二百六十四幕 遠征/Re:UNION⑪
ライブも半ばに差し迫ると少しだけ休憩時間に入る。
明るくなったホール内は多くの人々が立ち上がって往来する。
この間にトイレ休憩や外で空気を吸うなどして後半戦に備えるのだろう。
その中で少しだけ気になったことがあった。
「なんか紫のハチマキ巻いた人達が沢山いるんだが……あれってどこのグループのファン?」
頭に紫色のハチマキを身に付けた人達……その数はホール内にいる客の半分を超える勢いだ。
この休憩時間に巻いて準備してい様子から察するに、まだ登場してはいない。
ここまで大きな出番のないポーチカと同じく後半で出てくるのだろうが、どのアイドルグループかは分からなかった。
「Re:UNIONって知らない?」
アイドルに詳しい春乃さんが代わりに答える。
いつの間にか彼女も紫色のハチマキを頭に巻いていた。
「それいつの間に買ったの……」
「始まる前に売店で買ったよ」
「まぁ、いいけど」
「それより、そのリ・ユニオンっていうのは?」
「知らない?元々『ユニオン』っていう六人のアイドルグループで、私達も少しだけ関わったことあったよね?」
「二年くらい前にユニオン主催のフェスで一緒にやったことはあったわね」
「そーそー。でも、一年くらい前に、一度解散して新たにメンバーを入れ替えて、五人組アイドユニットとして生まれ変わったの。グループ名も改名して『Re:UNION』」
「彼女達は実力派アイドルとしてかなり有名。歌もダンスもアイドルとは思えないくらい綺麗に揃っていて上手。まるでプロのアーティストみたい」
「その実力派ってのが売りで、結構ファンも多いんだよ。僅か一年足らずで武道館公演を単独で行った今人気急上昇中なくらいね」
僅か一年足らずで武道館公演。
それだけでもかなりパワーワードに聞こえる。
「香織、結構気になってるよね」
「正直、春乃が思っている以上に興味はある。なにせ、Re:UNIONは私達を……」
『ブー』っとホール内に公演後半の開幕を知らせるブザー音が鳴り響く。
いつの間にか席に戻った人達は今か今かと待ち遠しくソワソワとステージに視線を送る。
そして、後半戦の最初に選ばれたアイドルグループはというと……
「……バラード?」
独特な雰囲気を帯びた数秒間の前奏。
その間に会場内のペンライトが青と紫色に染まり……ステージ中央に五人のアイドルが立つ。
スポットライトは当てられず、少女達の姿はまだ暗い影に包まれたまま。
機械のトラブル……そう思った矢先、音楽が止み……センターでマイクを握っているアイドルの独唱が始まる。
「……!」
透き通った綺麗な歌声。
程よく調整された高音域。
彼女の放つ第一声がグッと心を掴み、意識が吸い寄せられる。
そう感じたのは俺だけではない筈。
先程までサイリウムを振りながら、登場に歓喜する人達……その全員が動きを止めてステージに意識を縫い付けられる。
「すごい……」
隣で聞き入っていた香織も思わずそう言葉を漏らす。
その直後……独唱を終えると同時にビートの激しい音楽が鳴り響く。
暗がりの中で彼女達も激しいダンスを披露し、間奏の中で弾ける音楽と共に五人の姿がスポットライトに当てられ、披露される。
「昨日の……」
長い黒髪にキリッとした瞳。
暗がりで顔の輪郭はしっかり把握できなかったが間違いない。
センターのアイドルは昨日の観賞時、隣に座っていた少女だ。
名前は……
「藤宮鏡花……彼女がRe:UNIONの新メンバー」
爆音の中でもギリギリ聴こえるくらいの声で香織は伝える。
「ちゃんと観といた方がいいよ。あの子だけじゃなくて、今のRe:UNIONを」
そう告げた香織はいつにも増して真剣だった。
このグループがライバル的な存在だと認識しているのか。
それは表情から察することはできるが、珍しく余裕がないようにも映った。
