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20.照り焼きサンドを持ってきました


翌朝、少し早めに朝ご飯を食べもろもろの準備すると、私はメルクト村へとやってきた。

大人なら片道10分とかからない距離が、短い足ではとても遠く感じる。


「おっ、嬢ちゃん、今日もお使いかい?」

「こんにちは」


 三度目の村への訪問で顔見知りになってきた、門番の青年と軽く挨拶を交わす。

 簡単なやりとりだけど、どもりまくった初対面の時と比べてだいぶ進歩していた。


「まだちっこいのにえらいな。転んだりしないよう気を付けて行けよ」

「はいっ!」


 返事をしてフードを被りなおし、とことこと村の中を歩いていく。

歩幅が小さいので、速度はだいぶゆっくりめだ。


「こんにちは、今大丈夫ですか?」


 魔石換金所、ゼーラお婆さんの店の扉を開いた。

 お客はいないようで、カウンターの奥でゼーラお婆さんが魔石を並べている。


「お嬢ちゃんかい。ほらほら入っておいで」

「お邪魔します」


 家から持ってきた荷物を、カウンターの上に乗せた。

カウンターの天板は私の目の高さのため、荷物を見上げるような格好だ。


「この前のお礼を持ってきました。料理を作ったので、受け取ってもらえますか? お昼かおやつにでも、食べてもらえたら嬉しいです」


 荷物から布包みを二つ取り出す。

 ゼーラお婆さんがさっそく、布を広げ中身を確認していた。


「ありがたいねぇ。そろそろお昼が近いし、さっそくいただこうか。これはパンかい?」

「楕円のパンの真ん中を切って、間に鶏肉と野菜を挟んであります」

「鶏肉は私の好物だよ!」


 ルークさんにゼーラお婆さんの好みを聞いておいてよかった。

 ゼーラお婆さんは笑顔で皺を深めると、がぶりとパンへ食いついた。


「いいね! これはうまい! 柔らかい鶏肉、しゃきしゃきとしたレタス、甘辛いタレ。初めて食べるタレだけど、鶏肉によくあっているね」

「照り焼きのタレです」


 酒、醤油、みりん、砂糖。基本の4つに、ニンニクを少量入れたレシピだ。

 前世作っていたタレを再現したもので、甘辛く肉の味を引きたててくれている。


「へぇ、そんな美味しいタレがあるんだねぇ。どこで買ってきたんだい?」

「私が作りました」

「……お嬢ちゃんがかい?」


 照り焼きサンドと私を、ゼーラお婆さんがしげしげと見ている。


「こんな美味いものを、お嬢ちゃんが一人で作ったのかい?」

「はい。今家にいる人間は、私一人だけですから」


 ルークさんと相談した結果、私はヤークト師匠のとお~~~い親戚を名乗ることになった。

 戸籍とか住民票とか、日本より色々ゆるいとはいえ……住所不明・血縁不明ではさすがにまずいもんね。


 家族とのいざこざの結果、遠い親戚のヤークト師匠を頼りやってきた私。

 しかし既にヤークト師匠は故人だったため、空き家となった家にとりあえず住むことにした、という設定だ。

 

 ルークさんもこの設定に協力してくれるそうで、ひとまずは安心して、あの家で暮らせそうだった。


「あの広い家で一人じゃあ寂しいんじゃないかい?」

「狐たちが一緒だからへっちゃらです」

「狐……変わった子だねぇ」

「へへ、良く言われます」


 私は笑うと、話題を他へ逸らすことにした。


「照り焼きのタレがお口にあったなら、タレを容器にいれて分けましょうか?」

「……いや、遠慮しておこう」


 ゼーラお婆さんは言うと、残りの照り焼きサンドを食べていった。


「うん、ありがとう。満腹だ。美味しかったよ。お嬢ちゃんはいつも、自分で作った料理を食べてるんだね?」

「そうしてます。この前ルークさんが買い出しに連れてきてくれて、調理器具が揃ったおかげです」

「そうかい。……なら卵料理もできるかい?」

「目玉焼きとかスクランブルエッグとか、簡単なのならできると思います」

「すくらんぶるえっぐ?」


 あ、こっちでは知られてないのか。

 軽く説明しておこう。


「卵と牛乳を混ぜて溶いて、ふわっと炒めた料理です」

「へぇ、牛乳と。悪くなさそうな組み合わせだが、美味しいのかね?」

「……今度持ってきましょうか?」


 少し悩んでから提案をした。


 ゼーラお婆さんはいい人だ。おかげで私の対人恐怖症も出ていない。

 この前のお礼もあるし、また料理を届けにくるのもいいかもしれない。


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