23.オムライスにはケチャップがよく合います
「よぅ、嬢ちゃん。今日もゼーラ婆さんのとこか?」
「こんにちは! 今日もお仕事ご苦労様です」
顔見知りになった門番の青年・ガーディーさんと挨拶を交わす。
ゼーラお婆さんに照り焼きサンドを持って行ってから二十日ほど。
ここのところ私は、一日ごとにメルクト村へ足を運んでいた。
 
ゼーラお婆さんの元へ料理を届け卵をもらい、食料を買い出しで補充。
翌日は料理の研究と掃除に当て、また次の日に村へと向かう。そんな生活のリズムが出来ていた。
村の中を歩くと、何度か挨拶をかけられる。
村人たちも、そして私も、お互いの存在に慣れてきている。
私の対人恐怖症も、少しずつ改善してきた。
村は人の出入りが少なく、気性の荒い人間も少ないようで、ビクリとすることは少なくなっている。
ゼーラお婆さんやルークさん、よく訪れる食料店の人たちなど、会話を交わせる相手も増えてきた。
しばらく歩いていると、頭上を大きな影がよぎった。
クロルに乗ったルークさんだ。
少し先の空き地にクロルを着陸させ、こちらへと歩いくる。
「俺が持とう」
ルークさんがひょいと、私の持っていた荷物を持ち上げる。
料理入りの箱を包んだ荷物は、今の私の体には少し大きい。重さから解放され楽になった。
「今日は遅くなりすまなかったな」
「助かります。お仕事が長引いたんですか?」
ルークさんは私をクロルにのせ運んでくれたり、荷物運びを手伝ってくれることがある。
今日は何やら、用事があったようだ。
「そんなところだ」
言葉少なく答えるルークさん。
先ほどクロルは村の外、森のある方角から飛んできたようだ。
どうもルークさんは、森で仕事を行うことが多いらしい。
家から窓を見た時、森の上を飛ぶクロルをみかけることが何度かある。
以前、クロルと傷を負い森に落ちていたのも、仕事でトラブルがあったのかもしれない。
危険があるようで心配だった。
「……お仕事で何か、怪我とかはありませんか?」
「大丈夫だ。だが、いつもより体を動かし腹が空いている。料理が楽しみだな」
会話をしながら歩いていると、ゼーラお婆さんの店に到着した。
歓迎を受け、いつものように料理をカウンターに並べていく。
「お、今日はオムライスだね」
「これをかけたら完成です」
陶器製の小瓶から、小さじでケチャップをかけてやる。
とろり、とろりと。
ケチャップを少しずつオムライスの上へ落としていく。
前にオムライスを出した時、ケチャップで絵を描いてみたら好評だった。
なので家で練習し、ゼーラお婆さんの店、魔石換金所の看板の図案を、デフォルメしてケチャップで描けるようにしてきた。
「できあがりました!」
「おぉ~~。うちの看板を描いてくれたのかい。嬉しいねぇ」
褒めてくれるゼーラお婆さん。
食卓となったカウンターを囲むのは私とルークさん、ゼーラお婆さん、そしてゼーラお婆さんの夫のジリスお爺さんだ。
ジリスお爺さんも私のことを、孫のように可愛がってくれていた。
「んむ、今日も美味いな」
むぐむぐと、オムライスを呑み込むジリスお爺ちゃん。
「卵はふわふわ、中はずっしり。このお米とやらも、慣れると美味しいもんだね」
「わかります。お米って美味しいですよね」
ゼーラお婆ちゃんへと頷き返す。
塩コショウとケチャップで炒めたお米には、たっぷりとうま味が染み込んでいる。
混ぜ込んだ玉ねぎと、弾力のあるソーセージの食感も楽しい。
具材を包み込む卵、かけられたケチャップがアクセントになり、どんどんとスプーンが進んでいった。
付け合わせのレタスとトマト、瓶に入れ持ってきたオニオンスープを食べ終わった頃には、すっかり満腹になった。
「よく食べた、よく食べた。リナリア嬢ちゃんの料理は美味しいね」
心地よく重たくなった腹を抱え、四人でしばらく談笑する。
主にしゃべっているのはゼーラお婆さんと私だ。
ルークさんとジリスお爺ちゃんは口数が少ない性格のようで、聞き役に回ってくれていた。
おしゃべりをしてしばらくするとルークさんが立ち上がり、挨拶とともに店を出ていった。
そろそろ仕事に戻る時間のようだ。
「それじゃあ、そろそろ私も帰りますね」
ゼーラお婆さんたちにも仕事がある。
魔石換金所を訪れるお客は多く無いけど、接客以外にもやることはあるようだ。
「……ちょいと待っておくれ」
いつもは自家製卵を渡され送り出されるところ、ゼーラお婆さんに引きとどめられる。
 




