。
「・・・・は・・」
「こ・・ちは・・」
・・・ん?
「きこえますか?」
はっ!!
まずい寝てた!データ入力してプレゼンの資料まとめて、って・・・・あれ?・・ここ・・どこだ?
見渡す限りの真っ白な空間。知らない場所だ。さっきまで会社にいたはずなのに・・
「お目覚めですね。」
「え!?」
声のした方の先を見るとそこにはうっすらとだが人と思しき輪郭が見えた。
さっきあんなのいたか?
「・・設定を変えます。少々お待ちを。」
そう言うとその輪郭はなにやら指示を出し始めた。
聞き取ろうとしたが早口なのもあってまるで意味がわからない。専門用語だろうか?
よく知らない単語を長々と言った後、その輪郭は色を帯び始めた。輪郭だったものは次第にその姿を鮮明に映しだし、服が、手足が、表情が、しっかりと見えるようになる。
動きやすさそうな白いドレスにところどころ見える白い肌。すらっとした体格で背が高い。
こちらを真顔で見つめる顔立ちの整った娘は、さながら等身大の人形のようだった。
風貌からして高校生だろうか。
「ななななんだそれ!?どうやって!?」
「はじめまして。貴方は海老名悠太さんですね?」
「さっきのは!?あれは何です」
「海老名悠太さんですね?」
「え、ええ。いやそれより!さっきのは一体なん」
「これから私の言うことをよく聞いてください。」
「は?いや聞きたいことがまだ」
「海老名悠太さんにはこれより『Re:birth』をしていただきます。そちらへ。」
出された手が向いている先にはゴツゴツしてる大きなカプセルが横たわっていた。人一人楽々入れそうな大きさだ。
「えーっとあのー・・・・なんで入らないといけないんですか?」
「入ってください。工程が進みません。」
「いやだからこっちの質問に」
「入ってください。工程が進みません。」
・・・・会話が全く噛み合わない。
いや、最初からする気がないな。
このままでは埒があかない。しぶしぶカプセルに入ることにした。
・・中は特に苦しくなかった。
カプセルの中は特に何かあるわけでもなくただの箱とでもいったところか。
これはもしかしたら日頃の疲れを取るために部長が酸素カプセルを用意してくれて、この娘はその案内人のようなものなのかもしれない。
というかそう思いたい。この際夢でもいい。
「では今から『Re:birth』について説明を始めます。そもそも『Re:birth』とは五次元世界に基づき構築される世界で過去の事象を参考にあらゆる可能性を考慮した実存する多次元空間の一つの回答である。」
「???えっとそれは・・」
「それにより如何なる現象に遭遇した際も
多次元空間により亜空間に干渉することなく自らの世界の創世をし」
「あー分かった分かった。全部分かりました。分かったんでもうこのカプセルから出てもいいですよね?」
「まだ途中ですがよろしいでしょうか?」
「分かったから大丈夫。それより出てもいいですよね?出ますよ?」
まったく、こんなことやってられるか。出よ出よ。
?・・・あれ?
扉を開けようとするが開かない。
カプセルの扉に鍵なんかついていたか?
「では『Re:birth』を始めます。数年後に再び伺います。それでは・・」その娘はカプセルから見えない位置に行ってしまった。
・・・・???
どういうことだ?Re:birth?数年後??というか出られない!?!?
頭が完全に整理しきれない。しかし時間は待ってくれなかった。
突然謎のアラーム音とともにカプセル内全体から煙がふきだし始める。
「お、おい!どういうことだ!おい!」
扉を開けようと叩く。が・・開かない。
徐々に視界にもやがかかっていく。
「だせ!だせ!だせよ!」
思いきり叩いた。そこら中蹴った。でも、変わらない。
もうほぼ何も見えない。
もやにつつまれ白かった視界は端から次第に黒く侵食されていく。
だんだんと・・意識が遠のいていく。
・・なんだよ・・・まだ何もできてないのに・・・俺の人生・・ここで終わりかよ・・・・・・・・・・
・・・・・はっ!!・・・・ここはどこだろう・・・・・
とりあえず生きてはいるみたいだ。
目の前にあるのは…時代を感じる木目の天井。遠くから聞こえてくるのは廃品回収の呼びかけ。
ここは…一軒家だろうか。それにしても昔住んでいた家によく似ている。
ふと横を見るとそこには元気にたなびく3匹の鯉と…柵があった。
!?!?柵!?
絶対やばいここから早く逃げないと!!
ぐっ・・あれっ・・くそっ、手も足も動かせない・・
とりあえず助けを呼ぼう。話はそこからだ。
「ふあええぇぇぇ〜!!」
・・?赤ん坊の声?ここの家は家族で住んでいるのか?
「・・はあ〜いはいはい、どうしたの〜ゆうちゃん、おなかちゅきましたか〜??おトイレでちゅか〜〜??」
・・・??ゆうちゃん??えっ、母さん!?というかでかい!!なんだ、なにが起きてる!?
「大丈夫、ママはここにいまちゅよ〜〜は〜い泣かない泣かない」
何をするんだ!やめろ!!
・・・・・・・・・・だっこされてる???
「は〜いもうこわくない〜こわくない〜〜」
もしかして・・な、何かないか!?鏡!鏡は!?
その時手鏡が目に飛びこんできた。
そこに映し出された己の姿は、紛れもない現状を物語っていた。
生えかけの髪、小さな丸い手、くりっとした黒い目・・・・
もしかして・・・
「あとでミルクごくごくしましょうね〜〜〜」
もしかして俺、赤ん坊になってる・・・??