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二百三十五幕 クリスマスライブ/到着③

 開演して一時間が経つ。

 迎えに行ったナイルから連絡が来たのは30分前。

 ヒカリのマンションから日比谷公園まで距離はそう遠くはない。

 車で順調に進めば20分と経たずに到着する。

 しかし、まだ着いたという連絡は入らない。


 都内の道路は午後になるにつれて交通量が増える。

 積雪にはならない量だとしても雪の影響により渋滞が生じる可能性は十分に高い。

 少しの遅刻はジルも想定している……だが、ライブが始まってからというもの内心で若干の焦りが生じ体内時計の進みがやや遅く感じる。


「気にかけても仕方ないと分かっているけど……やはり待つのは慣れないね」

 

 出来れば一刻も早く到着し、軽い打ち合わせをした後にステージへあげる準備を済ませたい。

 交代しても問題ない曲のタイミングもあと数曲と迫っている。

 そこを逃せばあとはもうエンディングに一直線。

 でなければ、クリスマスライブ用の新曲も披露できずに終わる。


 だから、早く……


「ん?」


 ポケットのスマホから放つ微細な振動に気付く。

 誰からの通話。

 ライブ中であるため本来であれば無視する所ではあるが出ない訳にはいかない。


「少し外すよ」


 運営本部のテント内を出ると直ぐに対応する。


「ナイル。もう会場には着いたか?」

『ごめんなさい。今、渋滞に捕まってて……』


 出た相手は善男。

 謝罪と同時に告げる現状を聞き嫌な懸念が的中したことに一瞬だけ口ごもる。


「ちなみに、今は?」

『永田町あたりね』


 かなり直ぐ傍まで来ている。

 順調に進めば10分と経たずに到着するが、渋滞であればより時間はかかる。

 最低でも20分、遅くと30分以内には着いて欲しい。

 最悪の場合、車から降りて……


『既に降りて向かってるわ』

「まさか、歩いて?」

『ちょうど、駅の付近でハマったから迷わず……ね』


 駅というなら電車で向かっている。

 地下鉄を使えば20分もかからずに到着する。

 陽一らしい思い切った選択と判断に微笑する。


『正解だったわ。10分経っても一向に進まないから』

「了解したよ。善男達はそのままこっちに来てくれ。彼……いや、彼女は僕が迎えに行く」


 急ぎの用件だけを伝え聞いたジルは通話を切る

 渋滞にハマったものの自身の判断で動かないことを悟り、近くの動いている交通手段に切り替えてこちらへと向かっている。

 そのことを冷静に頭の中で整理し、自分が取るべき効率的且つ迅速な対応を考える。

 

「彼女には確か関係者通用口の場所を伝えていないっけ」


 迎えに行ったナイル達と共に来ることを想定したため当日の入り方は何も伝えていない。

 ライブ会場となる野外音楽堂は日比谷公園内の端に位置する。

 案内板を見れば道を迷うことなく一人でも来れるとは思うが、一分一秒のロスも惜しいこの間に迷われでもしたら困ると考えたジルは自ら駅の方に出向く。


 サッと会場から抜け出し、公園内の一本道を出口に向かって沿う形で駆ける。

 

「10分前ということはもう駅に着いていてもおかしくないか。入れ違いだけは避けないと……」

「あれ、ジル社長?」


 そう思った矢先、直ぐ横をサッと駆ける少女がいた。

 ジルよりも先に気付いた少女は足を止めて声を掛ける。

 遅れたジルも声に反応してバッと振り返る。


「……ははっ、予想よりも早かったね。ヒカリちゃん」


 まだ最寄り駅付近に居るかと思いきや、公園内の入り口となる門を抜け、野外音楽堂に繋がる正しい道を辿り……目的地直ぐそこまで来ていた。

 危うく本当に入れ違いになる所だったとホッと息を吐いたジルは改めて向き直る。


 誰がどう見ても今の陽一は三ツ谷ヒカリ。

 内面も含めてこれまで接してきた彼女がそこにいるのだと安心して確信する。


「全て元に戻ったようだね」

「はい。俺がヒカリだった時の記憶は全て戻りました。ここ一か月の出来事も含めて覚えてます」

「新曲の方とかも問題ないかい?」

「ちゃんと頭に入っています」

「なら安心だ。それと動きについては……歩きながら軽く話すとしよう」

「走ってでも……」

「今し方全力疾走してきたのだろう。少し落ち着きながら向かおう」


 焦る気持ちも重々理解している。

 一分一秒のロスも惜しい今、悠長に歩いている余裕はない。

 しかし、焦ったまま極度の緊張感を迎えてステージに立つことは反って悪手なのも容易に想像つく。心だけが先走っても良い結果は生まない。


 ヒカリだけではなく自分自身にもそう言えると判断したジルは歩きながら軽い打ち合わせを始める。

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