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38.王都に到着しました


「ルークさんはなぜ、メルクト村に派遣されていたんですか?」

「……厄介者ばらいのようなものだ」


表情を変えることなく、ルークさんは自らの派遣理由を話してくれた。


「厄介者? ルークさんがですか? 信じられません」

「ありがとう。だが間違いない。俺が昔から、ミヒャエル殿下と交流があったのは話したか?」

「ヤークト師匠とエルのお母さんの縁が元で、付き合いがあったんでしたっけ?」

「そうだ。俺が竜騎士団に入隊し王都で働きだした後も、メルクト村に帰郷した際は離宮まで足を伸ばし、ミヒャエル殿下の様子を見に行っていたんだ」


 エルのお母さんはメルクト村を『氾濫』が襲った翌年、流行り病で儚くなってしまったと聞いていた。

きっとルークさんはエルを不憫に思い、顔を出してやっていたのだ。


「俺に何か特別、深い考えがあったわけではなかったが……。竜騎士団の上層部や、上層部とつきあいのある人間は、そう思ってはくれなかったようだ」

「あ……」


 話の輪郭が見えてきた。


「エルは王位継承権が低いとはいえ王子で、もしかしたら王太子殿下を脅かすかもしれない人間で、そんなエルと交流のあるルークさんは、王太子殿下の派閥の人からしたら厄介ものだったってことですか……?」

「当たりだ。君は賢いな」

「わっ!」


 褒められ頭を撫でられてしまった。

 少し恥ずかしい。


「俺がミヒャエル殿下のため、王都で要人と人脈を築き影響力を強めるかもと、そう恐れられていたようだ。俺にはそんな考えも能力も無かったが……。誤解されても仕方無かったからな。俺は一年ほど前、王都での竜騎士団の任務から外された。『氾濫』の予兆が無いか調べてこいと、メルクト村へ派遣されたんだ」

「そんな事情があったんですね……」


 一種の島流し、体のいい左遷人事の結果、ルークさんはメルクト村へ派遣されたようだ。


「俺としても、もしかしたらまた『氾濫』が発生するかもと気がかりだったから、望むところだった。……だが聖女様が見いだされたことで、ミヒャエル殿下を取り巻く状況は大きく変わってしまった。聖女様の婚約者候補となったことで殿下の政治的な価値は、望まずして高くなってしまったんだ」

