25.お弁当屋を始めました
料理をたくさん作るためには、やはり道具をそろえる必要があった。
今家にあるのは鍋やフライパンなど基本的なものが少しだけだ。
安定した料理の供給ができるように。
……そしてもう一つの目的のためにも、調理道具を買い足し料理の研究をしていった。
「……少し緊張するなぁ」
私は小さく体を震わせた。
いよいよ今日から、料理の販売を始めることになる。
テーブルの上に並べられたのは照り焼きサンドの箱詰め、卵焼きと野菜をつめた箱、そしてオニオンスープの三品だ。
 
家で下ごしらえをし、仕上げはゼーラお婆さんの家のキッチンを借りさせてもらっている。
冷めても美味しく食べられるよう、お弁当作りの知識を使い味付けは工夫してあった。
売れるかな? 美味しく食べてもらえるかな?
ドキドキと待っていると、さっそくお客さんがやってきた。
「ルークさん、いらっしゃい!」
記念すべきお客さん第一号はルークさんだ。
にっこり笑顔で注文を聞いていく。
「どれを買っていきますか?」
「照り焼きサンドと、そちらの卵焼きの入った箱を――――」
「よぅ、ルークにリナリアちゃんじゃないか」
男性の声。
ルークさんの知り合いのギグさんだ。私も二度ほど、ルークさんと一緒の時にしゃべったことがある。
今日は農作業の帰りらしく、肩に長柄の鍬を載せていた。
「リナリアちゃんはそれ、店番のお仕事かい?」
「作った料理を売ることにしました」
「へぇ、これ、リナリアちゃんが作ったんだ」
「美味いぞ」
ルークさんが会話に加わり、照り焼きサンドを差している。
「特にあの甘辛いタレのかかった鶏肉が挟まれたのは、おまえの好みにもあうはずだ」
「おすすめってことか。なら一つ買ってみるかな」
「ありがとうございます!」
お客様二号だ。嬉しい。
ギグさんからお金を貰い、照り焼きサンドの入った箱を渡した。
「じゃあさっそく食べてみるぞ」
かぶりつき、無言で咀嚼するギグさん。同じく無言のルークさん。緊張する私。
しばらくの沈黙の後、
「うめぇ! うまいな! 初めての味だが気に入った!」
やったぁ!
ギグさんはあっという間に食べ終わると追加でもう一つと、卵焼きセットを購入してくれた。
「お買い上げありがとうございます!」
「明日もここで売ってるのか?」
「その予定なので、来てもらえると嬉しいです」
「もちろんそのつもりた。また来るからよろしくな」
「はい!」
来店の約束に私は、満面の笑みでギグさんを送り出したのだった。
☆☆☆☆☆
ルークさんとギグさんの後、しばらくして門番のガーディーさんがやってきた。昼休みに買いに来てくれたようだ。
その後もぽつぽつと、顔見知りや通りすがりの村の人が買ってくれたおかげで、夕方になる前には無事完売となった。
売れ残りも覚悟していたから、嬉しい誤算だった。
「よっ、リナリアちゃん。今日も照り焼きサンドを頼むぜ!」
そして翌日。
約束通り、ギグさんがまた買いに来てくれた。
今日はルークさんはいないが、代わりに友人だという男性が一緒だ。
二人で照り焼きサンドを購入し、美味しく食べてもらえたようだった。
その日は昼すぎに完売。
更に翌日は多めに作っておいたけど、昼前に完売してしまった。
ギグさんから広がった口コミと、ゼーラお婆さんが知り合いに宣伝してくれたおかげだ。
後片付けをし家に帰った私は、ぎゅっとフォルカ様に抱き着いた。
「フォルカ様やりました! 三日連続で売り切れです!」
《うむ、見事であったな》
ぽふぽふと、フォルカ様が尻尾で頭を撫でてくれた。
《我の目は正しかったな。我さえ満足させた料理に、村人が舌鼓を打つのは当然だ》
「きゅっ!」
コンも頷いてくれた。
心なしか、そのお腹はぷっくりと膨れている気がする。
コンは最近、私について村を訪れるようになっていた。
子狐そっくりの姿をしたコンは、村人たちに可愛がられているようだ。
今日、私が料理を販売している間も、お客さんから料理の一部をもらい楽しそうに過ごしていた。
《我の料理も、もちろんあるのだろうな?》
「はい。これから作って、出来立てをお出ししようと思いますが……」
《どうしたのだ?》
「……いえ、なんでもありません」
私は言いかけた言葉を飲み込んだ。
まだ早い。もう少し時間が必要だ。
準備が完ぺきではないし、何よりも私がまだ、覚悟が決まっていないのだった。
「今日は豚丼を作ります。米を研いできますね」
そう言って私は、何事も無いように米びつがわりの壺へと向かったのだった。
 