しかし、そう思うのも無理がない。
彼女達のパフォーマンス……それはアイドルの域を超えている。
洗練された揃ったダンス。
激しい振りの中でも決して音程は外さない。
安定して尚且つ一切乱れない歌声を五人がそれぞれ維持し続ける。
一人一人の実力がセンターの少女に並び……正直、全体を俯瞰視している。
個々ではなくグループ全体でライブそのものを作り上げている。
だから、これはアイドルのライブではない。
クオリティを追求したプロのアーティストが行うライブパフォーマンスに等しい。
アイドルの個性を浮き彫りにして、個々でアピールするのではない。
個性を統一させてグループそのもので表現する。
それが彼女達……Re:UNIONなのだろう。
ポーチカがバラバラで不完全なグループなのだとしたら、このグループは対局に位置する。
完璧なまでに統一されたアイドル集団。
ハイレベルなダンスパフォーマンスに、思わず聴き入ってしまう程の歌。
その彼女達のパフォーマンスを後押しするようなリズミカルのある独特な音楽に、ダンス経験が高くなければ習得の難しそうな振付。
何もかもがポーチカとは違う。
SCARLETとも特徴は似て異なるが……香織が興味を持った理由も分かる。
なにせ、一人一人が不思議と三津谷香織を彷彿させるような実力を有し、香織のスタイルを意識したパフォーマンスとなっている。
本人からすれば観てて良い気分はしない。
横で目の当たりにした香織がどう思っているのかも分からない。
だが、これだけは言える。
Re:UNIONというグループはSCARLETを超える存在とも成り得る。
予感ではなく確信に近い。
だから、香織もこのグループに一目置いている。
最初から最後までRe:UNIONは一切の緩みを見せないままライブを続けた。
隙が無く完成されたパフォーマンス。
一言で表現するとそんな感じだった。
観る者を圧倒し、意識を集中させられる。
彼女達のライブが終わって緊張が解けると……自分達もようやく気を緩めることができた。
不思議とドッと疲れ、少し前屈みになってた姿勢を戻し、背もたれに背中を深く預けてしまう。
会場内で立って観ていた殆どの人が同じように座っていく。
「後半の最初に持ってくるのは間違いじゃないか?」
「主催者側もちゃんと把握してなかったんじゃない。普通ならトリに持ってくるレベルだし」
今回の主催者はあくまでも仙台のアイドルグループだ。
トリを務めるのだとしたらRe:UNIONではない。
だが、後半の最初にあんなものを見せられては彼女達以上のものを期待してしまい、下手をすれば落差を覚えかねない。
それにポーチカもこの後に控えて……
「嫌な予感がしてきた」
「私も同じ」
そう話した直後、次のアイドルグループの発表となる。
スクリーンに映し出されたグループ名に俺は苦々しくも笑った。
「やっぱりか……タイミングが悪い」
背もたれを外し、ステージへと再び意識を向ける。
唯菜を筆頭に四人はステージに並ぶ。
わざわざ遠方から来たポーチカファンが温かい声援と共に出迎えてくれる。
だが、先程のような勢いはない。
会場内の雰囲気は先程の余韻に浸ったままなのか、Re:UNIONの色が点々と残っていた。
「唯菜?」
ステージに立つ唯菜の表情もいつもより動揺の色が見えた。
唯菜だけじゃない本番では一切動じない幸香さんですらいつもよりも表現が硬く映る。
「多分、唯菜ちゃんは気付いたのかもね」
「何に?」
「藤宮鏡花……彼女のこと、何も聞かされてないの?」
「聞いてない」
「そ。私の口から言ってもいいのか分からないけど……」
一瞬、迷ったように視線を逸らすも香織はゆっくりと伝える。
「藤宮鏡花……彼女はポーチカの元メンバーで、唯菜ちゃんの幼馴染」




