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ゴールテープを切った瞬間にスターターピストルを鳴らされた。



そこそこ普通の私は、

そこそこ仲の良い両親の元に生まれ、

そこそこ裕福な家庭で育ち、

そこそこ親しい友達を得て、

そこそこ優しい旦那さまと結婚をして、

そこそこ可愛い子供や孫に恵まれて、

そこそこ穏やかな臨終を迎えた。


ああ、そこそこ良い人生でありました・・・。


穏やかな気持ちで目を閉じ、目を閉じて、目を閉じ続けて。


え?なんかこう上の方から天使がおりてきたりとかしないの?

なんかこう・・・光と共に神の声が聞こえてきてきたりとかしないの?

あれ?私、もう死んでるの?まだ生きてるの?え、どっち!?教えて、偉い人!!


当然ながら初めての死亡体験だったので、私としてもどうなるものかと判らないままに、とりあえずは身動きせずに目を閉じ続けていたのだけれども。

あまりに何も身体的にも精神的にも変化が無さ過ぎたので、試しに恐る恐る目を開けてみれば・・・。うん、開きました。


ええー、どうしよう。

今きっと子供や孫たちは「バァチャン死んだと思ったら死んでなかった」と阿鼻叫喚の大騒ぎになってんじゃないの?大丈夫?お医者さんとか看護師さんとかアワアワしてない?平気??


視界は不明瞭で耳の聞こえも反響が酷くて悪いから、周囲の状況はまったくつかめていないのだけれども。

なんか、ごめんなさい。悪気は無かったんです。私的には死んだつもりだったんです。

まさか、こんな燃え尽きる前のロウソク現象が我が身に起きるなんて思ってなかったんです。


正直、すまんかった・・・。


まぁ、でもしかし、あれだよ。バァチャンの命を懸けたドッキリだと思って笑ってください。

ほら、私ってそういうとこあったじゃない?お茶目なクソババァだったじゃない?


というわけで、これ以上、目を開けていたら子供たちにブチ切れされそうなので、私はもう寝ます。

本当に、これで最期です。もう目覚めることは無いでしょう。

次に目を開けたら私は天国にいるはずです。フッカフカの雲の上でキャッキャウフフしてるはずです。

たぶん。いや、絶対。



それでは皆様。おやすみなさい。







そして皆様。おはようございます。素敵な朝ですね。

うふふ。どうやら私は無事に天国へと来れたようです。


・・・なんも見えんけど。


でも、背中に感じるフカフカ感は、あきらかに今まで寝ていた病院のベッドとは違うものですからね。

私は今、フワッフワの雲の上に寝ているんですよ。


・・・なんも見えんけど。


いや、だって、もうさぁ、そうと信じてなきゃやってられませんよ。

実はまだ人生のロスタイム続行中でしたぁ、なんて言われたら辛すぎる。

だから、決めました。私、もう死んでるんです。ここは死後の世界なのです。

相変わらず視界は不明瞭だし耳の聞こえは悪いしで、周囲がどうなっているのやら把握が出来ないけれども。

私、死んでるから!!


それにしても、死んでもお腹は空くんですよ。知ってました?

そして、空腹を訴えてオアオア言うと、なんか謎の液体を飲ませてくれるんですよ。味はしないんですけど腹にはたまります。


ところで、勘のいい方は察してくださったかもしれませんが、喋れないんですよ。死後の世界。

いえ、声は発することはできるんですが意味を成した言葉にならないんです。

恐らくですけど、死後の世界って全ての生物がくるじゃないですか。

だからきっと言葉での意思疎通を必要としない感じにしたんじゃないでしょうかね。偉い人が。

・・・知らんけど。


さらに、出るもん出るんですよ。衝撃の真実です。

死してなおウンコからは逃れられないんですよ、生物は。

なんて恐ろしい・・・。

でも安心してください。なんか、全自動で綺麗にしてくれるんです。

ウンコマンにはなりません。良かったです。


なにはともあれ、天国って素晴らしいですよね!ああー、こんな素敵な天の国に来ることが出来て私はとっても幸せ者だわー。

ほわっと頭の片隅に芽生えた可能性を力技で握りつぶしつつ、私は天国への賛歌で脳内を埋め尽くす作業に勤しんだのでありました。

そう。ここは天国である。私は大往生を遂げたのである。


異論は認めない。いいね?




そのような感じで、ふわっと芽吹いた可能性を全力で否認しながら、飲んで出して寝て起きてを繰り返して数日が経過したわけですが。

さすがに・・・さすがにね・・・。私だってコレが問題を先送りしてるだけの無駄な行為だって理解しておりますのでね。

いい加減、腹をくくることにいたしました。ので、認めましょう。ええ、認めますとも。


(私、赤ん坊になってますよねー)


