30.シマエナガに似ています
翌々日から、ルークさんとの見回りが始まった。
万が一の事態がないようにと、フォルカ様もついて来てくれている。
緊張しつつも特にトラブルもなく、順調に見回りは進んでいった。
モンスターはいるにはいたが、小型で危険度の低い種類のみのようで、この程度なら人里近くの森でも珍しくないそうだ。
放置しても問題ないらしいが念には念を入れ、魔石のためにも浄化で退治していく。
見回りの6日目。
今日見つけたのは、猿とトカゲを足して2で割ったような、細長い手足と鱗を持つモンスターだ。
集中し、素早く浄化の魔術を放った。
『光よ、害あるを拭い不浄を清めたまえ!』
私を中心に、仄かに周りが光を帯びる。
残念ながらまだ離れた場所にピンポイントに、魔術を届かせることはできていない。
なので多少ズレても当たるように、広範囲に浄化の魔術を行使していく。
狙い通り今回も、モンスターが浄化を受け黒い煙となり消えていった。
「相変わらずでたらめな力だな」
ルークさんが小さくうなっている。
「何度か高位の神官が浄化を使う場に居合わせたことはあるが、こうもあっさりと、広範囲への浄化を使うのは君くらいだぞ?」
「……人前では、できるだけ使用を控えますね」
やはり大っぴらには使わない方がよさそうだ。
注意を新にしつつ、モンスターが残した魔石を拾っていく。
6日間で合計、9つの魔石が手に入った。
いずれも小型のモンスターから採れた小さな魔石だけど、全部あわせれば料理屋の開業資金には足りそうだ。
魔石は小さいものでも、そこそこのお値段がつくらしい。
瘴気で構成されたモンスターは人間が直接触れると害があるが、魔石は無害なようで少し不思議だ。
魔石を乾電池のように使う技術も存在し、私も魔石コンロにはお世話になっていた。
「今日はもう少し行ったところで見回りを終わりにする。じきに道が見えてくるはずだ」
「西隣の大きな町へ続く道ですね」
森の中、比較的木々のまばらな場所を切り開き、道が設けられているらしい。
しばらく歩くと、行く手に木が少なくなっていく。
森から道へ、人の手の入った領域に近づいて、ほっと息をついた。
「……待て」
ルークさんの制止が入った。
どうしたんだろう?
私は動きを止め、ルークさんの様子をうかがった。
「道に人の気配がある。それにこれは……」
「‼」
私にも聞こえた。
小さくだが羽ばたきのような、何かが飛んでくる音がする。
「モンスター⁉」
咄嗟に反射的に、浄化の魔術を周囲へと放った。
私を起点に広がる白い光。
斜め前から飛んできた、鳥の形をした何かが一瞬動きを硬直させた。
が、黒いモヤが吹き出し消えることは無く、羽ばたきを再開しこちらへとやってくる。
「モンスターじゃな――――わっ⁉」
一羽の鳥が私の近くで、羽ばたきしきりに飛び回っている。
人間に対する警戒心が無いのか、ちょこんと肩へとのっかってきた。
「白いスズメ、いやシマエナガ……?」
言ってみて、どちらも違う気がした。
大きさはスズメほどで、白い胴体と丸々とした姿は前世写真で見たシマエナガに似ている。
けど頭にはぴょこんと長い飾り羽がついているし、尻尾や羽の先端がほんのり青く染まっていた。
初めて見る種類の小鳥のようだ。
「ちゅちゅい? ちゅちゅちゅんっ!」
小鳥が何やら囀っている。
初対面なのに懐かれた?
つぶらな黒い瞳が、じっとこちらの顔を覗き込んでいた。
「その方はもしや……」
「その方? この小鳥のことですか?」
ルークさんには心当たりがあるのか、気になることを呟いていた。
詳しく話を聞こうとしたところで、
「――――て――――ま―――れ」
声がこちらへと近づいてくる。
耳を澄ますと、高い子供の声が聞こえた。
「待ってくれ! そんなに早く飛ばな―――――うわっ⁉」
小鳥が飛んできた方から、今度は子供が、おそらくは少年が飛び出してきた。
金色の髪に緑の瞳。着ている服は上等な、仕立てのよいものに見える。
年は私より少し上。十歳か十一歳くらいかな?
少年は私と小鳥を見て固まっている。
「嘘だろ? 初対面の相手にせ―――――」
「エル様」
ルークさんの声に、少年がはっとし口をつぐんだ。
「こんなところでどうされたのですか?」
「……ルーク?」
少年がびくりと肩を揺らしている。
いたずらを見つかった子供の反応に似ていた。
「……ルークこそなんで、こんな森の中にいるんだよ?」
「俺は任務の一環です」
「そんな小さな女の子と一緒に? その子何者なんだよ?」
「リナリアです」
簡単に自己紹介しておく。
「この森の近くにある、メルクト村を中心に生活しています」
「メルクト村で? 見慣れない顔だな」
「エル……様もメルクト村によく行くんですか?」
「様はいらない。エルと呼んでくれ」
エルがにこりと笑った。
気さくな性格の持ち主のようだ。
「リナリア、その方をこちらへ渡してくれ」
その方、という呼び方がまたもや気になるけど、きっとこの小鳥のことだ。
肩に手を伸ばすと軽く羽ばたき、指先にとまってくれた。
「ちゅちゅんっ……」
小鳥は体を一度指へとすり寄せると、エルの肩へ向かって飛んでいった
エルも慣れた様子で、小鳥を肩にとまらせている。
「可愛いですね。名前はなんていうの?」
「フィルと呼んでくれ」
教えられた名前を試しに呼んでみる。
ちちち、と囀りが返ってきて楽しかった。
「エルとフィルは、森の中の道を進んでいたの?」
「メルクト村へお忍びに向かうところだ」
「お忍び……」
「どうだ驚いたのか?」
「いえ、納得だなぁと」
ルークさんが敬語だし、服もいかにも高そうだ。
ただの平民です、と言われた方が無理があった。
エル自身は溌溂とした印象だけど、気品というかオーラというか、メルクト村の中で会う子供たちとは異なる雰囲気も漂わせていた。
「ちぇ、つまらないな。これでも結構、平民らしい服装と行動をしてるつもりだったのにな」
「だからさっき、エル様ではなく呼び捨てにしてと言ったんですね」
「堅苦しいし、これからもエルでよろしくな」
エルが握手を求め腕を伸ばしてきた。
「はい、エル。よろしくお願いしま――――わわっ⁉」
私の手を脇を、エルが突然くすぐってきた。
シマエナガ、かわいいですよね。
いつか北海道にいって、生エナガちゃんを見てみたいです。
 




