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極悪非道な義姉ムーブ。



立派な悪役令嬢として豪快にザマァされようと心に誓った私は、いよいよゼルエル君と不仲になるべく夕食へと出陣したのである。


さっき満面笑顔で仲良くしようねといったくせに、数時間後には意地悪な態度になっているという、情緒不安定すぎる悪役令嬢になってしまうけれども。

でもでも、私が知らないだけで、ゲームでの『セラフィナ』はそういう情緒不安定キャラだったかもしれない。


乙女ゲームなんて星の数ほどあるのだし、悪役令嬢が情緒不安定なゲームがあってもおかしくない。

たぶん大丈夫だ。根拠はないけど自信だけは無駄にあるので、たぶん大丈夫だ。


ただ、心配なのは本筋とのズレがあった場合のペナルティだ。

どこまでが許容範囲なのだろうか。

おおよその本筋さえ守ればOKのガバガバ判定ならいいですが、妙に神経質にダメ出しされたりしたら・・・どうしましょう。


まぁでも、今のところアリかナシかの判断基準のデータが皆無でありますので、そこは様子を見ながら探り探りでやっていくしかないですね。

ああ、情緒不安定悪役令嬢はアリ判定をもらえますように・・・。

初手アウトで天井からタライが降ってきたりとかしませんように・・・。




というわけで、いざ出陣。


意気揚々と食堂に赴けば、もうすでにお母様も父もゼルエル君もテーブルに着席していた。

うわわ、ちょっと覚悟を決めるのに時間がかかり過ぎたでしょうか。

待たせちゃって申し訳・・・ないなんて思わなくってよ!おーっほほほほほ。


危なかったです。


なんとか、悪役令嬢っぽい思考を保てました。ギリセーフです。

うん、タライも落ちてきません。


そうですよ。よくよく考えてみれば、最後に登場して家族を待たせるなんて、なんという我がまま令嬢なのでしょう。

これは家族もドン引きです。ほら、お母様も父もゼルエル君も不機嫌そうな顔で私のことを睨んでいるように見えます!

