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百十五幕 IF/文化祭/お化け屋敷⑬

(なんだろう。さっきから脅かしてくるタイミングが妙にバラバラなんだよね)

 

 小春は脅かし役が仕掛けてくるタイミングに違和感を覚えていた。

 それもその筈、小春が少しでも驚くような反応をお化け役の生徒達と画策するルーチェは定石通りの指示は与えて居らず、敢えて小春の不意を突くといった脅かし方を指示していた。


 それには小春も内心で驚くような反応を示していたが観測者達に一切分からないようなもの。

 少しでも驚く様を見たいと躍起になったルーチェはあの手この手を使って小春を脅かしにかかるも依然と手応えはないことに頭を悩ましていた。


「もう!どうしたら春は驚くの!!」


 頭打ちだ。と嘆くルーチェ。

 画面の中冷静沈着な推理でお化け屋敷に仕掛けられた謎を解き、脱出用の鍵が置かれている金庫の鍵の番号を入力した小春の手に鍵が渡ってしまう。

 ゲームクリアへと一歩近付くその様子に悔しさを露わにする一方で、先程から他の画面に一切映らない三人に気を配る。


「さっきから唯菜やヒカリが見つからない……」


 設置した監視カメラは限度がある。

 特に二つ目の屋敷はルーチェが持つ指揮権の管轄外。そのため、映像は流れてこない。

 今いる部屋の中から体育館内に繋がる扉を開き、卓球を行う格技スペースから迷宮内を直に見下ろさない限り、確認することはできない。

 

 しかし、他のエリアで小春しか映っていない以上、裏を返せば二つ目の屋敷から三人は未だ脱出していないことが伺える。これまでの挑戦者の殆どが、二つ目の迷宮内で時間制限を迎えるか、リタイアに追い込まれて失敗に終わっている。三人もまた同様な状況に陥っているのだとルーチェは確信する。


「小春の足止めは失敗しても、三人は未だあそこから出られていない。残り時間はあと十分……四人が合流できなければ私の勝ち」


 背に腹は代えられぬと覚悟を決め、直ぐに勝利に向けたシフトへと切り替える。


「この際、さっきみたく唯菜を集中的に思いっきりビビらせて腰でも抜かして動けなくさせればリタイアに追い込める筈!」

「ルーチェちゃーん」


 耳元で囁くように名前を呼ばれた直後、ふぅと小さく吐息を吹き掛けられたルーチェは思わず「ひゃうんっ!!」と可愛いらしくもみっともない声で慌てて振り返る。


「えっ!?誰……」


 ルーチェの真後ろに立ち、名前を呼んだ人物……それは満面の笑みで怒りを滲ませた唯菜だった。

 

「ゆ、唯菜!?それにヒカリも……なんでここに!?」


 分かり易いように慌ててふためくルーチェに明里は鍵を見せて丁寧に説明する。


「これ、床の間の裏に落ちてたんだ。体育教諭用の部屋の鍵」


 ルーチェがゲームマスターとして指示していた場所は体育科目を教える教員達の別室。

 鍵は教員用で本来ならば生徒の手には決して渡らないもの。

 それが偶然にも床の間の裏の隠しスペースに落ちており、その場所からライトを壁側に照らすと鍵の合った扉が横にある。

 

 もしや、と思った三人は鍵で扉を開けて中には入り、体育館内同様に真っ暗闇の中を進んで誰かが居るであろう二階へと物音を立てずに階段を登った結果……不穏な台詞を吐きながら画面を介してお化け役を指示する銀髪の雪女らしき衣装を纏いし、知り合いを問い詰めるに至った。(唯菜が)