「……だから、エルと交流のあるルークさんも、護衛任務を命じられたんですね」

「どうやらそのようだ。竜騎士団の上層部はミヒャエル殿下と馴染みのある俺を護衛につけることで、ミヒャエル殿下の心証を良くしたいようだ」

「……政治って怖いですね」


 冷遇した相手であっても、状況が変わればあっさりと掌を返す。

 ルークさんは竜騎士というエリート、希少な人材であるからこそ、政治中枢部の人間の思惑に振り回されているようだ。


「俺に政治はわからないが、剣を振りクロルを駆ることはできる。これからはミヒャエル殿下を狙う敵も増えるから、しっかりとお守りするつもりだ」

「……無茶はしないでくださいね」


 私はそう告げることしかできなかった。

 ルークさんと私との距離を実感する。


 本来であればルークさんもエルも、私のような平民と会話を交わすことはないはずの相手だ。

 メルクト村での交流は、いくつもの偶然の上に成り立った束の間。

 この先の道は分かたれているのだと、寂しさと共に理解してしまった。


「――――ルーク! リナリア! 待たせたな!」


 車輪の音を響かせ、エルを乗せた馬車がやってきた。

 扉が開かれるとぱたぱたと、フィルが肩へと飛んでくる。


「ちぴきゅっ!」


 頬っぺたへと、白い羽に包まれた丸い体を、フィル様がすり寄せてくる。

 頭から生えた飾り羽が、ふよふよと私の顔の前で揺れていた。


「フィル、六日ぶりだね」


 指の腹で、柔らかく頭を撫でてやった。


 滑らかな羽毛と、人間より高い体温。

 羽を畳んだフィルはころんと、小さく丸い見た目になっていた。


 王族以外には懐かないはずの聖鳥だが、フィルは初対面時からとてもフレンドリーだ。

 聖鳥は光の女神であるフィルシアーナ様の眷属だから、光属性の魔力を持つ私とは、相性がいいのかもしれない。


 ぴぃぴぃと甘え鳴くフィルを撫でていると、


「そろそろ行くぞ! 王都へ向け出発だ!」


 エルの号令が響いたのだった。 



☆☆☆☆☆



 馬車に揺られ五日間。

 車輪から伝わる音と振動にようやく慣れてきた頃、目的地の王都へと到着した。


「わぁ……!」

 城壁の門を抜けると、一気に空気が華やいだようだ。


 大きな道の両側にずらりと、建物が立ち並んでいる。

 数えきれないほどたくさんの人。

 道幅は広く、大型の馬車同士でも余裕ですれ違えそうな立派な通りだ。

 道の左右にはあちこちで屋台が出ていて、メルクト村では見たことの無い料理も売られている。


「きゅぅぅ……!」


 窓から顔を出し、コンが屋台の一つを見ている。

 漂う匂いが気になるようだ。

 フォルカ様も興味があるのか、ぴくりと鼻先が動いていた。


 この馬車に乗ってるのは私とコン、フォルカ様、エルとフィル、それに護衛の男性が二人だ。

 ルークさんは旅の間、クロルに乗り馬車の斜め前を飛んでいたが、王都入りした今は一旦離れ、竜騎士団の建物へ報告へ向かっている。


 前方を見上げると空を舞うクロルの姿と、王城の尖塔が目に入った。

 この世界に生まれ変わってから見た中で、圧倒的な高さを誇る建物。

 王家の威光を示すように、王都中央に聳え立っているようだ。


 王都の構造は同心円状。玉ねぎの中央にあたる部分が王宮で、その周りが順番に貴族街、裕福な平民の住む区画、今いる多くの平民が行き来する区画となっているらしい。


 馬車は貴族街にあるお屋敷、エルの母方実家の持つ屋敷の一軒へと向かっている。

 旅の汚れを落とし身支度を整え、王宮にあがるのは明日になる予定らしい。

 私は王宮には上がれないので、あとは王都を見学して、メルクト村へ帰るつもりだ。


「…………」


 もうすぐエルともルークさんともお別れだ。

 寂しくなると思っていると、馬車が減速していく。

 大きな屋敷の馬車止まりらしき場所に停止したようだ。

 

 エルの母方実家は勢いを弱めていると聞いたけど、それでも平民からすれば十分に豪邸だ。

 やや気おされつつ、馬車から降りるとずらり、と。

 使用人と侍女が並び出迎えていた。


「ミヒャエル殿下、ようこそお越しいただきました」

「あぁ、歓待ありがとう」


 エルが手を振り、堂々とした足取りで歩いていく。


 すごいなぁ。

 王族だけあり、こういう場面での振る舞いが様になっている。

 感心しいると、ふと。


 よく見るとエルの手が、小さく震えているのに気が付く。

 一見余裕のようだが、やはり緊張しているようだ。


 出迎えの歓待が一段落し、周りにいるのが護衛だけになった時。

 私はそっとエルの手を握った。


「ミヒャエル殿下、大丈夫です。立派でしたよ」

「……おまえにミヒャエル殿下と呼ばれると落ち着かないな」


 エルが苦笑し、大きく息をついた。


「誰かが聞いているかもしれませんから」

「そうだな。……用心しないといけないな」


 エルはため息をつくと、腰かけていた長椅子から立ち上がった。


「気晴らしに庭を見てくる」

「はい」


 エルから少し離れついていく。

 私はエルの話し相手という肩書をもらっているので、共に行動することを認められていた。

 ちなみにフォルカ様とコンも、私のペットのようなものだと言うことで一緒だ。


 高そうな絨毯がしかれた廊下を歩き、屋敷の前方に設けられた庭を歩く。

 綺麗に整えられた低木や花々を見ていると、


「ミヒャエル殿下、失礼いたします」


 屋敷の使用人が慌てた様子でやってくる。


「聖女様がこちらへやってくるそうです」

「聖女様が? 今から?」

「そのようです。ミヒャエル殿下の王都入りを知り、さっそくいらっしゃるそうです」


 聖女様、行動が早いようだ。

 少しすると豪華な馬車が屋敷へとやってくる。

 馬車止まりへ向かい頭を下げていると、馬車の扉が開かれた。


「あなたが、私に婚約を申し込もうっていう王子様?」

「――――っ⁉」


 顔が引きつる。叫んでしまいそうになる。


 どうして⁉

 どうしてマリシャが⁉


 なんで聞こえた声が、馬車から降りてきた聖女がマリシャなの⁉




本作が書籍化することになりました!

レーベルはベリーズファンタジー。イラストはわたあめ先生に描いていただいています。

記念にこちらの方も、本日もう1話更新予定です。


書籍版の発売日は電子書籍が本日4月30日、紙書籍の正式発売日は5月5日となっております。

電子版はすぐに購入可能。書籍版も早売りで、既に店頭に並んでいる地域もあるようです。


書籍版には書き下ろし番外編も収録されているので、なろう版ともども楽しんでいただけたら嬉しいです!


こちらのページ下部に、クリックしていただくと書籍版の情報をまとめた活動報告に飛べるリンクと、

表紙イラストを掲載しているので、ぜひご確認くださいませ。

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