ええ、あれは確実に私に不快感を抱いておりますね。間違いありません。


無意識に悪役令嬢ムーブができるだなんて、自分の才能が怖いです。

これなら、何の問題はありませんね。私は立派に皆から忌み嫌われることでしょう。

でも、お母様に完全に嫌われるのは精神的にこたえますので、そこだけは最低限におさえることにしましょう。



己の隠されていた悪役の才能の開花に満足しつつ、私は真っ直ぐにゼルエル君の前に立った。

ここでダメ押しの意地悪な義姉アピールですよ。


「ゼルエル君!」


「はい?」


「ゼルエル君は弟だから、これからはゼルエルって呼び捨てにするんだからね!」


「あ、はい。どうぞ」


「それで、私の呼び方は、ねぇね、おねえちゃま、偉大なる全知全能なお姉様から選びなさい」


「・・・え」


んふふふ。困ってる。困っておるわ。

男の子にとって『ねぇね』も『おねえちゃま』も口にするのも恥ずかしく精神的ダメージは絶大。

残りの一つも、強引に私を褒め称えさせるものだし、妙な屈辱感に襲われるがいい。

私の究極の三択問題にゼルエル君、じゃなくてゼルエルはしばし天井を見上げて思案した後、コテリ小首を傾げながら言った。


「おねえちゃま?」


「グフッ・・・」


完全に油断していたとこに可愛いのダイレクトアタックですよ。

そりゃ、効果は覿面ですよ。クリティカルヒットですよ。

思わず、変な声が出てしまいましたよ。

ゼ、ゼルエルめ、やりおる・・・。


「どうしたんですか、おねえちゃま」


「ガハァッッ!!」


「大丈夫ですか?おねえちゃま」


「も、もうやめて・・・私のライフはゼロよ・・・」


れ、連続攻撃だと!?義弟が全力で私にトドメをさそうとしてくる件。

そして私の脳内でテンカウントが鳴り響いた。

完全敗北である。ちくしょう・・・。


ゼルエルが『おねえちゃま』なんて可愛く私を呼んだせいでドキドキしてしかたない。

このままでは心臓が過重労働で長期休暇に入ってしまう。

それはマズイ。ここで死ぬわけにはいかないのです。

私は立派にザマァされるまで生き抜かねばならないのです。


これ以上、心臓の鼓動が早まるのを避けるため、私は話題を変更することにいたしました。

だって、このままじゃ、本気で死にそうでしたので。


「そ、そそそそれそれじゃ。お母様のことは、母上、お母様、どちらにしますか?」


え?普通??当たり前ではないですか。

だって、お母様のことなんですよ。変な選択肢を提示するなんてできません。

というか、するつもりもありません。


だってですね、ちょっと想像してみてくださいませ。麗しいお母様と可愛いゼルエルが仲良くする風景を。

完全なる聖画ですよ。キャンパスに模写して壁に飾って毎日拝むレベルの光景ですよ!?


なんて尊い・・・。


つまり、私の尊いを守るためお母様とゼルエルには是非とも仲睦まじくなっていただかなくてはならないのです。

ええ、絶対にです。ゆえに、ここは普通で良いのです。

そして、ゼルエルは少々悩んでから、お母様を見ながら言いました。


「・・・母上」


「はい」


先ほどの『おねえちゃま』より、躊躇いがちにほんのり頬を染めながら言うゼルエルに、ふんわり聖母の微笑みをうかべて答えるお母様。

そして、言った後で恥ずかしさが頂点越えしたのかゼルエルは耳まで真っ赤にして俯いた。

はわわわわ。ちょ、誰か誰かぁ、今すぐビデオカメラ持ってきて!!

しかし残念なことに記録媒体はこの世界では未発明でありますので、私は己の脳にこの光景を焼き付けるためにガン見した。

麗しのお母様と可愛い義弟の尊い姿を一片たりとも見逃さぬように瞬きも惜しんで凝視した。


やはり、お母様とゼルエルは仲良しになっていただかねばならない。

主に私の至福のために!そう、改めて認識したのであった。

さて、それでは夕食をいただきましょうか。




・・・あ、忘れてた。



「ゼルエル」


「はい」


「父は父でいいから」


「え、あ、はい。わかりました」


お母様の呼び名が決まったので、私はすっかり仕事を終えた気分で自分の席につこうとしたら、ものすごいヒゲオーラが漂ってまいりまして、そこでヒゲのことを忘れていたことを思い出したのですけど、いい加減、お腹も空いていましたもので、サックリと言っておきました。


「フィーナ、パパの扱い雑じゃない!?」


メソメソと大人の男が泣きべそをかきながら、私の対応に不服を訴えてきました。

もう、仕方ないですねぇ。

私は泣きながらお母様に慰められている父の元へ向かうと、あざとさ大爆発の上目づかいという最強の武器を装備して言いました。


「ごめんなさい、お父様。あんな冷たい態度を取ってしまって・・・。だって、私、お父様のこと大好きすぎるから、えっと、恥ずかしくなってしまって、そう、ついあんな態度をとってしまうんです」


「な、なぁんだ。そうか。そうだよね、フィーナはパパのこと大好きだものね!」


「ええ、そうですわ」


にっこりと微笑んであげれば、父はヒゲを撫でながらご満悦で頷いた。

ああ、なんてチョロ可愛いのでしょう。

すっかり父の御機嫌も直りましたので、私は無事に自分の席へと座ることが出来ました。


ええ、ええ、本当に父のことは大好きですよ。お母様と同じくらい愛してます。それは胸を張って宣言できます。

ただ、父とお母様では私の愛情表現に違いが出てしまうだけなのです。

だって、お父様ってば、からかいがいがありすぎるんですもの。


だから、ついつい。ね。



は!?そういえば、私の呼び名は『おねえちゃま』で固定になってしまったのかしら。

どうしましょう。後でそれとなく、『お姉ちゃん』に変更してもらえるようにお願いしなくては。


だって、あんなに可愛く『おねえちゃま』と日常的に呼ばれるだなんて、そんなの命がいくつあっても足りないわ。


こんな気軽に私の命を狙ってくるなんて・・・ゼルエル、恐ろしい子・・・。




【まったくストーリーに抵触しない設定】


娘を持つ父親。

溢れるほどの愛情の1/1000ほどしか娘に受け取ってもらえない悲しき生き物。

『嫌われてるわけじゃない。照れてるだけ』という呪文を唱え頑張って戦い続ける愛の戦士。

・・・たまには父に優しくしてあげてください。



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