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二百三十八幕 クリスマスライブ/二人⑥

※長らく更新が途絶えてしまい申し訳ございません!

二話連続更新となります……が、その前に一つお知らせがあります。


本話を投稿する前に、201話(第207部)内のストーリーで少し文章を書き加える修正をしました。

その内容が本話と関連のあるストーリーとなりますので、そこを読んだ上で続きを読んでもらえると幸いでございます。

 あっという間の時間だった。

 歌い出しから終わるまでの時間……長かったようで刹那の一時にも感じた。

 気付けば緊張は解け、リラックスした気分で立っている。

 

 静かにしっかりと聴き入ってくれたファンの人達から温かい拍手が送られる。

 私の歌を評価しての拍手なのか。

 単なる敬意なのかは分からない。


 それでも……今の数分間、私は過去最高の歌を披露できた。

 気持ちをしっかりと声に込めて、想いを伝えることができた。

 

 だから、これだけは自信を持って言える。

 今の歌は『私史上、最高の歌を届けられた』と。

 緩んだ頬のまま私はゆっくりとお辞儀する。

 すると……

 

『ゆいなちゃーん、歌ものすごく上手になったぁ!!』

『最高だったよ、ゆいなぁ!!』

『もう一曲聴かせてくれぇ!!』


 等々の声援が私の耳にしかと届く。

 ようやく認められた。

 評価された。


 苦手で人前で自信を持てずに披露していた歌唱力がようやく上手になったと思ってもらえた。

 ようやく……ようやく努力が実を結ばれたことに私は頭を上げれなかった。

 だって、今頭を上げたら私は……


「ホント、唯菜は凄いね」

「……!」


 ポンと温かい感触が頭一杯に伝わる。

 聞き馴染みしかない彼女の一声。

 その誰よりも温かみを覚える感覚に私は思わず顔を挙げた。


「……ヒカリ?」


 そこに立っている少女はさっきまで一緒にいたアイドルと瓜二つ。

 雰囲気も立ち振る舞いも外見は完璧なまでにそっくりそのまま。

 でも、声から発せられる雰囲気は彼女と違う。

 私がよく知っている三ツ谷ヒカリそのものであった。


「ごめん、待たせた」


 マイクに通らない声量で小さく微笑みながら謝る。

 本当に悪いとは思ってはいない。

 むしろ、遅れてやってきてあげたよと言わんばかりの登場に私は思わず……涙を流した。


「ちょ……今、本番中だから泣くのはホントに勘弁」

「だってぇ、ヒカリってばもう来ないのかとぉ……」

「だから、こうして来たじゃん。遅れてだけど」

「……ぅぅ、許す」


 ヒカリに宥められながらどうにか涙を塞き止める。

 このまま感情に任せてしまえば最後、大泣きショーの始まり。

 それでは大惨事になりかねないので今はグッと気持ちを堪え、嬉しさ満面の感情を表に出す。


『お聞き頂きありがとうございました。すいません、少し感極まって涙を流してしまって……』

『唯菜は泣いたら最後、号泣の始まりだから……堪えてくれて良かったよ』


 その危ういきっかけを作った張本人が横にいる訳だが今は言及しないでおく。


『それでは、あともう一曲だけソロで披露するつもりでしたが……あれ、ヒカリがここにいるってことはもしかして……』


 これは完全なアドリブ。

 私自身、まさか本物のヒカリがステージに立つとは知らされていなかったから正直、この後の展開はあまりよく分かっていない。

 

 舞台袖の方をチラ見して何か指示が出ていないか確認すると『もう一曲は二人で』と書かれたカンペなるものが奥の方から見えるだけ。

 曲までのフリや煽りは全て私とヒカリに丸投げといった具合。

 

 直ぐに状況を察して早速、煽りを入れる。

 間もなく会場内から『おおおおおぉ!!』と期待の込められた反応がくる。

 それにヒカリが……


『二人でクリスマスソングを披露します』


 と、満面の笑みで返答。

 それには場内大歓喜。

 先程ソロ曲を披露した時以上に反応が良い。


(うわぁ、みんな露骨だなぁ~)


 若干怒りが滲みそうになるも、私も実は内心で二人で歌うことが嬉しかったりする。


 一人で歌を披露することには少し慣れたかもしれない。

 だけど、私は一人よりも二人……皆で歌う方が好きだし。

 何より、ヒカリと一緒に歌う方が私は凄く自信を持って歌える。

 だから、二人で歌うことは大いに歓迎だ。

 

 ちなみにだけど、何を歌うのかは知らない。

 ポーチカの曲からクリスマスソング風な新曲はあるけど、それは五人揃った時と予定している。

 そもそも、本物のヒカリがいないので新曲の発表を一旦は見送っていた。

 香織ちゃんは新曲の詳細は知らなかったから無理に歌わず別の曲で繋いでいた。 

 

 けれど、こうしてヒカリも含めてメンバー全員が揃った。

 それなら今は……


『この曲はカバー曲になります。なるべく皆さんが知っている曲を選びました』


 カバー曲なんかい!

