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そして世界に日が昇る side:ゼルエル



僕の名前はゼルエル。


僕の両親は考古学研究者だった。

何を研究していたのかは難しすぎて僕には理解できなかったけれど、

アッチでナニソレが発見されただの、ソッチでドレコレが解明されただの、世界中を忙しそうにそしてとても楽しそうに飛び回っていた。

色々な場所を転々とする生活だったけれど、それでも僕は楽しかったし幸せだった。



けれども、その幸せな日常は突然に終わりを告げたんだ。


その日はいつもと何も変わらなかった。

お父さんとお母さんと僕と研究仲間の人たちと、遺跡がナンダカンダしたと皆で調査に来ていた。

何度思い返しても、いつもと変わらない光景だった。


だけど、急に地面が揺れ出して、お母さんが僕を抱きしめてお父さんがさらに覆いかぶさって大きな音がして・・・そこから先は覚えていない・・・。


気がついたら真っ白なベッドの上に寝ていた。

体中が痛くて気持ちも悪くて吐きそうで思考が全然まとまらなくて。

自分に何が起こって何で寝てるのかとか何も何も考えられなくて、ただただお父さんとお母さんを呼んで泣いていたような気がする。

正直、この時の記憶も酷く曖昧でボンヤリとしたものだから・・・。


お医者さんらしき人と看護師さんらしき人に治療されながら、ずっとお父さんとお母さんを呼び続け、ようやく意識がはっきりとし始めた頃に自分が結構な重傷だったと認識した。

全身くまなく包帯でグルグル巻きにされていて、手も足も少しも動かすことは出来なくて、それでも何とか首を動かしてお父さんとお母さんを探してみたけど2人の姿を見つけることは出来なかった。


それから、さらに数日が過ぎて。まだ所々に包帯は残っているものの普通に動けるようになった頃。

お父さんの兄と名乗る男の人が現れて、仲良く並んだお墓の前に僕を連れて行きお父さんとお母さんはここにいると言った。


初対面の伯父さんは何やら長々と話をしていたけれど、僕はただ茫然とお父さんとお母さんがいるらしいお墓を見つめて立ち尽くしていた。

何の反応もせず立ち尽くすだけの僕に伯父さんは大きく舌打ちしてから、乱暴に腕を掴んで僕を引きずるようにしながら足早に歩きだした。

道すがら、伯父さんはずっと何事かを呟いていたけれど、あまりに早口だったので僕はほとんど聞き取れなかった。ただ、ひどく不機嫌な顔をしていたのを覚えている。



そうして僕は伯父さんの家に引き取られたのだけれども、あきらかに招かれざる客だった。

あの家での生活は思い出したくもない。


ただただ世間体を守るためだけに引き取った僕に、あの家の人間が優しくするわけもなく。

伯父さんも伯母さんも従兄弟たちも僕など存在しないように扱われ、たまに思い出したようにお母さんと似て自慢だった髪と瞳を『汚らしい。まるで濁った泥水のようだ』と蔑まれた。

段々と僕のナニカが擦り切れていって、何も感じなくなっていった。

そして、そんな生活が半年も続くと、僕は泣くことも笑うことも言葉を発することもしなくなっていた。



毎日を淡々と。感情を揺らすことなく過ごし、このまま死んでゆくのだろうと思っていたのだけれど、

ある日、僕の世界に革命が起きた。



お父さんの遠い親戚だという人が、僕を引き取りたいと言ってきたのだ。

厄介払いがしたい伯父さんと、この家に思い入れの無い僕だから、その話はとんとん拍子に進んでいき1ヶ月もすれば円満に承認された。


新たな僕の引き取り先の人は、伯父さんとは似ても似つかない品の良い紳士だった。

その人は、無表情な僕を見るとわざわざ屈みこんで視線を合わせてからニッコリ笑った。


「はじめまして。私の名前はヘルエム」


「・・・ゼルエルです」


「うんうん。よろしくね。これから仲良くしてくれると嬉しいな」


「・・・はい」


小声でボソボソ喋る僕に、けれどもヘルエムさんは嫌な顔ひとつしないで終始ニコニコと笑顔だった。

お父さんに似た大きな掌で僕の手を優しく握ると、ヘルエムさんはゆっくりと歩き出した。伯父さんに連れられた時は引きずられてるようだったけど、ヘルエムさんは僕の歩く速さに合わせてくれているようでとても歩きやすかった。

