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徒然に骨生、あてもない共食いの日々  作者: 春うらら
1章:骨を拾う
7/7

1-7.刀はかく語りき

 「『いやー、今日も今日とていい天気だね。まあ、ここじゃ天気なんて関係ないけどな。』<そんなやさぐれるなよ。もうじきここから抜け出して、青い空が見れるさ>『もうじき出れるって…もうかれこれどれぐらいここにいるよ?日付感覚がないが、もう3カ月はいるんじゃねえの?』<そんなになるのか・・・>ああ、だって、俺の一人二役の会話がこんなにも上達しちまったんだぜ?そらあ―――』

 目の前のスケルトンが3体同時に一刀される。自動操縦もだいぶ馴染み、彼の一振りはこの3か月で切れ味を増していた。


―――ね。いくら振られても会話も途切れなくなりますよ」

 リムはいくら振られても話すことを止めない。()のパートの部分だけ少し高めの声に変えて、続ける。


「<無口ですまん。おまけに根暗で、本当にお前がいないとつまらん奴なんだよ私は。だから、どうか頼む。いつもの奴をやってくれ>…そこまで言うなら仕方がねえな」


「ほらよ」

 リムが軽く応えると、吹き飛ばされたスケルトンが粒子となり彼に吸い込まれていく。


「どんなもんよ。気付いたら目の前の白骨死体を光にして吸収出来る能力を身に付けちまったぜ。お前、いちいち骨食って、効率悪いんだよ。さっさとこの駄々広い骨を片付けて、次行こうぜ、次。次がどこだか知らねえけどさ。骨がいないどこかに行きたいのよ、俺は」

 砕いては、吸収、砕いては、吸収。リムが切り裂いたスケルトンを軒並み吸収していくため、処理速度は飛躍的に上がっていた。しかも、吸収すれば吸収するほど、彼は固く、素早くなっていく、彼がリムを使って切り裂けば切り裂くほど、リムを握った彼の右手の甲から彼の右肩まで、黒い入れ墨のような模様が広がっていった。


 「・・・まさか、スケルトンを食う度、俺との同期が進んでいくとは思わなんだ。どうなってんだ、こりゃ?」

 どんな強靭な魔剣であろうとも、骨を切り続ければ刃こぼれし、折れる。なのに、リムのブレイドは傷一つ無いどころか、以前よりも鋭くなっていた。


 「さっさと折れて終いになると思ったんだがな。・・・本当、なんなんだお前?」

 答えはないままに、彼はそれからも暴食は続け、彼とリムがこの階層に落ちてきてから、半年が経とうとしていた。あれだけいたスケルトンは、ほぼ彼らに食い尽くされていた。


 「ひゃー、ずいぶん綺麗になったな、おい。なんか、こうビフォーとアフターを比べると、何か、こう達成感みたいなもんがあるね。まあ、腐肉は吸収出来ねえし、ただの骨にも興味がねえもんだから、純然たる死体置き場って感じになってるがな」

 

 (・・・したいおきばだ)

 この半年で起こった大きな変化として、彼が時折思い出したようなタイミングで、リムとの会話を成立させるようになったのだ。


 「おまえ、死体置き場って知ってんのか?」

 

 (?なんだっけ?)


 「はっははー、お前にとっちゃ故郷みたいなもんだろうよ。ったく、それにしても、片付いたら片付いたで、キラキラギラギラ、よく光ってんな、おい」

 露出している床や壁のあちこちに輝く水晶が出現していた。恐らく、元々あったのだろうが、スケルトンの山に隠され目立っていなかったのだ。それら水晶は虹色に輝き、温かく仄かな光を揺らめかし周囲を照らしていた。


(美味そう)

 

 「えええええ・・・、お前は骨しか食えない骨依存症じゃないの?あ、俺もかじってたな?なんだ?なにがお前の琴線に触れるのか全く分からん」

 リムの問いかけに反応せず、彼はフラフラと虹色に光る石――魔鉱――に近づいていく。


 「ま、どうせ死にはしないし、物は試しかってか」

 床に生えている魔鉱は持ち上がらず、彼はそのまま噛り付くき、噛み砕く。

 

