24.さっそく準備に取り掛かりましょう
ゼーラお婆さんに引き留められ、私は振り返った。
「どうしたんですか?」
「これから買い出しかい?」
「そのつもりです。何か明後日の料理にリクエストと、必要な食材はありますか?」
「いんや、違う。……ちょいと気になっていたんだが……」
「何ですか?」
言いよどむゼーラお婆さんを促す。
「お節介かもしれないけどねぇ。あんた、お金は大丈夫なのかい?」
「……今のところは」
曖昧に答えておく。
魔石を売ったお金がまだ手元にあるし、私には召喚術もあった。
日々使い続けた結果、私とフォルカ様、それにコンの分くらいなら、召喚術で作った食材で余裕をもって賄うことができるようになっている。
食材のレパートリーを増やすため、肉類や野菜を村の食料品店で買っているけど、そちらは大した額では無かった。
メルクト村は村人の多くが農家で、酪農を行っている家もいくつかある。
輸送代がかからないため、一般的な食材は安価で手に入るようだ。
このままのペースならあと数か月、召喚術を多用すれば何年でも、食べるには困らない計算になるのだけど……。
召喚術について、ルークさん以外の人間には秘密にしている。
オムライスに使った米も、「フォルカ様とコンが森で集めてきた植物を加工したもの」と説明をしていた。
そのためゼーラお婆さんからしたら、私が金欠にならないかと心配なようだ。
これからを考えると私としても、定期的にお金を獲得できる手段は欲しかった。
「この村で、私にもできる仕事ってありますか? 簡単な計算は出来るので、店番ならこなせるかもしれません」
「謙遜はおよし。リナリアお嬢ちゃんほど計算が早い人間、この村じゃかなり貴重だよ」
ゼーラお婆さんの訂正が入った。
前世では特別暗算が早い方では無かったけど、それでも九九や計算方法は身についている。
識字率と教育水準が低いこの国では、私の計算力でも武器になるようだ。
「リナリアお嬢ちゃんは賢いが……。まだ小さいからねぇ。お金を任せる店番となると、少し難しいと思うよ」
「……そうですよね」
村にやってきて一月ほどの9歳児。
仕事を任せられるほどには、信頼されなくて当然だった。
「うちでなら、あんたを店番として雇ってやってもいいんだが……。それよりもっと稼げそうな方法がある」
「どんな仕事ですか?」
「料理を売るんだよ」
「私の料理を?」。
「そうさ。初めてあんたの料理を、あの甘辛い鶏肉をパンに挟んだ、えぇっと……」
「照り焼きサンドです」
「そう、それそれ。あの照り焼きサンド、美味しかったからねぇ。あの時に思ったのさ、リナリアお嬢ちゃんなら料理人として、やっていけるかもしれないって」
ゼーラお婆さんが頷いている。
「もっとリナリアお嬢ちゃんの料理を食べてみたくて、確認したくて、それもあってあの日、卵を渡した私の目は間違っていなかったみたいだね」
なるほど。
あの日、いきなり卵料理の話を出してきたのも、卵を調理した料理を届けることになったのも、ゼーラお婆さんの考えがあったようだ。
「今日のオムライスもスープも美味しかったよ。あの味なら、売り物としてもいけるはずさ」
「ありがとうございます! 今どこかで、料理人の募集はありますか?」
「残念ながら募集は無いが、無いなら自分でやればいい。この店の軒先で、料理を販売するのはどうだい?」
「店の前で料理を……」
テーブルを出して料理を並べる形だろうか?
お客さん用のテーブルは置けないから、持ち歩きができて食べやすい料理や、お弁当を中心に販売することになりそうだ。
「……やれそうです。場所代はどれくらい支払えばいいですか?」
「いらないよ。そこなら商業ギルドへの場所代は発生しないし、うちは使っていない軒先を貸すだけだからね」
「いいんですか?」
「子供から金をせびる程、落ちぶれてはいないからねぇ」
「助かります! 場所代の代わりに毎日、料理を持ってきてもいいですか?」
「おや、それは楽しみができるねぇ。食べ過ぎて太ってしまいそうだよ」
からからと笑うゼーラお婆さん。
快く営業許可をもらった私は、準備に取り掛かることになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
土日は昼間に更新予定です。
 