「それで私を脅かしてどうするのかな?リタイアに追い込むってな~に?」


 雪香に似た笑顔の裏に隠した圧がルーチェを震撼させる。

 公平なゲーム性を排したことに怒りを露わにしているのではなく、勝たせたくないという理由で唯菜を集中砲火で脅かし続けていたという事に対して怒りを露わにしていた。

 そんな珍しい光景に陽一は内心で『意外』と呟く。


「はぁ、それでルーチェちゃんはなんでここに?」

「なんでって、それは私達通信制の文化祭の出し物がこれだから」

「え、この学校通信制あったの?」


 陽一にとっては初耳な情報を確認する形で渚へと尋ねる。


「ウチの学校、普通科と通信科の二つがあって、普通科で芸能活動が忙しくなった子達や訳ありの人達でも勉強出来る用に通信科が用意されているの。外部からも受け入れるようにしてるから彼女みたいな子でも一応、同じ学校の生徒……知らなかった?」

「あ~忘れてたかも」

「まぁ、明里はアイドル活動してても成績良いから通信科に転向する必要なんてないから知らないと思うけど……てか、絶対に転科なんてさせないけど……」

転科れで通信科の人達も文化祭を楽しめるようにって用意されたのがこのお化け屋敷?」

「そうよ。日頃のストレスとかやらをお化けとなって合法的に解消出来るために用意されたのが体育館全部を使ったお化け屋敷。あんた達、良いリアクションするから私達も思う存分脅かしがいがあるってものよ」


(恐怖のあまり泣いている生徒も続出しているのは知っているのだろうが……それでも手を抜かずに続けるあたり、ルーチェっぽい)

 

「詰まる所、ルーチェの役割はそのモニターを駆使してお化け役に指示を与えて、参加者達を恐怖に陥れる……って感じなのかな」

「正解」

「でも、その格好してるってことはさっきまでルーチェちゃんも脅かし役だったんじゃ?」

「そうだけど、私はこっちの方が性分合ってるから代わってもらった。あと、その鍵を拾ってくれて助かったよ~失くしたら怒られる処じゃ済まないし……って、あれ?」


 唯菜の手に収まる鍵を取ろうとするもその手はひょいと下げられ、代わりに違う方の手が伸びてルーチェの腕を掴む。


「私、前にルーチェちゃんに言ったよね?脅かされるの苦手だって」

「い、言ったかな~。てか!ここお化け屋敷なんだから脅かして当然……」

「限度ってものがあるよね?普通は」


 脅かしたことへの大義名分を見つけて即座に威張って武器にしようとするも、唯菜のもっともたる指摘にあっさりと折れる。


「そ、そうですね。ゴメンナサイ」


 一旦は反省を示すルーチェ。

 その態度に噓偽りはないと言えども、唯菜の気はそれだけじゃ収まらないし割に合わなかった。

 少し何かを考えた後、閃いた顔であることを尋ねる。 


「ルーチェちゃん、この後休憩は?」

「え、十二時からだけど」

「じゃあ、ちょうどいいから一緒にお昼行こう?その格好で」

「……別にいいけど」


 あっさりと自分を許したような唯菜の対応にルーチェはホッと胸をなでおろす。

 元々怒りとは縁遠い性格であるからか、日常的に唯菜が怒るといった場面を今まであまり見たことがなかった。しかし、ルーチェの悪戯からこれまで過去に二度程、唯菜を怒らせたことがあった。

 今回もその時も一時の怒りを滲ませるだけでその矛は直ぐに収まる。


(なーに、後でお昼でも奢ってあげれば唯菜は許してくれる)


 そんな安直な思考で唯菜の優しい器量に付けこもうとするルーチェは知らない……あの提案を吞んだことが自分にとって最大の罰となって反ってくることに。


 そんなやり取りをしている束の間、お化け屋敷内でのタイムリミットを告げるアラームが鳴り響き、スピーカーを通じて脱出失敗であるということを告げられた。

~~報告~~


遅くなりましたが……本作品のタイトル・あらすじを変更しました。タイトルにはサブタイトルのような書き方を付け加え、あらすじは殆ど書き直しました。今後ともタイトル・あらすじで変更が度々あるかもしれませんので、ご了承ください。尚、三章はあと数話で完結に向かう予定ですので、引き続き追って頂ければ幸いです。

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