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12.その頃の叔父たちは



 ――――リナリアが幸せを噛みしめていたその日の夜。


「ぐずなリナリアが消えたおかげでせいせいしたな!」


 酒杯を掲げ、男性が笑い声をあげていた。

 男性の名はギリス。リナリアを数年間、馬車馬のようにこき使っていた人間だ。

 ギリスの対面には、彼の妻であるヴィシャが着席していた。


「あんた飲みすぎだよ。はめを外さないでおくれ」

「あぁ? これくらい別にいいだろう? 辛気臭い顔をしていた、リナリアがいなくなったんだからな!」


 酒を飲み干し、ギリスは機嫌よく言葉を続けた。


「もっと早く、さっさとリナリアを捨ててれば良かったんだ。おまえだってあいつのこと、邪魔に思っていたんだろう?」

「……あの姉さんの娘だ。憎らしさしか感じないよ」


 ヴィシャが吐き捨てるように答えた。

 リナリアの母親は、ヴィシャにとって忌々しい姉だった。

 器量よしで活発な姉と、何かと比べられてきたのだ。

 そんな姉が駆け落ち同然にして村を出て結婚をし産んだ子供を、押し付けられたのだからたまらなかった。


「憎たらしい、ねぇ。確かにあいつは気に食わなかったが、金をしょってきたからな」

「ちょっとあんた、やっぱり酔いすぎだよ。そんなこと、大きな声で言わないでおくれよ」


 ヴィシャが眉をひそめた。

 リナリアの両親は、それなり以上に金をため込んでいたのだ。

 リナリアが成人を迎える16歳まで面倒を見たとしても、お釣りが出るほどの金額だった。

 ここ数年ギリスの羽振りが良くなったのも、リナリアの両親の遺産を切り崩していたからだ。


「ははっ! リナリアは死んだんだ。今更遺産を返せと、言ってくる奴はもういねぇよ」


 リナリアを森に捨てたのは、遺産を全て横取りするためだ。

 まもなくこの村には、国の派遣した魔術師の一団がやってくる予定になっている。


 魔力量の高い人間は希少だ。

 だからこそ国も定期的に、各地に魔術師を派遣している。

 村にやってきた魔術師に資質を見いだされれば、平民だろうが孤児だろうが、手厚い保護と支援を受けることになるのだ。

 

 もしリナリアが見いだされ保護されてしまった場合、これ以上の遺産の使い込みは出来なくなるし、後々魔術師に育ったリナリナに、ギリス達は復讐される恐れがあった。


「いくらあいつが目ざわりとはいえ、直接手を下すのは寝覚めが悪いといったのはおまえだろう? だから俺が森に捨ててきてやったんだ感謝すると――――」

「お父さん?」


 高い声が聞こえた。

 ギリスが振り向くと、食堂の扉を開け息子のユアンが顔を覗かせていた。


「お父さん、大きな声を出してどうしたの?」

「……ユアン、こんな時間にどうしたんだ?」

「眠れなかった」


 6歳のユアンは、とっくに夢の中にいるはずの時間だ。

 目をこすりながら、ユアンが服の裾を掴んていた。


「リナリアお姉ちゃんの子守歌が無いと眠れないんだ。お姉ちゃん、いつ家に帰ってきてくれるの?」

「……俺たちも今、必死に探しているところだよ」


 ギリスは白々しく嘘をついた。

 幼いユアンは、子守をしていたリナリアに懐いてしまっていたのだ。


「ユアン、おまえはもう寝る時間だ。布団の中で横になってこい」

「……はい」


 ユアンはこくりと頷いた。

 ギリスは気の短い人間だ。

 リナリアに対し何度も手をあげたのを見ていたユアンは父親を恐れ、逆らう気はとても起きなかった。


「嫌だな…」


 枕を抱きしめ、ユアンは寂しさをこらえていた。

 父親のギリスは粗暴で、母親のヴィシャは見栄っ張り。

 姉のマリシャは意地悪で、家の中でユアンに優しく接してくれたのは、リナリア一人だけだったのだ。


「リリアナお姉ちゃん、どこにいっちゃったんだろう」


 いつまでも訪れない眠気を、ユアンは一人待ち続けるのだった。


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