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百十三幕 IF/文化祭/お化け屋敷⑪

 黒いカーテンで閉め切られ、最小限の光しか上部から差す暗闇の空間内を用意された経路に沿って進む。

 道中、様々な脅かしポイントに遭って唯菜と渚の金切り声が連続して響くことに驚かされた。

 プロの演技力には劣る可愛いお化けとの遭遇はそこまで怖くないが、突然発する奇怪な音や首筋にかかる冷ややかな水飛沫の方が不快であった。


 しかし、そんなお化け達の努力は小春に通用しない。

 いくら彼らが脅かそうとしても一切動じないのだから。

 その主な理由は冷静に脱出の手立てをエリア内から得ようと考えながら歩いているからだろう。考えることに集中し過ぎて回りに注意が向かない向けられない……という感じがする。

 それ故に、少しずつ小春との背中が離れ始めていた。


「小春、ちょっと早いって」

「あ、ごめんごめん。つい……」


 マイペースに進もうとする小春はその指摘に気付き、一旦立ち止まって追い付くのを待つ。


「急ぎたくなるのは分かるけど……二人がビビって遅いからもうちょっとゆっくりめでお願い」


 明里の両サイド。

 周囲の景観に警戒心を強めながら歩く唯菜と渚。

 お化け屋敷に入ってからというもの叫び声以外の言葉を一言も発さないまま普段の0.75倍の速さで後を付いてきている。


「まぁ、でも急ぎたくなる気持ちは分かる。この広さが探索範囲ってなると結構時間が限られるし」


 お化け屋敷と改造された体育館から脱出するためには先ずエリア内のどこかに用意されている三つのうちのどれか一つの鍵を入手し、入り口以外の前二つと後ろ一つの出入口の中から鍵の番号に合った扉を見つけ出して脱出しないといけない。


 その上、探索範囲は体育館内の全て……ステージ上やその上にある音響・照明を管理する部屋、体育館の二階に位置する細い通路とその奥に広がる卓球場、体育倉庫なども含まれる。

 故に制限時間は三十分と長めに設定されているが、この真っ暗闇の中で探すとなると時間もかなりギリギリで、このお化け屋敷から脱出に成功したのは未だ二組と少ないことからも難易度が伺える。

 

「正直な話、このゲームに参加しているのは女性ばっかりだから……私的にはあんまり怖くないかな~。ホラーゲーしている時の大音量から放たれる不意を突かれた衝撃音と油断している時に登場する奇怪な形をしたエネミーモンスの方がかなりビビるかも」


 日頃から年齢指定ゲームをやって特殊な訓練を受けている小春はともかく、ホラー耐性皆無の二人からすれば暗闇の中で突然脅かしてくるという恐怖が行動と判断力にデバフを掛けている。

 そんな二人に合わせて屋敷のような作りをした通路を進んでいると別れ道に出くわす。

 

「道が二本……」

「どっちかが正解のルートで、どっちかが行き止まり。あるいはどっちも何処かに続いているかもしれない」


 道が一つとは限らない可能性は十分に高い。

 出口が三箇所もあるならどちらに進んでも引き返すようなことはないだろう。

 そこで小春はわざとらしくライトが二本用意されていることを指摘する。


「二人を置いては先に行けないし……ライトは私と明里が一本ずつ持っているからなぁ~」

「先に小春が鍵を入手してきてもいいよ。こっちは脱出用の扉を探すから」


 扉がある位置は体育館の構造から考えれば凡そ把握は出来る。

 問題はこの迷宮みたく入り組んだ暗闇の経路から扉に繋がる道を探し出して、尚且つ入手した鍵の番号と同じ数字の扉に辿り着く必要があるとういうこと。

 幸い手元には二本のライトがある。

 二手に分かれて効率よく攻略する方が早いのではないかと提案する。


「ふむふむ、それは確かにアリかもしれない」

「まぁ、攻略するならそうする方がいいと思う。多分、唯菜と渚の面倒見ながらだと色々……ってあれ?二人は?」


 さっきまで後ろに居た筈の二人がいつの間にか消えている。

 それどころか後ろにはなかった木の板がいつの間にか壁として敷かれ、退路を断っている。


「分断された!?」

「なるほどね。さっきから溝に敷かれたレールみたいのが等間隔に配置されているから変だとは思っていたけど……まさか、お化けさん達がただ脅かすだけじゃなくてここを正真正銘の迷宮に作り変えているとは思いもしなかったよ」


 面白いじゃないか!と言わんばかりのゲーマー魂を燃やす小春。

 一方で、俺は分断されたライトを持たない二人がどうしているのかが気掛かりになった。


「不味い。これだと四人全員での脱出が難しくなるぞ」


 先程から後ろの方から聞こえてくる叫び声や悲鳴が少しずつ遠く離れている。

 誰か一人でも欠けた形での脱出は失敗というルールがある以上、二人との合流は不可欠。

 

「アハハ!面白くなってきたじゃん!」

「そうかもしれないけど……唯菜と渚が先にリタイアしたらその時点でゲーム失敗だというの忘れてないよな?」

「あ、そうだった」

「……ま、一先ず二人は俺が見つけ出すから小春は脱出の意図口を探ってくれ」

「了解!」


 お化けの脅かしなぞに臆病にならず冷静な判断力で動ける小春に脱出に繋がる方法探しは任せ、ステージ上へと繋がるルートへと向かって行った。そして、残った別のルートから二人と合流すべく、体育館内に絶えなく響き渡る二人の悲鳴から凡その位置を把握しながら進む。

「ふふっ、分断成功~」


 体育館内のエリア内にあちこち仕掛けられた監視カメラを通じて四つのモニターに四人の行動が映し出され、壁越しでも薄っすらと聞こえる見知った人物の悲鳴にゲスの笑みを浮かべるルーチェ。

 自身も雪女を模した全身白装束の着物を身に纏い、普段以上に色白さを象徴させる化粧を顔に施していた。


「あ、C班の人。そっちに一人向かってるから脅かしといて~。A班はスライド板で経路の変更をよろしく~」


 大雑把で適当な指示をインカムを通じて出す。

 

「さてと、あのビビっている二人はともかく……問題は春とヒカリね」


 先程から動じずに肝を強く保ちながら進む小春と所々驚きながらも暗闇の中を勇敢に進む明里。

 この二人を恐怖で行動不能に陥らせるのは不可能だと悟った。

 問題視すべきはゲームだと思って脱出を図ろうとする小春。

 

 歩きながら徐々に頭の中でマップを開拓し、既存の体育館内の情報と参照しながら歩いているのが映像を通じて伝わる。そんな小春を止めるのは不可能だと判断し、敢えて間違ったルートへ誘導することを狙う。


「唯菜やヒカリ、春達には悪いけど……私がここでお化け屋敷のゲームマスターを担う以上、脱出はさせないから」


 ニヤリと笑みを溢し、悠長にストローでパックジュースを飲みながらモニタリングするルーチェは仲間でもあり、頼もしいパートナーを敵に回していることに一種の娯楽を興じていた。

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