一筋の涙
楽しいね!書いていて凄く楽しいです!
「三日月探偵事務所」を宜しくお願いします。
午後10時過ぎ、夜更けに出歩いて人の後を尾行するなんてイカれた奴しかいない。
俺は腹が減っていてかなりイラついている。手が出る可能性が高い。手裏剣は持ってきていない。腕には多少の自信がある。10年間、少林寺拳法をやっていた。黒帯だ。大会3連覇を果たしてアキレス腱を痛めて、あっさり辞めて、一時期、謎の武術のサンダー拳とやらに心惹かれていたが、見学をした時に何となく合わない感じがしたので遠ざかり、読書に夢中になって影響を受けて3年間の放浪の旅に出た。それはそれは楽しかったさ。素晴らしい日々だったさ。何よりも自由だったさ。時よ戻れと思ったさ。
俺は思い出に耽りながら後ろを振り向いた。真夏なのに黒いコートを着た男が俺の様子を見ていた。俺は早足で歩いた。男も早足で迫ってきた。俺は腹を鳴らしながら走った。男も走ってきた。俺は鳴り止まない腹の音に笑けてきた。
「グルルルン、グーッ、ゴロロロン、ブバッポ、ダバルルン、グルルルピャオ、ミャオミャオ、ワォン、ワンワン」
犬と猫の鳴き声みたいな音もした。
「あはははは。スゲェ音だわ」
急激にめまいがしてきた。腹が減っているから力が出ない。そういえば、オレンジジュースとお茶しか飲んでいない。羊羮を少し食べたきりだ。マズイな。倒れる寸前だ。もう少しでダイナーに着く。顔馴染みのダイナーに行っても迷惑になるだけだしなぁ。どうする? とにかく腹に何か入れたい。体力がない。
あっ!
屋台のラーメン屋さん「寺ちゃん」を発見。顔馴染みの店主、寺ちゃんこと寺内吉弘さん。俺は寺ちゃんに入った。
「へい、らっしゃい! おう! 三日月の兄ちゃんじゃないかい! てやんでぇ。この野郎、元気かい?」と寺内さんは言ってバンダナを巻き直してから日本酒を飲んた。
「寺ちゃん、久しぶり。悪いけど追われているんだ」
「女にかい?」
「怪しい男にだ。そんなことより腹が減ってたまらん。寺ちゃん、醤油ラーメン一丁」
「よし、分かった。美味いもん食わせてやる。待ってろよ。おりゃ! ブーッ!」寺ちゃんは日本酒を自分の両手に吹き掛けると気合いを入れてから顔が赤くなるほど叩いた。
「この野郎!」と寺ちゃんは叫ぶと頭から日本酒を掛けた。
「負けてたまるかよ、この野郎!」と寺ちゃんは叫ぶと、また日本酒を飲んで自分の体に張り手をし出した。
「てめぇ、この野郎!」と寺ちゃんは叫ぶと屋台の後ろに設置されているサンドバッグを殴り出した。
もっと早めに来るべきだった。寺ちゃんは日本酒を飲み出したら、いつも自分と戦い始めるんだわ。ラーメンは日本一美味いんだけどもね。
「てめぇ? この野郎!」と寺ちゃんが叫ぶとスクワットを始めた。50回だ。必ず50回はスクワットをする。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、苦しい」と寺ちゃんは喘ぎながら、ようやく醤油ラーメンを作り出す。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、長年、低血圧、低体温で悩んでいるワシにはね、これくらいのエネルギーを発散して出さんとね。へい、お待ち、醤油ラーメン」と寺ちゃんは言って、醤油ラーメンを俺に渡した後、ミネラルウォーターを一気に飲んで椅子に座った。
「寺ちゃん、大丈夫なの?」俺は青ざめた寺ちゃんが心配になってきた。
「大丈夫ではない。全然、大丈夫ではないけどもね、男として断崖絶壁に佇むようなヒリヒリしてギリギリするような感覚で生きたい。大丈夫ではないよ。心配してくれて嬉しいけどもね、全然、大丈夫ではない」寺ちゃんは昔スタントマンの仕事をしていて、命知らずのスタントマンと呼ばれていたんだ。爆破脱出に失敗してから落ち込んでスタントマンを辞めたらしい。
「三日月の兄ちゃん、追ってくる男はどこだい? ワシがやつけてやる」と寺ちゃんは言って日本酒の瓶を地面に叩き付けた。寺ちゃんは鋭利な刃物と化した瓶を眺めると屋台から外に飛び出た。
「おい、この野郎! 出てこい!」と寺ちゃんが怒鳴った直後だった。
「ぐわぁーっ。苦しい!」と寺ちゃんの大きな叫び声がした。俺は動揺して焦りまくってしまった。関係のない人を巻き込んでしまったら大変な事になる。俺は慌てて外に飛び出した。
「寺ちゃ-ん!!」
「おえ~っ!! おえっ、おえっ、おえ~っ!! あー、苦しい。参ったわ」寺ちゃんは横たわってゲロを吐いていた。
「ちょっと寺ちゃん! 大丈夫かよ! 救急車を呼ぶかい?」俺は辺りを見回した。8メートル離れた電柱の陰に男の姿があった。
「呼んで」と寺ちゃんは目を閉じたまま言った。
「分かった」僕は電柱の陰に潜む男を睨みながら携帯で119に掛けた。
「いや待って。呼ばないで」寺ちゃんはグズリ出した。
「ちょい黙ってろ」と俺は言って寺ちゃんを抱き抱え屋台の後ろ側に運んだ。
「呼ばない方が良いのかい?」と俺はもう一度確認した。
「ワシにはスタントマンとしてのプライドがあるからね、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、苦しい」寺ちゃんは間違いなくダメージが大きい。
「もしもし、救急車をお願いします。はい、はい、知人が急に具合いが悪くなりまして、はい、はい、場所はパン治羅ビルから少し離れた場所です。7丁目の角の屋台のラーメン屋さん「寺ちゃん」の御主人です。名前は寺内吉弘です。はい、はい、分かりました」俺は携帯を切って寺ちゃんを見た。寺ちゃんの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
「どうした? 寺ちゃん?」
「すまねぇ、三日月の兄ちゃん、すまねぇ、すまねぇ」
「分かったよ」俺は救急車が来るまで寺ちゃんを膝枕していた。
5分後に救急車が来て寺ちゃんが泣きながら救急隊員に運ばれて、お互いに手を振りながらその場を離れると、俺は電柱に潜む男を確認しようとした。
まだ男は電柱の陰に潜んでいて俺の様子を見ていた。
俺は完全にキレた。
どうもありがとう!
また明日ね✨
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