いや、うっすらソウなんじゃないかって気はしてたんですけれどね。

なんか、やっぱ死んだけど死んでなかったんじゃんって言われたくなくて・・・。

必死にココは死後の世界であると思い込んでました。

すいません、出来心だったんです。ユルシテクダサイ。



さすがにもう、これ以上の悪あがきをしても仕方ないと諦めまして、私は己の身に起きたことを冷静に分析することにいたしました。

とはいっても、所詮は私のショボイ知識での見解でありますので、過度の期待はしてはいけません。


こうしてハードルを下げまして、いざ、現場検証と参りましょう。


いまだ部屋全体を見るほどに視界は開けていませんが、私のベッドをみるからに西洋色が濃い目であります。

枕や布団の肌触りが極上であり、母でない女性が私の世話をしてくれていることからも、わりと裕福なご家庭であろうと思います。


そして、私の母とおぼしき女性。素晴らしいです。

ツヤツヤのハニーブロンドをスッキリと纏め、華美になり過ぎず地味になり過ぎない絶妙な化粧加減、清楚さの中に気品を兼ね備えたドレス。

パーフェクトです!お母さま!!素敵!!!優しく私を抱き上げて穏やかに微笑む御顔の麗しさといったら!ああ、尊い・・・。


んで父は、ヒゲ。

それから、ヒゲ。

つまりは、ヒゲ。



あとは、そうですねぇ・・・。

たまに目に映る文字は日本語には見えません。そして、聞こえる言葉も日本語ではないです。

もちろん英語やフランス語などでもなく、私の記憶内にあるどの言語にも当てはまりません。

ちなみに、その謎の文字を私は読めませんし他の人が発している言葉も理解はできません。



以上のことから、私としては異世界転生なんじゃないかなって思ってます。

大丈夫だ、問題ない。

それ系の小説や漫画はそこそこ読んでましたから。


それにしても読み書きが出来ないのは酷い。

普通は、フワッとチートで言語問題は速攻クリアされてるものなのではないのですか。

まさか・・・、だからこその赤ん坊スタートなのか?いや、そんな気遣いいりませんから!?


とにかく、また一から勉強しないといけないのか。切ない。

まぁでも、もう生まれてしまったのだから仕方ない。やるしかないのである。



さて、ソレはソレとして問題なのは世界設定である。

異世界転生女子の定番である乙女ゲーム世界だろうか?

だとすると、王道のヒロイン転生か、はたまた一世を風靡した悪役令嬢転生か、もしくは新興勢力のモブ転生か。


はっ!?待てよ。まさかのRPG世界だったら、どうしよう。

まかり間違って勇者だなんて言われでもしたら号泣するしかない・・・。

世界の命運を背負って旅をしろだとか、そんなプレッシャー受け止めきれないですよ。

村娘Aとかだったらいいな。なんか唐突な試練を与えて勇者にアイテム授ける感じの都合のいい女がいい。



何か世界観を知る手掛かりがあれば良いのだけれども、残念ながら私の手にしている情報は『母は尊い、父はヒゲ』くらいのものである。


なんも分からん。


しょうがないので、どんな設定でも対処できるように知識と体力を育成しつつ、ヒントを見逃さないように周囲の観察をやっていくしかないでしょう。

・・・あ、育成ゲーム世界の可能性もあるって忘れてた。


なんにせよ、現時点で私が出来ることは、お母様にウットリすることだけである。

全力でウットリしよう。うん。



あーあ、スペクタクルマッチョブラザーズの世界だったら話は簡単だったのになぁ。

アレなら死ぬほどやりこんだから、隠しブロック隠しルート完全暗記してるし最短クリアも夢じゃないのにぃ。

鍛え抜かれた肉体から繰り出されるパンチで敵を撲殺していく爽快感といったらもう、思い出しただけで笑顔になれるほどですよ。

私は面白かったけど。世間の評価はクソゲーだったんだよねー。


ああ、もう二度とやれないと思ったら無性にやりたくなってきた。スペクタクルマッチョブラザーズ。

今からでも、この世界の設定、スペクタクルマッチョブラザーズにならないかなぁ。

無理かなぁ。無理だよなぁ。



でも、希望は捨てずに頑張ろう!



もしかしたら、いつの日か、近所に怪しげな竹林が出現するかもしれないし!

マッチョな電気工の兄弟が我が家に修理に訪れるかもしれない!!


ハァッ!?つまり、今から筋トレしておけば来たるべき日にはマッチョブラザーズの仲間になれる可能性が!!なんと素晴らしい。


そうと決まれば話は早い。全力でマッチョにならないと!

見てろよー見てろよー。ムッキムキになってやるぞー!!





【まったくストーリーに抵触しない設定】


スペクタクルマッチョブラザーズ。

キノコ好きな配管工の双子の兄弟が桃姫を掬うため亀王と戦う世界的に有名なアクションゲームを、パクリスペクトした2Dアクションゲーム。

キレキレマッチョの兄弟がお鶴さんに攫われたタケノコ堀名人の翁を命懸けで助けに向かう壮大なストーリー。

史上最悪のクソゲーとして世界的に有名だが、主人公のように熱狂的なファンが微少なりともいる。

クリアすると実はお鶴さんに一目ぼれした翁が自主的についていったという、どうでもいい真実が明かされる。

翁の老いらくの恋の歴史を30分もスキップ不可で強制的に見せられるEDには世界中のプレイヤーがブチ切れた。

ちなみに、そのEDで感動で号泣した勢が主人公含むスペマチョ狂信者である。



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