二百五十四幕 遠征/仙台①
二月中旬の三連休初日。
俺たちは新幹線で仙台へと来ていた。
「あ、ずんだ餅!私、このお菓子意外と好きなんだよねー。買ってもいい?」
一時間半の電車旅を終えてホームに降り、改札口を抜けて直ぐのお土産コーナーではしゃぐ唯菜は好きなお菓子を見つけてはそう聞いてくる。
「いいけど、それお土産じゃないのか?」
「お土産分もまた後で買うけど、これはおやつですぅ」
子供っぽくそう手に取ると直ぐさまレジへと向かう。
「あれ、唯菜ちゃんは?」
「あそこでお土産買ってるよ」
「着いたばっかでもうお土産?私より帰る気が早いじゃない」
あとから来た小春とルーチェも続くようにお土産コーナーへと入っていく。
唯菜を筆頭に三人は色々な仙台銘菓を興味津々に探す。
その気持ちが分からなくもない。
俺だって仙台には毎年のように行っていたから美味しい銘菓が沢山あることは知っている。
家族へのお土産用に母や香織が好きな絵巻の菓子を買ってかえるつもりでもある。
しかしだ……
「あのぉ、お三方?お土産見てる時間はあまりないんでまた後にしてもらえますかね?」
駅を降りて直ぐにバスで移動しなければならない。
その時間も刻一刻と迫っているので待つ時間はあまりない。
「ごめんごめん。つい、色々と美味しそうなお菓子がたくさんあって……」
「私も仙台にはあまり来たことないから気になって」
「あのカスタードクリームが入ったお菓子美味そうね。マネージャー、買って」
「……はぁ、とにかく今は時間がないからパッと買いたいものだけにしてくれ」
そう三人に伝えると物を決めた唯菜と小春は直ぐに買い物を終え、駅の外に出る。
すると東北特有の冬の寒さがバッと視界一杯に広がり、顔にツンと冷たい刺激が走る。
「さむい~。仙台でも結構雪が積もるんだね」
辺り一面真っ白とはいかないにしてもかなりの積雪。
駅前には大量に雪かきされ辛うじて足場が見える程度。
下手に走れば転んでもおかしくない。
「うわっ!」
ツルツルの足場だったのか不意に足を取られて転びかけた唯菜の背中をギリギリで支える。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん……支えてくれてありがと。三津谷君」
「ライブ前に怪我は勘弁してくれよ」
「そうだね。気を付ける」
今から向かうバス停は歩道橋から階段で降りた場所にある。
外の階段こそ気をつけるべきポイント。
こんな所で怪我をさせる訳にはいかないので転びそうな人物に目を向ける。
「情けないわねぇ。こんな雪で足を取られるなんて」
ププッと笑みを溢したルーチェが先に進む。
分厚いコートを羽織り耳当てを付け、誰よりも防寒対策しているがその足取りは意外にも安定していた。
両親は共に雪国出身、都会育ちの半引きこもり娘でも血の流れからして適性が高いのだろう。
「ほら、時間もないだからさっさと行くわよ」
唯菜と同じく慣れない雪道に苦戦する小春を引っ張りながら目的地とは違う方面のバス停へと降りていく。
「そっちじゃない。反対側の階段だ」
ちゃんと声が届いたのか二人は階段を引き返し、正しい乗り場の方へ先に向かっていく。
その後をゆっくりと進みながら俺と唯菜も続いた。
降りて間もなくバスに乗る。
そこから俺たちは仙台で活動するアイドルグループが主催するフェス会場へと向かうのであった。
遠征編へと入ります。
少し予告となりますが、ここから少しずつ展開が動いていきます。
新キャラの登場?ヒカリの復活?
どういう展開で進むかは次話以降をお楽しみください。
短文ではありますが、ここまで読了頂きありがとうございます。
引き続き、本作を呼んで頂けますと幸いです。
それでは、またどこかの後書きで。




