二百四十二幕 エピローグ②
年が明けて三日目。
ポーチカの活動は早くも二日から始まった。
毎週末に行う定期公演。
年始、最初のライブというのもあり他グループとの対バンライブを実施した。
クリスマスライブでの反響もあってかポーチカの前には多くのお客さんが詰めかけた。
普段行うライブハウスがびっしりと埋まる程度。
しかし、それは依然よりも大きな変化ではない。
唯菜達からすれば維持できていると思える方であった。
しかし、今後は分からない。
自分達のパフォーマンスに飽きられてしまえば人はみるみる減っていく。
そのプレッシャーを常に持ちながらポーチカは四人で発揮できる最大のパフォーマンスを示す。
前に戻ったとは言わせない。
彼女がいなくとも四人で十分にやれる。
そんな強気な姿勢をポーチカは見せた。
そんな中、ポーチカのリーダーとして誰よりも輝こうとする唯菜に多くのファンが視線を集めた。
彼女がいなくなったことで唯菜も少なからずショックを受けている。
エースの消えた穴は大きく、そう簡単に埋めることはできない。
誰もがそう思っていた矢先……変わったアイドルが一人だけいた。
キレのあるダンスはともかく歌に対する苦手意識なぞ微塵も感じさせず堂々とした歌唱力を示す。
彼女がいないことで気持ちがより一層込められているからか。
歌い手の様々な感情が直に伝わり、ファンの心を新たに掴み取った。
そうした幸先の良いスタートでポーチカは新たな年を迎えた。
そして、新たに思わぬ展開が生じる。
「兄貴ぃ~、レッスン前に集めて何の用?」
スタジオの中心。
早朝に集められた四人の中で眠そうなルーチェが欠伸を交えながら尋ねる。
「ジルさん、次の大きなライブに向けてですか?」
やる気満々の唯菜にジルは「それはまだ検討中」とだけ答える。
「今日は紹介したい人物がいてね」
その言葉に四人は一斉に防音扉の向こうにいるであろう人物へ意識を向けた。
「じゃあ、入ってきてもらえるかな」
手の後ろに隠した通話状態のスマホを通じて合図を送る。
すると、ゆっくり扉は開かれある人物がスタジオに踏み入る。
その人物に二人は驚きの声を漏らし、一人はクスッと笑み、もう一人は眠そうに欠伸を続けた。
「みんなも知っているだろうが紹介しよう。ポーチカの新しいマネージャー、三津谷陽一君だ!」
両手で肩を掴み満面の笑みで見せつけるように紹介を述べるも静寂が返る。
呆れた陽一は少しばかり溜息を吐いて改めて名乗り出る。
「臨時の見習いマネージャーを務めることになりました、三津谷陽一です。活動をサポートしていく所存なので……よろしくお願いします」
律儀な挨拶を前に四人は固まる。
再び顔を挙げて様子を窺うと……ある二人に目が往く。
一人は「え、ホントに?」と「ドッキリじゃないよね?」と疑う様子。もう一人はもの凄く顔を赤く染めて戸惑っていた。
予想とは違った空気感にジルは苦笑いを浮かべつつも話を続ける。
「事前の相談もなしに申し訳ないが、彼にマネージャーとして暫くアルバイトをしてもらうことになった。年明けは個々人での活動も色々と控えている。臨時のマネージャー業務を任せていたナイルには本職に戻ってもらわないといけないので新たな代打を用意した」
「なら、そのマネージャーたっぷりコキ使っていいの?」
「オイ。早速、悪い顔でコキ使おうとするのはやめてくれ」
「ホントさ。君たちにマネージャーを付けられないのはルーチェの我儘に振り回されると辞められるからが主な理由なんだ。頼むから優しくで……あと人のことを尊重してくれ」
「了解したわ」
「あの悪い笑み、絶対に分かってないですよ」
「すまない。後で僕からきつく言っておくよ」
言った所でルーチェが聞くわけがない。
諦めムードで再び溜息を吐いた陽一は内心で幸香のフォローを求めることにした。
そして、再び二人へと目を配る。
(歓迎はしてくれているのかな……)
二人の戸惑いは今も変わらぬまま。
後で詳しい説明をすると決めた陽一は自身の取った選択に対して今一度決意する。
(俺はポーチカを……唯菜を支える。ヒカリでなくても出来る限りの努力はする)
それがヒカリと交わした最後の約束でもあり、『唯菜の傍にいてあげて』という彼女の願いでもある。
だけど……上手くいくかどうかは少しだけ不安でもあった。
四人の前に立つのヒカリではなく陽一。
当事者であっても姿が違えば関係は異なる。
そして、この姿だとまた違った問題も新たに浮上したり……するかもしれない。
この回をもって、五章終了となります。
章完結まで約一年近くに及ぶ長々とお待たせしてしまい申し訳ございません。
内容に関しましても、少し加筆修正を加えたり色々とわかりずらい描写等もございますが、ここまで読了して頂き本当にありがとうございました。
五章は唯菜にフォーカスを当てた話でした。
何事も自信を持って挑戦するのは大事だと思います。
苦手なことがあっても自信を持って取り組めるようになればいつかは苦手から得意なことあるいはできるようになれたことへと変わります。
ですが、そう簡単に自信は持てません。
向き不向きの問題がある以上、完璧に苦手から脱却できるとは限らない……ある程度割り切って、自分の持つ武器と不器用さを比べた上で自信を持って発揮していく。
そんなニュアンスを唯菜の抱える悩みと成長面からお伝えしたかったというのが五章となります。
再び随時、改稿を行い誤字脱字及び内容の方を綺麗に修正していく所存です。
私自身、残り少ない学生生活ですが本作の完結を目指して書き続けていきます。
今後の展開としましてはおそらく皆様もお気付きのことでしょう……『復活編』となります。主人公の陽一君がどう三ツ谷ヒカリに戻るのかは続きをお楽しみくださいとだけお伝えします。
そして、次が本作の最終章となる予定です。
どのように終わるかは私自身もまだ思考中ですが……満足する締めをお届けできたらと思います。
なので、今後とも本作に付き合って頂ければ幸いでございます。
遅れましたが、感想やレビュー等の評価を頂き本当にありがとうございます。
皆様が面白いと思って頂けるのと同様に、私自身も読み返して面白いと思えるような作品造りを心掛けています。語彙や文章力はあまり身に付いているとは感じませんが(笑)、キャラクターとの掛け合いやストーリーの方は自信を持って勝負していけばと思っております。
なるべく早めの更新を心掛けていきます。
終章は少し短めのストーリーともなるかもしれませんが、皆様に楽しんでもらえることを重点に書いていきます。
それでは、またどこかの後書きで。