 思わず内心でツッコミを入れるもヒカリは分かった様子で「新曲は五人の時で」と小さく伝える。

 二人のデュエットはあくまでも二人だけで歌う曲。

 そう割り切って選曲をしてくれたのだろう。


(けど、何を歌うのか聞いてないんだよなぁ~)


 ヒント:みんなが知っているクリスマスソング。


 これだけでは決して分からない。

 思い当たる曲はいくつかある。

 その中からヒカリが普段聴いている歌手の中からピックアップされたカバー曲となると……てか、ヒカリが普段から何を聴いているのか知らない。

 

 あまり部屋の中で音楽を流したりしていないし、自分から率先して音楽を聴いているタイプではない。むしろ、私が……


『それでは聴いてください』


 そうこう考えているうちにヒカリは勝手に本番へと進める。

 結局、何を歌うのか教えてくれない。

 歌に関して苦手意識を持つ私でも歌える曲をちゃんと選定してくれたのか。

 その辺り信頼しつつも私は歌えそうな曲が流れることを祈ると……


「え……」


 最初のイントロ。

 そこで私は気付いた。

 この曲は以前、私がヒカリの部屋で歌ったクリスマスソング。

 

 12月初頭、動画配信アプリに投稿されたその曲は人気とは言い難いものの、10万を超える再生回数を一か月も経たないうちに超えた。


 クリスマスソングの王道と言えば、男女のじれったい恋心を連想させる恋愛ソング。

 男女の視点から両者を想う儚くも尊い雰囲気を帯びた曲調の中で紡がれる歌詞は脳内である男女のクリスマス前後を描いたドラマを彷彿とさせる。

 

 流行りのクリスマスソングの大半がドラマや映画の表題曲だったりするので、作品のストーリーや場面に沿った楽曲であるため非常にイメージしやすい。その上、視聴後に聴くと作品全体を踏まえてより心に響く。

 

 私の中でクリスマスソング=男女の恋愛……というのをイメージしていたのだが、この曲は違った。


 このクリスマスソングは一言で表現すると明るい。

 もう少し具体的に言えば、クリスマスをみんなで明るく祝う曲なのだろう。

 恋愛要素は一切なく、聴いてくれている場の人達も明るくなれるような曲。

 

 何かの作品で使うものというよりもどちらかというとこういう私達がライブで披露する曲に近い。

 3Dのアバターを用いたアニメーションの中で二人のキャラクターが簡単な振付を披露しながら軽快に笑顔で歌っている。


 曲のテンポも良く如何にもアイドル向きな曲であるため、当事者としてはかなり興味を持った。

 実際に歌っているのは一人だけど、何故か歌割が二人分しっかり用意されていて……むしろ、二人で歌う方が良いのではないかとさえ思う。


 だから、もしも私がこの歌を披露するとしたら……それは私一人だけじゃなくて出来れば二人。

 この曲の主題でもある信頼の置ける仲の良い二人で明るくクリスマスを迎えるという意味に沿った形で歌いたい。

 

 そんなことをヒカリに対して言ったことは一度もない。

 いつかカラオケに行ったら『一緒に歌おうよ』と提案するつもりではいたけど、まさか自分から選曲してこの場で歌ってくれるとは思いもしなかった。

 

 そんな予想外過ぎる色々なサプライズに私は思わず頬を緩めてしまう。

 

(ホント、ヒカリってズルいな)


 舞台に上がるとヒカリは必ず何かをもたらす。

 観ている人達だけじゃなくそれはステージに立つ私達にも良い何かをくれる。

 流れが悪い時は良い流れへと変える起爆剤で、良い時でもより一層のワクワク感や前へと進みたくなるような強く温かい風を吹かせてくれる。


 特に今回はこの曲を選んでくれたことに不思議と特別な想いを感じた。

 口に出していない。

 言葉で伝えていないのに以心伝心と……あの過ごしてきた時間で心が繋がった。

 そう強く実感できたのが何よりも嬉しい。


 そんな感情を剝き出しにしたまま、私はマイクを近づけ音へと耳を傾ける。

 隣に立つ相棒と軽く視線を交わし合い、私達は高らかに声を重ねた。



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― 新着の感想 ―
[一言] う〜〜〜2人のデュエットは嬉しいけど このすれ違いが辛いです…… ヒカリちゃん、本当にこれが最後になっちゃうのかな
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