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百五十八幕 KIF/帰り道の一幕⑥

 夕食を終え、レストラン前で駅に向かう組とマンションに戻る組で別れ、それぞれ帰路に就く。


「あんた、今日は泊まるの?」

「その予定。今から戻って帰り支度しても電車に乗るのは10時過ぎるし、自宅に着くの11時前とかだから……今日は部屋で泊まっていく」


 現時刻は9時過ぎ。

 四人でのご飯で前半は小春を議題としたルーチェの相談話には乗っていたものの、後半は一変して色んなガールズトークに花を咲かせていた。

 

 まぁ、一人異物が交じっているのと女子力皆無のゲーマー少女が同席している時点で……ガールズトークの中心は唯菜と幸香さんの二人だ。コスメやファッションについて話す二人のやり取りは意外にも勉強になった。だが、聞いた所であまり実践する気にはなれなかった。


 それは俺の隣にいる銀髪碧眼の少女も同じではあるのだが……美しい銀髪をよく見ると髪の一本一本がとても艶やかである。よく手入れが施された髪は光沢の様な輝きを帯び、暗い中では少し輝いているようにも思えた。


「ルーチェの髪って結構綺麗だよな」

「なに、急に?」

「いや、ふと思っただけ」

「……前も言ったと思うけど、私にとってこの身長や髪はお母さんとの繋がりを確認出来るものなの。だから、髪は毎日ちゃんと手入れしているの」


 ルーチェの小さな背中を覆い、腰の辺りまで伸びた長い銀髪。

 髪は長ければ長い程手入れが大変だとよく聞く。


 香織がまだかなり髪を伸ばしていた頃はよく母さんが風呂上がりにドライヤーをかけたり、櫛を使って髪をとかしたりしていた。長い時間をかけてゆっくり丁寧に……


 男の俺なんてタオルで髪を乾かして終了。

 特に髪の毛に対する気遣いなんて全然してこなかったし、今もしていない。


 ヒカリの姿であっても精々ドライヤーで乾かす程度でその後の乳液を用いた頭皮ケアのマッサージケアや櫛を用いて髪をとかしたりもしていない。美容に対する意識が根底から養われていないのは仕方がない……にしても、ルーチェの髪を見る限り彼女は俺よりも遥かに美意識は高い。

 その上、どんなに面倒なことであっても絶対に欠かすことなく大切なものを綺麗に美しく保つだけの努力を自分一人で続けている。


 女子力皆無なんて言葉は失礼に当たるかもしれないが……彼女もまたしっかりとした女の子なのだとその外見から伝わるような気がした。

 

「ねぇ、それよりあんたは春とどういう関係なの?」

「陽一として?」

「そう」

「じゃあ、逆に聞くけどどこまで知っているんだ?」

「あんたと春が同じ小・中で関わりが少しあったこととあんたとは多少なりとも仲が良かった……とは自分で思っていることくらい」


 それは恐らく小春自身がそう思っていると解釈していいのだろう。

 

「だから、あんたはどうだったの?小春と仲良かったの?」

「良い悪いで言ったら……正直、わからない。でも、心は開いていた。じゃなきゃ……」


 告白して振られてもあんなに傷ついたりはしない。

 

「……?」

「いや、何でもない。で、ルーチェはどう思っているんだ、小春の抱える悩みって」

「さぁね。私はあんたの方が知っているんじゃないかって思って聞いてる」

「仲は良いだろう。二人は」

「まぁ、ゲーム仲間の頃から数えればかれこれ三年は経つかな……対面で会ったのは去年が初めましてだったけど」


 そう言えば、この二人の過去はあまり知らない。


「そもそも小春がポーチカに参加したのはルーチェが無理矢理引き込んだから……だっけか」

「そうよ。半年前、私が引きこもってゲームばっかやっていた際に兄貴がいきなり対面の高校に通うか、アイドルをして通信制の高校に通うかってふざけた選択肢を突き付けてきたのが始まり」


 ルーチェは憎たらしそうな顔で当時の状況を振り返る。


「その時はまだポーチカが三人で……いや、一人辞めた直後で二人になった頃だっけか。まぁ、それで人数が足りないから新メンバーに私を加えるとか兄貴が言い出して、断ったら全寮制のお嬢様高校に通わせるとかで脅しをかけてきたのよ」

