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百十六幕 IF/文化祭⑭

「あ~あ、せっかく脱出まであと一歩だったのに~」


 鍵を入手し、番号と同じ扉まで小春は見つけていた。

 三人が合流すれば脱出成功であのお化け屋敷をクリアしていたかもしれない……が、ゲームマスターがルーチェである以上、それは叶わない確率の方が高い。

 現にルーチェは脱出させないような画策を四人へと仕向け、陽一の読み通り本来とは違う順路に誘って分断させることで、時間稼ぎに努めていたと後で白状した。


「にしても、ルーちゃんが指揮していたとは思わなかったよ。そもそも、学校に来ると思わなかった」

「通信科の文化祭参加は初日か最終日のどっちかは参加する決まりなの。だから、仕方なく」

「と言いつつも、雪女みたいなコスして楽しんでいたみたいじゃん?」

「肌が白いのと銀髪が合うからって無理矢理……てか、このままでウロウロしたくないんだけど」


 ルーチェの容姿はかなり整っているためかなり目立つ。その上、他とは違うお化け屋敷用の白装束を纏いし白銀の美少女が校内を歩いていれば行き交う人の目につくのは自然の流れ。

 無論、要因はルーチェだけに非ずその両サイドで並んで歩く二人の存在もあってのこと。

 

「ダメだよ。せっかく可愛い格好をしているんだし……それに宣伝にもなるじゃない?」


 これは罰だよ、ルーチェちゃん。と言わんばかりの笑みで唯菜は答える。


「宣伝って言ってもあんだけ容赦なく怖がらせていれば自ずと広まるでしょ。悪評が」


 昨日までは恐怖体験が可能なお化け屋敷という企画らしくあんな風に脱出形式を取った催しでもなかった。しかし、そこにルーチェの『もうちょっとゲーム性を加えたい』といった案が追加されて、制限時間内の脱出仕様に変わり、難易度向上を名目とした更なる恐怖体験が味わえることを売りにするべく、行動不能・リタイア続出のお化け屋敷へと様変わりしてしまったらしい。


「まぁ、あれはあれで楽しかったよ」

「こっちとお化け役は全然楽しくなかったよ。小春ってばいくら脅かそうとしても全く怖がらないからもう頭抱えてたし」

「いや~結構ビックリしてたよ。内心ではね」

「それは驚いていないと同じでしょ」

「外的反応を見せないと分からないもんね」


 香織の教室まで向かう途中、唯菜、小春、ルーチェの三人で仲良く並んで話す後ろを明里と渚が並ぶ形で廊下を歩いていた。三人を目の当たりにしたポーチカを知る生徒は「今、ポーチカの三人だよね」「ルーチェちゃん可愛い」「唯菜さん、私服可愛い」といった声が後ろに居る二人の耳に入り、そんな三人のポーチカが揃った珍しい光景に渚はふと「いいの?」と尋ねる。


「何が?」

「私なんかがここに居て」

「居たくないの?」

「私はポーチカじゃないし」

「でも、三人とは知り合いでしょ。渚はポーチカのファンなんだし」


 ポーチカファンでもある渚にとって三人は応援しているアイドルグループのメンバー。

 決して知らない仲でもなければ、交流が初めましてということもない。

 顔見知り程度の仲なのは一番接点の無さそうな唯菜と関わりからも伺える。


「……私は明里のファンなんだけど」

「……妬いてる?」

「……妬いてます」


 唯菜と顔を合わせて以来、妙に機嫌斜めな雰囲気。

 約束をすっぽかして他の女と遊んでいることにヤキモキし、照れ臭そうにそう素直に気持ちを伝えてきた渚は恥ずかしそうに若干耳を赤く染める。


「ごめん。やっぱ、今の無し」

「なんで?」

「なんか、重いし……ファンの悪い所でてた」

「渚は私のファンなの?」

「え?」

「友達じゃなくて」

「あ~そっち。変な質問するから少しビックリした……そうだね、ファンでもあり友達かな」

「じゃあ、いいんじゃない?他のファンとは違う特別な関係を持っているんだし、重くたって当然」


 他の人には決して知らないヒカリを渚は知っている。

 姉の凪だって知らない明里を渚は知っている。

 そんな他とは違う特別な関係で……唯菜に負けないくらい明里が好きだからこそ、妬いて重くなるのも当然。


 自分の心を見透かした明里らしくない台詞に渚は「自意識過剰さんかな?」と意地悪く反撃に出る。


「好きなくせに」

「勿論、好きだよ。私にとって明里はアイドルでもあり大切な友人だからね」

「じゃあ、渚もポーチカに入れば?」

「嫌だよ。私がアイドルとかムリムリ……それに私は応援する立場で居たいから、ポーチカには入らない」

「へー意外」

「意外って……これ前も話したでしょ」

「そうだっけ?」

「はー明里ってばそういう所、悪い癖だよ」


(そうは言われても……本当に知らないんだけどな)

 

 身に覚えのない話を忘れていることを咎められ理不尽だとも言い返すことの出来ないこの状況。

 明里として過ごす以上「ごめんごめん」と笑って返すことしかない。

 ただ、こうして話をすることで少しでもいつも通りの渚に戻ってくれたことに陽一は内心でホッとする。

 しかし、こんなやり取りももうあと僅か。


 この時間は有限。

 シンデレラに掛けられた魔法が解けるのと同様、陽一の身に起きたこの摩訶不思議な入れ替わり現象もそろそろ終わりを迎える。

 もっとも、シンデレラの魔法と違ってそれは己の意志によって何時でも解除可能。

 十二時のお告げならぬ、交代のお告げが来るまでのあと僅かの一時を明里として過ごし……ガラスの靴を本来の主へと返すことを決めていた。

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