表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

そのトレードは神の一手。



本日の夕食も、大変おいしゅうございました。

私が食事が出来るようになってからずっと、衰えるどころか進化し続ける料理人の腕前に、感服しながら満腹になりまして。

お待ちかねのデザートの登場です。

はい?今さっき満腹と言ったじゃないかって??

いやですわ、『スイーツは別腹』は乙女の嗜みでございますわよ。異論は認めなくってよ。



恭しく並べられるのは、キラキラ光り輝くフルーツゼリー。

ほどよくプルルンであり神々しいまでの美しさであります。相変わらず、我が家の料理人の仕事は素晴らしいですね。

ちなみに、ゼリーの中のフルーツはそれぞれの好みで違って・・・、


そうだわ!!今、私の悪役令嬢としての才能が光ってうなりましたわ!!


「ゼルエル!」


「はい、なんですか?」


「ゼリー、交換して!!」


「・・・え」


んふふふ。大好物のフルーツゼリーを強引に奪い取る義姉。

なんという非道な行いなんでしょう。こんな酷い悪事を簡単に思いついてしまうだなんて。


ああ、私の悪役としての才能が怖い・・・。


躊躇うように、手に持つゼリーと私の顔を交互に見てくるゼルエルに、私は再度、ゼリーの交換を迫る。

今頃、ゼルエルの心の中は私への憎悪でいっぱいになっているこでしょう。


「あらあら、そんな我が儘を言ってゼルエルを困らせてはダメよ。フィーナ」


「だってお母様。私は今、ゼルエルのゼリーが食べたい気分なんです!交換してくれなきゃ・・・な、泣きますよ!」


「いい加減にしなさい。フィーナ」


あうう・・・。せっかくの名案である意地悪だけど、お母様に叱られるのは辛い。

標準の3割増しの厳しい口調で窘められ、この素晴らしい意地悪が失敗するのはもったいないですが、さすがに引き時だろうかと私が諦めかけた、その時でした。


「あ、あの。コレ、どうぞ」


控えめに差し出されたのは、ゼルエルのゼリー。

え?本当に交換してくれるの!?本当に??

自分で言ったことながら、私に向かって差し出されたゼリーを見て、それからゼルエルの顔を見る。

これは、受け取らなきゃダメな状況?え、マジで??


「交換なんてしなくていいのよ、ゼルエル。フィーナも我が儘を言うのはおやめなさい」


はうーん。ダメなことはダメとちゃんと叱れるお母様。尊い・・・。

ま、まぁ、しょうがないわね。お母様がこんなにおっしゃるのですからゼリーの交換は諦めるしかないですよね。

うん。しょうがない、しょうがない。


お母様に言われてしまったので仕方なく、本当に仕方なく渋々と。

ちっともホッとなんてしてない私はゼルエルとのゼリー交換を諦めようとしたのですが、何故か引っ込めようとした私のゼリーがヒョイと奪われ、ゼルエルのゼリーと変えられた。


「ほへ?」


「交換してください。おねぇちゃま」


「ゲグゥー」


不意打ちはやめろクダサイ・・・。珍妙な鳴き声を発してしまったではないか。

やはり『おねぇちゃま』は危険だ。殺傷能力が高すぎる。絶対に後で訂正しなければ!

い、いや、そんなことより。え?いいの??交換してくれるの?????

パチクリと驚きで目を丸くする私に向かって、ゼルエルは天使のような笑顔をうかべている。

それから、おもむろに、パクリとゼリーを口にした。


「おねぇちゃまのゼリーも美味しいです」


「そそそそれはなによりでございましたわ。じゃ、じゃじゃじゃじゃあ私はゼルエルのゼリーを食べてさしあげてございまするでござるわ」


ど、動揺なんてしてませんわ。おねぇちゃまと天使の笑顔のダブルコンボでTKO寸前なわけじゃございませんわよ。

私は悪役令嬢として常に極悪非道で冷酷無比なんでございますよってからに。

冷静に平静に・・・自分の席に座りなおして、優雅に上品にゼリーをパクリ。うん。美味しい。とても美味しい。尋常じゃないほど美味しい。

そうです。今、私が無言で一心不乱にゼリーを食べているのは美味しいからです。

決して、『私の弟が天使すぎて辛いん・・・』と、リトルセラフィナが荒ぶるのをゼリーを無心で食べ続けて鎮めようとしているわけではありません。


と、とにかくです。すべて計画通りにいきました!

デザートの略奪行為だなんて、なんとも恐ろしい悪事を成功させることができました。

ああ。やはり私は生まれついての悪役令嬢なのでしょう。悪の才能の成長がトドマルことを知りません。




なにはともあれ。これで無事にゼルエルには憎き義姉だと認識されたことでしょう。

これからはギスギス姉弟関係になってしまうのは、ほんのちょっぴり寂しいですが致し方ありません。

だって私は血も涙もない悪役令嬢なのですから!これが世界の真理なのですから!!


それに、大丈夫です。今日の悲惨な思い出も、いつかの未来にヒロインが優しく癒してくれるはずですから。

ゼルエルの傷だらけの心を穏やかに抱きしめてくれるはずですから。


うふふふふふ。可愛いゼルエルと可愛いヒロインが仲睦まじく並ぶ光景。ああ、さぞ眼福だろうなぁ・・・。

これは絶対に義姉として見逃せませんよね!義弟の晴れ舞台ですものね!!

何があろうとどんな場所だろうとコッソリ忍んで見守らなければいけませんよね!義姉としての使命ですよね!!

ゼルエルとヒロインの起きるであろうラブイベントを絶対に見逃さないようにしようと心に誓った。


こうして私は本日、華々しいザマァへの階段を無事に一段登ることに成功したのであった。





私の名はセラフィナ。

異世界転生した悪役令嬢(仮)


いつかの未来に輝かしく断罪されるために今日も精進努力を続けている!!!





【盛大なネタバレ】


そんな未来(断罪)は来ない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