 (・・・いける)


 「ちゃんちゃんちゃーん、骨は悪食の称号を俺から得ましたー。いやー、ひっでー絵面」

 バリバリと魔鉱を噛み砕く彼を、リムは呆れながら眺める。一つ食べ終わると、すぐに別の魔鉱に向かう彼。


 「あ、これは延々とバリバリタイムが始まっちまう」

 魔鉱の近くまで来ると、彼が喰らいつく前に、リムが彼の右腕を操作し、魔鉱をたたき切る。

 

 「ほらよ!」

 斬られた魔鉱は光の粒子となって、彼に吸収されていく。

 

 「出来るもんだな。スケルトンにも出来たから、もしかしてって思ったんだが。バリバリタイムよりキラキラタイムの方が効率良いだろ?」

 

 (・・・)

 口惜しそうにリムを見つめる彼。


 「え?不満あるの?嚙りたかったの?」


 (・・・)

 彼から一瞬不満そうな雰囲気を感じたが、すぐに露散して、彷徨いだす。


 「なんだなんだ、骨でも口寂しさは感じるのか?っつてもな、全部バリバリしてたら馬鹿みたいに時間がかかっちまうからな」

 魔鉱に向かう途中で、スケルトンを見つけ、歩き出す彼。


 「あ、良いこと思いついた!」

 スケルトンを一刀の下、斬り捨て、リムは崩れ落ちるスケルトンに追撃を入れる。


 「ほらよ!」

 追撃の横凪の一閃で、切り落としたスケルトン指の骨を、リムは器用に彼の口に投げ入れた。


 「これで少しは口寂しくなくなっただろ?」


 (・・・あい)

 返事をしながらバリバリと指の骨を噛み砕く彼。


 「噛むんじゃねえええ。口の中でコロコロすんだよ。ほら!」

 リムがおかわりの指の骨を彼の口に放る。心なしか、彼も満足そうな雰囲気が出ている。

 

 「手のかかる骨だことで」

 コロコロと彼が15個目の指の骨を口の中で転がし始めたときには、ひと月程の時間が経っていた。あちこちに存在した魔鉱は、スケルトンと共に彼らに喰らいつくされていた。今、この空間にあるのは、数多の腐肉と蠢く蟲。そして、彼らと彼らの前にある天井にまで届きそうな大きな水晶のみであった。


 「いやーメインディッシュは最後に取っておくタイプなのよ、俺。途中でこのバカでかい水晶に気付いてたけどさ、最後に残してたって訳よ」


 (・・・)

 フラフラと彼も天井まで届くような大きな魔鉱に歩いていく。


 「・・・でもよ、大きな獲物の前には、やっぱり試練ってのはあるもんなんだな」

 ぴたりと、止まった彼はじっと魔鉱の前を見つめる。

 そこには、ボロボロだが全身を覆う堅牢な重鎧を身に着け、諸刃のロングソードを抱えるように座り込んでいる様な姿勢でかたまっている一体の骨があった。


 「は、ただの骨って訳じゃないだろう?それに、俺らを黙って通してくれるような、物分かりの良い骨でもないんだろう?」

 彼が一歩踏み出せば、ロングソードを抱えた骨はゆっくりと立ち上がった。背丈は彼の2倍はありそうだが、動きはどこか滑らかで、近づいた彼を、真っ黒な眼窩で見つめている。


 「文字通り只の骨ではないってか。こりゃ、骨が折れるわ」

 リムは彼の右腕と同期し、ゆっくりと巨躯のスケルトンに向けて構える。


 (旨そうだ)

 ぼそりと、彼はつぶやく。


 「はっははー、よかったな、巨大なスケさん。どうやら、うちのは、あんたの骨をひろってやるらしいぜ」

 リムの発言と共に、彼は踏み出し、巨躯のスケルトンもロングソードを振り上げた。



 

骨です。石もいけます

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