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九十七幕 IF/文化祭・開幕

 蘭陵女子学園祭、当日。

 文化祭における恒例行事であるオープニングセレモニーに参加する多くの生徒が照明の消えた薄暗い記念講堂へと集っていた。


 毎年、このオープニングセレモニーには蘭陵女子学園のOBで且つ有名なアーティストの方々を招き、曲を披露してもらうというのが恒例となっている。

 それ故に、このオープニングセレモニーで今年もどんなシークレットゲストを迎えて、どんなパフォーマンスをしてくれるのかという期待の声が会場の大講堂であちこちから挙がっていた。

 そんな中、一人で席に着いた渚が少し俯き加減で溜息を吐いていた。


「明里……何処に行ったんだろう」


 記念講堂に入る寸前まで一緒に居た明里とはぐれた渚はスマホ端末でやり取りを交わしながら明里の姿を探すも、五分前から一向にメッセージが返ってこないことに不安を覚える。

 

「せっかく、一緒に観ようと思ったのに。はぁ、これだと私、ぼっちじゃん」

「あら、渚さん?」


 ふと声を掛けられて真横の方を振り向く。

 薄暗い影の中を少しばかり凝らして見ると明里と瓜二つの顔をした少女が座っていた。

 近くで見ると本当にそっくりなのだと認識させられる明里の姉妹である人物の名を呼ぶ。


「香織……ちゃん」

「ふふっ、香織で大丈夫ですよ」

「……そういう香織こそ、私のこと『さん』付けじゃん」

「学園では一応、こういうキャラなので」

「だから、私も気を遣って『ちゃん』付けしたんだよ」


 明里と仲の良い渚は香織がどういう性格をしているのか少なからず他の生徒以上に知っている。

 学校ではお互いに話す機会は少ないものの、プライベートで明里を介して遊ぶ際は気さくな口調で話す間柄である。


「まぁまぁ、細かいことはさておき……お姉ちゃんは?」


 先程よりも小さい声で尋ねるも、渚はその答えを自分も探していると返す。


「ここには居るらしいんだけど……席に着いちゃって動けない上に、さっきから返信がないんだよね」

「まぁ、この形だと厳しいよね」


 そう話しているとステージの照明が明転する。

 明るい光と同時に特徴的な桃色髪の少女がマイクを持ってステージに立っていた。

 香織がよく知るツーサイドアップの髪型ではなく下してストレートに流した髪型をしている様子から生徒会モードに入っているのが分かる。


『皆さん。お集まりいただきありがとうございます。この度、第30回蘭陵女子学園祭のオープニングセレモニーで司会を務めさせて頂きます。安達春乃です。短い時間ですが、どうぞよろしくお願いいたします』


 春乃のにこやかな表情から放たれる挨拶に大勢の生徒から拍手が送られる。

 

「やっぱり、あれ変じゃない?」

「知らないよ。私は春乃さんのことよく知らないし」

「姉妹揃って私達のファンじゃないの?」

「ファンはお姉ちゃんであって私じゃない。私はポーチカ単推しって決めてるから」

「……許す」


 明里程ではないしにしろ、渚と香織は冗談が言い合えるくらいには仲が良い。

 もっとも、お互いに明里が居る前では決してこういう会話をしない。

 二人で偶然にも顔を合わせた時だけに見られるレアな一面が垣間見える一方で、鳴り止んだ拍手と同時に意識をステージ上へと戻す。


 すると、二人が目を離したその間に春乃は髪型を見慣れたツーサイドアップにしていた。

 ゴホンと咳き込み、さっきよりも格段に明るくアイドルとしての安達春乃へと変貌した様子に香織は少々嫌な予感を抱く。その直後、ステージに立っている春乃と一瞬だけ不思議と目が合った気がして、背筋に妙な悪寒が走る。


『それでは皆さん。改めまして、SCARLETの安達春乃です!よろしくお願いいたしま~す!』


 表情と抑揚…そして、SCARLETという単語を変えただけで先程とは打って変わって異様な盛り上がりが沸き起こる。

 

『いや~ありがとうございます。折角の文化祭なんで、私もいつもの安達春乃verじゃなくて、皆さんもご存知であろうSCARLETverの私でやっていきたいと思います!』


 ついに化けの皮が剝がれた。

 文化祭という非日常感を演出するべく、自らもまたその流儀に則ってアイドルらしさ全開で司会をするサービス精神旺盛なメンバーに香織は心の底から尊敬した。

 

