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18.竜騎士ルークから見るリナリアについて


「よぅルーク。村に戻って来てたんだな」

 

 リナリアの買い出しに同行していた時のこと。

 ルークの知り合い・ギグの声に、リナリアがびくりと体を震わせた。


「今夜あたり、マルク親父も誘って飲まないか?」

「……今日のところは遠慮しておく。この子がいるからな」

「その子誰だ?」


 ギグがひょいと、リナリアのフードを覗き込もうとする。

 ルークはすばやく、リナリアを守るようにマントで隠してやった。


「よせ。この子は人見知りだ」

「お、そうなのか。怖がらせてごめんな」


 眉を下げ謝るギグ。

 少しお調子者だが、おおよそ善良な気性の持ち主だった。


「しゃーない。酒はまた今度にするか。また都合のいい日にうちに来てくれよ」


 ひらひらと手を振り、ギグが去っていった。 

 するとリナリアが、フード越しでも体の力を抜いたのがわかった。


「大丈夫か?」

「……はい」


 気丈に答えつつも、リナリアの顔色は良くなかった。


(人間が怖い、か。今まですいぶんと、辛い目に合ってきたんだろうな)


 怯える様子が痛ましかった。

 リナリアは自身の境遇について多くを語らなかったが、それでも伝わってくるものはある。


 捨てられたのがついこの間と言っていたが、捨てられる前も間違いなく、ロクな扱いはされていないと察せられた。


 中年に差し掛かる年頃の男女が特に苦手だというのもおそらく、リナリアの養父母にあたる人間が、虐待同然の行いをしていたからだ。


(……でなければリナリアがこれほど、小柄なのはおかしいからな)


 リナリアに9歳です、と言われた時、ルークは耳を疑ってしまった。

 高めに見ても6.7歳にしか見えなかったからだ。

 受け答えはしっかりしているが、身長が低すぎだった。おそらく成長期の体に、満足に食べ物を与えられていないからだ。


(年の割に聡いのも、周りが敵ばかりの状況で、賢くならざるを得なかったからだろうな)


 ルークに対しても迷惑をかけないよう遠慮した様子で、それが少しはがゆかった。


(リナリアは俺とクロルの命を救ってくれた恩人だ。自分も捨てられ大変だろうに、心が優しい子だ。師匠の家に住んでいるのも何かの縁。俺なりに彼女の力になりたい)


 9歳にしては小さすぎる背中を見て、ルークはそう願ったのだった。



☆☆☆☆☆



 ――――その日、ユアンの住む村は浮足立っていた。


 リナリアがいないためユアンは楽しくなかったが、村人たちは興奮し広場に集まっている。

 待ち望まれた一団が、村中央の広場にやってきたのだ。

 二年に一度、子供たちの魔術測定のためやってくる魔術師は、村をあげもてなされている。


 高い魔力量の持ち主だと判明すれば、平民でも王宮務めへの道が開かれることがあった。

 8歳から10歳の子供を持つ親はみな、一様に期待を込め魔術師を見ている。


 ユアンの両親も、そんな親たちのうちの一組だった。

 今年10歳になったユアンの姉・マリシャが、魔術師の一人の指示のまま、指先から血を垂らした。


「お、おおぉっ……‼」


 血が落ちた金属の板が、ぼぅと白い光を放った。

 光を見た魔術師たちは全員、驚きを顔に上らせている。


「これ程の魔力の持ち主は貴重だ……!」

「この村どころか、俺たちが魔力測定を担当する区域で一番じゃないか?」

「しかも色は白。希少な光属性だ」


 ひそひそ、ざわざわ。

 魔術師たちから聞こえる言葉に、村人たちのざわめきも大きくなっていく。


「この少女の両親はどこだ?」

「はいっ! 俺たちです!」


 ユアンの隣にいた両親が、魔術師たち一団の長の元へ歩いて行った。

 取り残されたユアンはぽつんと、家族たちと魔術師の会話を聞いていた。


「この子は素晴らしい魔力の持ち主だ! これ程の逸材は私も初めて見たぞ!」


 褒めたたえる魔術師の声に、マリシャの唇が吊り上がる。

 気が強いマリシャは、目立つことがとても好きだった。

 だからこそ自分よりも人目を集める容姿をしていたリナリアのことを、殊更きつく虐めていたのだ。


 この場の主役となったマリシャは、物おじすることなく魔術師に話しかけた。


「ふふ、うふふふふ‼ 私、王都の魔術学院を通って、とっても偉くなることができるのよね?」

「もちろんだが、それだけじゃない。君が望むなら、近く王宮へと招かれるはずだ」

「ほ、本当ですか⁉ 本当に娘が王宮に上がれるんですか⁉」


 降ってわいた幸運に、マリシャの父・ギリスが唾を飛ばし叫んだ。

 魔術師は一瞬不快な表情を浮かべるも、すぐさま媚びるような笑みを浮かべた。


「おまえたちの娘の持つ魔力は類稀なるものだ。わしが上に報告すれば、すぐに王都からこの村へ迎えがやってくるはずだ」

「やった! 王都で暮らせるのね‼」


 マリシャが頬を紅潮させ飛び跳ねている。

 早くも王都の華やかな暮らしを想像し浮かれているようだ。


「俺たちにも運が向いてきたな……!」


 ギリスも娘のおこぼれに思いを馳せ表情を緩めている。

 そして村人たちもまた、マリシャたち一家からの心証を向上させおこぼれにあやかろうと、盛んにマリシャを褒めちぎっていた。


「みんなお姉ちゃんに群がってて変なの……」


 マリシャを持ち上げる狂騒の波に乗り損ねたユアンが、ぽつりとつぶやきを落としたのだった。


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