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変容(メタモルフォーゼ)

作者: 各務原逍遥

 若い頃(二十~三十代)は、笠信太郎著「ものの見方につい

て」や、外山滋比古著「思考の整理学」、武者小路実篤などを

読みあさり、己の考え方の指向性などを自問自答し、‶人生と

は何ぞや〟とか、‶人生いかに生きるべきや〟などと、会社内

の気心の知れた同僚とよく論争したものでござます。そんな物

の見方考え方も、歳を重ねるにつれて、現在では〝人生いかに

生きたか〟に変わり、不易と言うのは流行ではないのか、流行

にこそ不易の本質があるのではなかろうか。と変容していった

のでございます。


 変容で想い出しましたが、オランダの好きな画家エッシャー

の描いた、『メタモルフォーゼ』という絵が、ハーグの中央郵

便局の壁画に描かれております。いえ、実際に見た訳ではござ

いません。エッシャー展が開催された時に購入した図録を見て

いるのでございます。

 市松模様が徐々に、鳥⇒魚⇒舟⇒馬⇒港の風景と変容し、再

び市松模様に戻るという、全長7メートルもある超大作でござ

います。人生に例えるなら一生を描いている絵とでも申しまし

ょうか。音楽でいえば、循環形式というところでございましょ

う。

 

 エッシャーは不思議な絵を描くことで有名な画家で、中でも

個人的に好きな、アメリカの数学者ペンローズの三角形をモチ

ーフにした絵を描いております。ペンローズの三角形とは、二

次元世界では成立するが、三次元世界では成立しない三角形で

ございます。試しに三十代の頃に、本当に三次元では成立しな

いのか、角棒を買い作ってみたことがございます。その結果、

確かに二次元で成立していた三角形が、三次元では成立不可能

であることが実証できたのでございます。

 このエッシャーの絵から閃き、小説『あやかし』を書いたの

も一つの動機でございます。


 変容つながりでもうひとつ。これも好きな音楽家で、ドイツ

のリヒャルト・シュトラウスが作曲した交響詩『死と変容』と

いう曲がございます。死の床にある芸術家が、病魔と闘いなが

ら少年時代の懐かしい想い出を回想し、やがて天に召されてい

くという物語を、管弦楽で表現した作品でございます。

 他にも交響詩をいくつか作曲しており、『ツァラツストラは

かく語りき』、『家庭交響曲』、『英雄の生涯』、『ドン・キ

ホーテ』などがあり、これらの曲はレコードやエアチェックし

たカセットテープで交響詩の世界を堪能しております。


 人生は廻るよ廻るよではございませんが、変容していくから

こそ愉しく生きられるのではないでしょうか。あの松尾芭蕉の

俳諧の神髄でもある、不易流行という言葉がようやくこの歳に

なって解かったような気がするのでございます。



 

 



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