君。おはよー」


 教室内に響く朝の喧騒に混じって軽い挨拶が聞こえ、唯菜と目が合う。

 昨日まで見ていた彼女とは少し違う。

 制服を纏っているからかどこか雰囲気が硬くもあり和やかにも映る。


「どうしたの?」

「いや、何でもない。それより一昨日は急に抜け出して悪かった」

「急な用事なんでしょ。仕方ないよ」


 ヒカリが現れたことで大して気にしてないという感じか。

 正直、その方が説明しなくて済むので助かる。


「そうだ。仙台で撮った写真なんだけど……」

「あぁ見晴らし台で撮ったやつ。あれだけは載せないで欲しい…………って、ヒカリが言ってたぞ!」

「え?う、うん。そのつもりだけど、ヒカリ何か言ってた?」


 あぶねぇ。

 うっかり口を滑らせる所だった。

 あの場に俺はいないのにツーショット写真のこと話したら変に疑われかねない。

 全部言い切る前に気付いて良かった。


「一応、最後に二人で撮ったもの以外ならいいって言ってたかな」

「あれは顔出てるからね。出てなければセーフかなって思ったけど、なんか皆察し良くて。ちょっと軽率だったかも」

「SNSの写真投稿は色々と推測されやすいからな」

「うん。それにしても、なんで三津谷君に言うかな?自分から言えばいいのに」

「それは……ナンデダロウ」

「ま、いっか。それより、三津谷君は今日もバイトあるよね?」

「その件なんだけど……もう行かないかな」

「え!なんで⁉」

「ちょっと家の都合上」

「そっか……ヒカリが戻ってくるし、三津谷君もいるからなんか色々と楽しみにしてたんだけどなー」


 悪いがその期待は絶対に添えられることはない。

 両者が同じ空間に揃うことは確実にない。


「ごめん。こんな中途半端な形で抜けて」

「謝ることはないよ。短い期間だけど色々とサポートしてくれてありがとう」

「それが仕事なんでね」


 無論、今後とも唯菜を陰ながらサポートすることに変わりはない。

 次は今まで通り同じステージ上で、もっと近くで力を合わせることが出来る。

 俺にとってはその方が願ったり叶ったりだ。


「おーい。席につけー、朝のホームルームを始めるぞー」


 ホームルーム開始のチャイムが響くと同時に担当教師が教壇に立つ。

 俺も直ぐに鞄を置いて椅子に座り、いつも通りの朝を迎えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続けられないのは仕方ないですが、陽一くんのマネージャー好きだったのでちょっと寂しいですね でも恋心をしっかり自覚して隠さないようになった陽一くんもきっと強いので楽しみです (頑張れ小春ちゃん…
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