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44.聖女と料理の関係は


『聖女の役割? それなら、リナリアが生きててくれれば十分だよ。それだけでこの大陸のモンスターもぐっと数が減るし、人間も助かると思うよ』

「えっと、それはどういう仕組みで……?」

『リナリアの魂は魔力をたくさん吸い込んで、綺麗にして吐き出してくれるの』

「空気清浄機……?」


 ぼそりと呟く。

 まさかの生きる空気清浄機扱いだった。


『ん~わかりやすく説明するとね、人間が瘴気って呼んでる汚い魔力が増えすぎると、生き物は皆死んじゃうの。だからそうならないようにモンスターは瘴気を浄化していて、綺麗になった魔力が、体の中に魔石となって固まっているの』

「モンスターって、瘴気から生まれると聞いてるんですが……」

『間違ってはいないかな? たくさん瘴気があるところを綺麗な魔力にしようと、モンスターは生まれてくるの。そうしてこの世界の均衡は保たれてるんだけど……あんまりにもモンスターが増えすぎると、人間が困るみたいだから、私が力を貸してあげてるの』

「……つまり、それが私?」

『正解! リナリアは生きてるだけで、たくさんの瘴気を綺麗にしてくれるの。それこそがリナリアに私が望む役割だから、あとは自由に生きるといいよ。光の女神である私が魂に祝福をかけた影響で、リナリアはたくさんの光の魔力を持っているから、生活するのは困らないと思うし』


 私の高い魔力量も、フィルシアーナ様にとってはオマケのようなもののようだ。

 そこらへんの感覚のズレはやっぱり、人間ではなく神様ということかもしれない。


「……ん、そういえば、ちょっと待ってください」


 疑問はおおよそ解けたが、まだ気になることがあった。


「私の従妹のマリシャも、強い光の魔力を持っているようなんですが、そっちにはフィルシアーナ様は関与してないんですか?」

『私は知らない子だけど……たぶん、リナリアの影響だと思うわ』

「私の?」


 目をぱちくりとさせる。


 フォルカ様と会うまで、私は魔術はひとつも使えなかった。

 思い出しても、マリシャに何か特別なことをした記憶は無いはずだ。


『リナリアの魔力は、人間としては飛びぬけてるもの。ずっと近くにいると、その相手にも多少、一時的に魔力が増えたりとか、何か影響が出てもおかしくないわ。特にリナリアの魔力を直接取り込んだりしたら、影響が大きいと思うもの』

「直接魔力を取り込ませるなんて、そんなことをした覚えはありませんが……」

『そんなに特別なことじゃないわ。魔力は少しずつだけど、いつもリナリアの体から漏れ出しているもの。だからリナリア自ら作った料理を何年も、特に成長期の子供が食べているとかしたら、強い光の魔力が宿ってもおかしくないと思うわ』

「あ、それは……」


 思いっきり心当たりがあった。

 おじさんの家で私は多くの家事を押し付けられていた。ご飯の準備も、もっぱら私の役目だ。


「ひとつ年上のマリシャは数年間、私の作った料理を食べていました」

『きっとそれが原因よ。食事が原因なら、一年もリナリアの料理を食べなければ影響が抜けるはずだわ』

「なるほ――――」

《リナリア》


 フィルシアーナ様との会話に、再びフォルカ様が割り込んできた。


《そろそろ神官長に呼ばれている時間だぞ》

「あ、そっか。フォルカ様ありがとうございます!」


 話し込んでいたせいで、結構な時間がすぎていたようだ。


「フィルシアーナ様、失礼しますね!」


 手を振るフィルシアーナ様に見送られ、私はフォルカ様と部屋を出た。


 今私は、王都の神殿に逗留している。


 城壁の上から、大量のモンスターを浄化したあの日。

 王太子ウィルデン殿下が私を保護しようと言ってくれたけれど、丁重にお断りしている。


 ウィルデン殿下はエル誘拐事件に関わっていたかもしれないし、裏表のある人に見えたからだ。

 代わりに私はウィルデン殿下と距離を置いている勢力、神殿にお世話になることにした。


 たくさんの人たちの前で、あんなにも強力な浄化の魔術を使ってしまった以上、モンスターを消してはい終わり、とはいかないのだった。


「失礼します」

「どうぞ」


 入室し、白いひげをたくわえた神官長の向かいに腰を下ろした。


「リナリア様の今後について、お知らせしたいことがございます」


 少しどきどきしながら、神官長の言葉の続きを待つ。


「神殿上層部と政治中枢部の話し合いの結果、リナリア様にはこのまま、メルクト村で暮らしていただけたらと思います」

「……ありがとうございます」


 ほっとひと息つく。

 あの日きわめて強い浄化の魔術を放った私を、聖女として担ぎ出したい人は多いらしい。


 けれど私は、そんな人たちの思惑に翻弄されるのはごめんだし、聖女だと敬われても困ってしまうのが本音だ。


 メルクト村に帰り子狐亭を切り盛りする生活が送りたい、と。

 そんな私の希望を叶えるため、神官長たちは尽力してくれたようだ。


「聖女様が過度に政治と結びつくのは、わたくしどもの望むことではありませんからな。王族や貴族の方々も、マリシャの件で懲りたのだと思いますよ」

「マリシャの……」


 つい先日まで、聖女だともてはやされていたマリシャ。

 しかしモンスターを前にしても浄化の魔術を使えなかったことで、本当に聖女なのかと疑問視されてしまったらしい。


 その後、念のためにと魔力を再測定した結果、魔力量が大きく減ってきているのが判明。

 今やマリシャを聖女として扱う人は少ないようだ。

 フィルシアーナ様の言っている通りなら、あと数か月もすれば、マリシャの魔力は人並みになるはずだった。


「マリシャは今後、どうなるのでしょうか?」

「確かなことはわかりませんが……。マリシャの魔力量の減少が止まらなければ、聖女としての地位を失い、周りから人が去っていくはずです。加えてマリシャの両親がここ数年間、リナリア様のご両親の遺産を使い込んでいることも判明しています。今後は使い込みの返却と罰金を支払うために 、故郷へと戻り毎日働くしかありませんな」


 故郷へと戻り毎日働く。


 言うだけは簡単だが、使い込み分と罰金の支払いがあっては、生活もカツカツになるはず。

 マリシャたち一家が上手くいかないのは目に見えているとはいえ、だからといって何年も私を虐げていた相手を、今更助けようとも思えないけれど……。


 ユアンの存在が唯一気がかりだった。


「……マリシャの弟、ユアンは今どうしていますか?」

「引きこもっているようです」

「え?」


 どういうことだろう?


「どうも、王都にやってきて環境の激変に耐えられず、家族とも溝ができてしまったようでな。両親も放置し歩み寄る気が無いせいで、ユアンはここのところは一日中、部屋に閉じこもりリナリア様に会いたいと言っているそうです」

「ユアンが……」


 私は少し考え込んだ。

 このままユアンがマリシャたち家族と暮らしても、幸せにはなれない気がした。


「……神官長様、ひとつお願いがあります―――――」


お読みいただきありがとうございます!


本日、書籍版の正式発売日となりました!

記念に本日中にもう一話更新予定なので、よろしくお願いいたします。

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