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苦手な方はご注意ください。

報われない片想いの話

夏休みの片思いの話

作者: 紅南瓜

「報われない片思いの話」の二人の幼い頃の夏休みの話です。

「修学旅行の片思いの話」と「渡せない片思いの手紙の話」と同じく「報われない片想いの話」シリーズの一時の話となります。


好きな人ができて、最初の夏休み。積極的に遊びに誘った。元々外であまり遊ばないらしいあいつは、暑い中外で遊ぶのかと馬鹿じゃないのかとでもいいたげな声で言った。しかし、何回も家で遊んでいたので、元々外で遊ぶんでばかりの俺はそろそろ家の中でじっとしていることに耐えられなかった。

あまり乗り気でないあいつの手を引いて外に出かけた。アスファルトの道路の熱気より、掴んだ手の熱さより、胸の奥の方があつくてくるしい気がした。

しばらく手を引いて歩いていたら、どこに行くのかと聞かれた。なんにも考えていなかった。

普段なら公園で鬼ごっこをしたり川に飛び込んだりだろうかと思いつつあいつを見て、やらないなと自問自答する。散歩でもするかと提案すると、今度はこの暑いのに馬鹿じゃないのかと呆れた声で口に出して言った。そう言いつつ付き合ってくれる、自分の顔が緩むのがわかった。

二人で行くあてもなく散歩した。

肌がじりじりと焼かれて汗がぽたぽたと帰り道標みたいに地面に落ちた。五月蝿い蝉の声が余計に夏の暑さを感じさせた。

どこか涼しいところにいきたいとあいつが言う。同意だった。涼しいところ、日陰、暗いところ、と連想ゲームのように考えて、なんとなく足が神社へと二人を運んだ。

神社は山の中腹あたりにひっそりと佇んでいた。お盆に開かれるお祭りで昔来た時の記憶とはまるで違う。ここまで来る道は人通りもほとんどなく、中も人の気配が感じられないほど静かだった。俺達はその神社のうらの大きな御神木の横あたりのこれは御神木ではないだろうという木の根元に腰をおろした。

本当は、御神木の根元の方が座りやすそうだと思ったし、あいつはそこに落ち着こうとしたのだが、流石に罰当たりな気がして止めた。

休憩に選んだこの木陰は人気がなくて、風がよく通って、木々がゆれる音とあんなに不快に感じた蝉の声が心地よかった。

木陰の心地良さにうとうとし始めた頃、いきなり強い風が横切る。

その風にふかれて落ち葉やらなにやらが舞い上がった。その何かを追いかけるようにあいつは立ちあがりふらふらとけもの道のような道なき道を歩いていく。どこに行くつもりだと声をかけても、聞こえていないのか足をとめない。仕方なく追いかけていくと、すこし開けた場所へ出た。真ん中に木が一本、それを避けるかのようにそこだけ、他の木が生えてなかった。

その木は枯れていた。あいつがそれを何故だろうと聞いてくるので、知るわけがないと思いつつ雷でも落ちたんじゃないかと答える。その答えに納得したのか、あいつは木を見上げるのをやめてあたりをきょろきょろとしはじめた。

普段と違うあいつの奇行に些か戸惑った。場所が場所なので少し気味が悪かった。何してるんだよと聞く自分の声が予想より大きく響いた。

またしても、そんなこと聞こえてないかのようなあいつが今度はあっと声を出した。反射的にびくりと体がふるえた。そのまま動かない俺のもとにあいつが駆け寄ってくる。怖くて逃げたいと思った。けど、なぜだか逃げられなかった。

俺が葛藤しているうちにあいつが目のままで来て見ろよと掌を開いてみせた。

木漏れ日が降り注ぐ笑顔に、きれいだ、とマセた台詞が口を衝いてでる。はっとしてあいつの顔を見る。すると、まぁ確かに艶々してて綺麗だよなと掌のものを見ていう。そこではじめてそれを認識する。

どんぐりだった。

どんぐり、そう呟きつつ目の前の情報が頭に届かなかった。状況が飲み込めていない俺に嬉しそうに続ける。

そう、夏なのに、珍しい、と言葉を覚えたての赤ん坊のように。夏、どんぐり、と頭で繰り返してやっと理解する。夏にどんぐりなんて確かに珍しい。そう、頭で理解したことをそのまま口にすると、そうだろうとまた嬉しそうに言う。

身体中があつくなる。木陰から出たせいだろうとそう思い、日陰に戻ろうとあいつに促して元の場所まで戻った。木陰に入っても引かない身体の火照りにまた胸の奥があつくてくるしく感じた。

そのまま意識が遠のいた。

目が覚めたら家だった。母が熱中症で倒れたのだと、お友達が運んでくれたのよと教えてくれた。通りで身体中があつかったわけだと思った。

そのお友達がお見舞いだってこれ、と母が枕元に何かを置いて、やんちゃも程々にしてねと言って部屋を出た。手に取って目の前にかざした。どんぐりだった。どんぐりがお見舞いなんて何かのキャラクターみたいだなとおかしくて笑った。

手に持ったどんぐりをぼんやりとみつめながら、胸の奥があつくてくるしく感じた。

手に持ったどんぐりを眺めながらまだ熱があるみたいだと、そう心のなかでつぶやいた。


読んでいただきありがとうございます。

ほかの話にくらべて書きながら悩むことがより多かった話なので、引っかかるところがあるかも知れません。もしなにか気づいたこと、気になることなどありましたら教えていただけると幸いです。

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