『皆さん、あっという間の準備期間でしたね。各クラスや部活動、委員会がこの日の為に色々な準備をしてきてくれたと思います。私達、SCARLETも二日目の最終日に行われる学園祭ライブに向けて特別な準備をして参りましたので、是非ともペンライトを持ってライブに参加して下さい!』


 自然な流れで告知する司会者としての能力の高さに香織はやっぱり敵わないと評価する。


『あ、ちなみになんですが……今回はですね。ライブ形式ということなので、実際のライブみたくバックスクリーンにライブ映像も流しながら進めていくんですよ。すいません、映像研究部の皆さん、お願いしまーす』


 手を振るう春乃の合図と共に講堂の大画面モニターに壇上で手を振るう春乃がLIVEで映し出される。そのかつてない心意気に生徒達が驚きの声を漏らす。


「本格的」

「うん。これも全部、春乃が進めた企画らしくて……凄い気合い入っている」


 映像研究部をスタッフ役に総動員して行うライブ企画。

 外部からの出演に携わるプロの力を借りつつも、学生が主体となって文化祭を盛り上げるという生徒会の意志が大きく反映された形で迎えられている。

 そんな中でもSCARLETと文化祭の架け橋を担った春乃の功績はかなり大きいものであった。


『おーいいですね。こうやって自分がバックモニターに映りながら話しているとなんだかステージに立った気分……だけど、まだ早いよね。本番は明日なので、今日はまだ抑えておきましょう』


 笑いを誘うトークをしながら昂った気持ちを抑えるべくふぅと息を吐いてみせる。

 

『それで、最後にすいません。ちょっとカメラのテストしたいんで、あちらの方を単体で映してもらえますか?』


 不意に手を伸ばして、舞台袖側のカメラマンにある人物を映すよう伝える。

 カメラ係を担った春乃の旧友でもある少女は一瞬で司会者の意図を理解して、ピンポイントでレンズに収める。


『あ、あんなところにいらっしゃいましたね~。我らがSCARLETのリーダー。三津谷香織ちゃんで~す』


 事前に香織の居場所を確認した上で白々しい演技で紹介する春乃に内心で怒りを覚えるも、決してそんな素振りは見せないで座ったまま笑顔で手を振ってみせる。

 その傍らに居る渚は出来るだけ入らないように身を引いて苦笑いを浮かべていた。


『はい。ありがとうございます……では、本日のオープニングセレモニーのメインプログラムへと早速ですが、移っていきたいと思います!皆さん、座席の腕置きの所にシールで貼って置いてありますペンライトをお手に取ってください』


 百均ショップでよく見掛ける簡易式のペンライトが用意されていた。

 黄と青の二色が傍聴席で交互に織り成す光景にはより一層本格的なライブの光景が想起される。

 春乃の思い描いた理想的が広がる様子に思わず『いい』と口を緩めてしまう。

 この胸の昂ぶりをより一層高めるべく進行を続ける。


『ではでは、今年で栄えある30回目を迎える蘭陵女子学園祭でのオープニングライブを務めて頂く、シークレットゲストの登場です!二人共、頼んだよ~』


 軽いノリでバトンタッチをすることを告げてから暗転したステージ上から舞台袖へと掃く。その影と交代するように両袖から一人ずつ動く影が映る。

 再び、明転したステージ上に立ったのは渚と香織がよく知る二人の人物。


「え……!?」

「やっぱり……」


 驚きを露わにする渚と何となく気付いていた香織。

 二人の登場に即して一斉に女子生徒達は立ってペンライトを振るう。

 

『皆さーん。初めまして、ポーチカの三ツ谷ヒカリと……』

『楢崎春です!』


 ヒカリと春。誰もが予想だにしなかった在校生からの出演に多くの歓声が湧き起こる。


『……と、言いたい所なんですが、この格好を見てお分かりだと思いますが今日の所は三津谷明里と

幸村小春としてお送りします!』


 2-Aが行う『美女と野獣』の劇に際した衣装を纏った二人。

 演劇の告知も兼ねて二人はポーチカではなく蘭陵女子学園の生徒である三津谷明里と幸村小春として特設ステージに立っていた。

 そんな二人に改めて歓迎の声が湧く。

 渚と香織もまた、熱狂的なポーチカのファンとしての立場から意地を示す応援で他よりも目立っていた。

 一瞬でステージから二人を見つけた明里はクスッと笑って見せると真横の舞台袖で黄と青のペンライトを手にした春乃へと合図を送る。


『それでは聴いてください。ポーチカで【HAVE FUN】』

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[一言] 再開を心待ちにしています!頑張ってください!
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