「で、迷うまでもなくアイドルの道を選んだのか」

「当たり前よ。選択肢なんてないようなもんよアレは……学校に行くならまだしも規則正しい寮生活なんて私にやっていけると思う?」

「無理だな」


 入学した初日に寮から抜け出しては部屋に閉じ籠って出て来ないのがオチだ。


 だが、ジル社長も敢えて妹が決して選ばないような内容を提示しているあたり……どちらかというとルーチェにアイドルをさせるのが本命だと思えた。


 実際の所、ルーチェを淑女らしく穏やかで気品の備わった女の子として育てるのは無理がある。

 ネットゲームの沼にハマり、人殺しを主体としたFPSゲームで気性が荒くなった女の子が今更、全寮制のお嬢様学校に通うなんて世界観や生活環境が一辺倒するに等しく、馴染んではいけないだろう。

 ジル社長もルーチェの改心及び改善には全くといって期待していないのは普段の態度から分かりきったこと。

 

 だからせめて、外に出させる一環として取った手段がアイドル。

 そして、妹の持つ類い稀な容姿を存分に活用することでポーチカの利に還元しようと敢えて横暴な手に出たのも彼らしいと言える。


「そんで、その前に私はネットでしか繋がっていなかった春……いや、小春とリアルで会うようになって週末とかはどこか出掛けて遊んだりしていたの」

 

 それが二人の始まりか。


「私自身、初めての友達だったからもの凄く楽しかった。ネットでは二年くらい前からずっと一緒にゲームして遊んでいたのに、リアルで会うともっと楽しくて……年は小春の方が一つ上だけどそんなの関係なしに接していた。小春もあまり喋らないけれども、心を許して仲良くしてくれて……私はそれが嬉しかった」


 ルーチェの嬉しいという感情が言葉の中にポツリポツリと表れる。

 人と関わることが億劫であると態度に示す彼女ではあるが、意外にも寂しがり屋で人懐っこいけど人見知りの一面が強い。そういった素直な所はかなり可愛くも思える。


「だから、ある日誘ったのよ。兄貴にアイドルをするって言ってから小春に会った時、一緒にやらないかって……まぁ、最初は断られたけどね。『私なんかアイドルに向いてないって』」


 それは容易に想像つく。


「でも結果的には口説き落としたわ。小春ってば結構見た目可愛いし、私なんかよりも人気取れそうでオタク受け良さげな雰囲気だから凄くアイドルに向いてる……みたいな事を言って」

「適当だな」

「まぁ、本音を言えば……小春をグループに招き入れる代わりに私のアイドルの件を無しにしてもらおうと思ってたんだけどね。ちょうど、三人だし」

 

 訂正。やっぱりコイツ全然可愛くねーな。

 友達を売って自分は逃げるとか最低過ぎる。

 

「でもって、最終的には兄貴と小春を説得させて、小春は楢崎春って芸名でポーチカに加わった。私もそれ以降は小春のことを春って呼ぶようにしてる」

「そもそも、どうして芸名で?」

「芸能活動をするにあたってメディアの露出は確実に有り得るでしょ。だから本人バレ防止……っていうのが表向きなんだろうけど」


 ルーチェは訝しげな表情で続ける。


「春は幸村小春って名前をアピールしたくないのよ。なんでかは知らないけど……」

「……」

「だから、あんたに聞いてるの。私が春と会う前のあの子を知っているあんたに」

「……別にあんまり話すようなことはない。小春から聞いての通り、俺達は少し関わりがあっただけだ」

「じゃあ、なら何で小春の抱える悩みに思い当たるって顔してたのよ。さっきあんたがそう感じていたのを私はちゃんと見てたから」


 意外な場面で思わぬ勘の鋭さを発揮する。

 核心を得たルーチェにこれ以上の誤魔化しは利かない。


 黙って逃げようとすればするほど不機嫌になって後々、部屋で吐かせるまであれやこれやと手段を尽くして無理矢理にでも問い詰めてくるだろう。

 結局のところ、逃げ場がない。


 嫌な予感を悟った俺は深く溜息を吐き、マンションまでの帰り道の間に俺と小春の過去(告白した事実を除く)話を渋々語ったのであった。

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