それから見たこともない綺麗な馬車に乗せられた。生まれて初めて座るようなフカフカのソファに腰かけて馬車に揺られている間、ヘルエムさんの家族の話を聞いていた。

奥さんのメレクさんのことを話すヘルエムさんは、どうしようもなくデレデレと幸せそうで、お母さんのことを話すお父さんを思い出して少し懐かしくなった。

それから娘のセラフィナさんがいかに可愛いかを延々と熱弁されて、そしてそれは尽きることは無く、結局は馬車が止まることで強制終了させられた。



結構な長旅の果てに辿り着いたのは、伯父さんの家より数倍も大きなお屋敷だった。

広々とした庭に荘厳な建物。これからココで暮らすのかと、ちょっと気後れしてしまった。

けれども、伯父さんの家よりひどい扱いはされないだろうと安心はしている。


まだ出会って数時間ではあるけれど、ヘルエムさんの人となりは伯父さんと血縁関係があるとは信じ難いほど紳士的であったし、その彼の奥さんと子供なのだ。不安になる要素が見当たらないと言えよう。

しかして。僕のその予想は見事に的中した。



「はじめまして、私はメレクです。よろしくね」


「わ、私はセラフィナ!仲良くしてね」



上品で温かみのある室内でヘルエムさんに紹介された2人は、まさに思い描いていた通りだった。

柔らかく穏やかに微笑むメレクさんは、まさに理想のお母さんといった様相であった。

そして、その隣で頬をバラ色に染め上げて興奮しているセラフィナさんは、僕の両手をギュッと握りしめブンブンと振り回しながら自己紹介をしてくれた。

あり余るほどの歓迎ムードに、さすがの僕も照れ臭くなってしまい、何とか自分の名前を言うだけで精いっぱいになってしまった。


これまでがこれまでだったので急に愛想よくなんてできるわけもなく、僕は視線をそらして立ち尽くしていた。

それでも、セラフィナさんは終始ニコニコと満面の笑顔で僕のことを見てくるものだから、何だかソワソワして落ち着かない。

ギュッと握られたままの両手とか胸のあたりとかホッペタとかがポワポワと熱を持ってきて居たたまれない。

何も言えず何も出来ず、どうしようかと困ってしまったのだけれど、丁度よく僕が疲れているからと気を使ってくれてその場は解散となった。


僕を部屋へ案内する気満々だったらしいセラフィナさんは、メレクさんに優しく窘められて渋々といった顔で案内を諦めて自室へと戻って行った。

そして執事さんの後に続いて辿り着いた僕の部屋とやらは、それはそれは見事なものだった。

優雅に一礼してから案内してくれた執事さんが部屋を出ていき1人になってから、僕はヘナヘナと床にへたり込んでしまった。


だって・・・あまりに変化が劇的すぎて・・・。


貧相な服と質素な食事と粗末な部屋を与えられ周囲からは不快な目で見られ言葉は無視され精神的にジワジワ追い詰められていた。

なのに今日、見上げるほどのお屋敷に連れて来られて熱烈な歓迎をしてもらった。


広い広い部屋に立派な家具。クローゼットには手触りの良い服が山のよう。ピカピカに磨かれた窓にチリひとつ落ちてないフカフカの絨毯。

別世界すぎて目がチカチカしてきた。

とりあえず、いつまでも床に座り込んでるわけにもいかないから立ち上がり窓際に置かれた椅子に腰かける。


「うああああ。緊張したあああ」


座ると同時に思わず声が出ちゃったよ。

だって、本当に本当に緊張したんだもの。


伯父さんは完全に貴族かぶれな雑魚ってイメージだったんだけど、この家の人たちは本物だ。

あれこそが正真正銘の貴族様というやつだ。キラキラと眩しすぎて直視できないくらいだった。


ヘルエムさんは紳士然としていて言動が常に上品で、僕について伯父さんと話し合っているのを見ていた時は、伯父さんの小物感が鮮明に際立って笑いそうになったくらいだ。

メレクさんは淑女としての立ち振る舞いが完璧で、あの貴婦人レベルを知ってしまった今では伯母さんなんて自分が上流階級だと勘違いしてる小金持ちにしか見えなくなった。


そして、セラフィナさん。

ハニーブロンドの髪は艶やかに波打ち、パッションゴールドの瞳はキラキラと光り輝いていた。

真っ直ぐに見つめたら瞳が焼かれてしまいそうな、でも見ずにはいられないような。お日様みたいな女の子だった。


お父さんもお母さんも死んで伯父さんたちには疎まれてる僕なんかの両手を握りしめ優しく笑いかけてくれた。

柔らかな手のぬくもりを思い出せば、今も胸がドキドキしてくる。

きっと、天使ってこういう姿をしてるんじゃないかって思えるような、そんな女の子だった。


あんなスゴイ人たちが僕を家族だって言ってくれる。

それだけで、僕の人生も捨てたものじゃないって思えてくるんだ。

もしかしたら、僕を残して逝くのを心配したお父さんとお母さんが授けてくれた奇跡なのかもしれない。


ありがとう。お父さん、お母さん。僕、頑張って生きていけそうだよ。





【まったくストーリーに抵触しない設定】


実は可愛いセラさん。

だが、作者の力量不足で、それほどでもない感じになっている。



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