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徒然に骨生、あてもない共食いの日々  作者: 春うらら
1章:骨を拾う
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1-5.ダンジョンスイーパー

 「・・・ねえ、なんか、今、ヤバそうな声がしたんだけど・・・」

 先ほど、彼とすれ違ったパーティーメンバーのヨナが青ざめた顔をしながら後ろを確認する。


 「・・・最悪だ。走るぞ!」

 リーダー格のグレイが、ヨナ、ガストに指示を出す。

 

 「畜生!ダンジョンスイーパーになんて、運が悪すぎるだろ!!」

 三人の中で一番足が速いガストが、振り返りもせず走り出す。


 「逃げ切るわよ!!まだアンデッドはごめんなんだから!」

 次に小柄で、装備も比較的軽装なヨナが、ガストに続く。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』

 目を凝らさないと見えない闇の奥から、再び咆哮が響く。そして、硬い甲殻が石畳の廊下を叩いてくる音がする。


 「この先の曲がり角を左!その後右に!!」

 殿を務めるグレイが走りながら、腰についている丸い玉を後ろに投げた。

 

「振り向くなよ!!!」

 彼がそう声を掛けた直後、通路が白い光に包まれる。


 「!だから、閃光玉投げるなら、事後じゃなくて、事前に言えよ!!」

 ガストが息を切らしながら叫ぶ。


 「次から、そうするよ!!」

 グレイは悪びれる様子もなく怒鳴り返す。


 「来てるわ!!閃光効いてない!!」

 ヨナが振り返り、黒い化物――ダンジョンスイーパー――を確認して、叫ぶ。


 8つの赤い目を爛々と輝かせ、ダンジョンスイーパーはガストとの距離を詰めていく。先ほどまで開いていた距離は6本の足によって急速に削られていた。


 「・・・ックショウ!!」

 背後の空間が揺れているような錯覚を感じながら、歯を食いしばり走るグレイ。ダンジョンスイーパーは最後尾のグレイを間合いに収めようとしていた。


 「・・・おおおお!!!」

 先頭を走っていたガストが気合いと共に振り返り、右腰のホルスターからリボルバーを抜く。直後に3発の乾いた音が廊下に響き、放たれた火の弾がダンジョンスイーパーの顔面に着弾する。


 『アアアアアアア!』

 歯並びの悪い口から、悪臭漂う白い粘液をまき散らし、ダンジョンスイーパーが叫ぶ。2つの目が潰れ、動きが止まった。


 「ざまあみやがれ!!くそ野郎!!!」

 興奮した様子で叫び、ダンジョンスイーパーに背をむけるガスト、その背を追い付いてきたグレイが押し、共に再び走り出す。


 「助かったぞ!!」

 

 「貸しだ!貸し貸し!!」


 先行したヨナは、下層へと続く階段にたどり着いている。階段まで、後10メートル程。


 「早く早く早く早く!!!!!!」

 ヨナが震える手でリボルバーを構えながら、叫ぶ。廊下の石畳を砕くようにカチ鳴らしながら、ダンジョンスイーパーはガストとグレイの背後に再び迫っていた。距離は詰まり、ハサミが振りあがった。


 「飛んで!!!」

 ヨナが叫び、グレイがガストを抱きかかえ、階段へと飛び込む。直後にハサミが風を切りながら、グレイの頭上を通過する。

 ヨナに体当たりするように飛び込んだ二人。当然、ヨナだけで受け止められる訳もなく。三人でくんずほぐれつ階段を転げ落ちる。

 床に転がり着くと、すぐに階段から覗く上層へと銃を構える。


 「・・・ッ」

 「・・・」

 「・・・お願い・・・!」


 息を忘れる程、階段の先を睨む。カタカタと緊張から三人の銃口が震える。視線の先の闇の中から、ダンジョンスイーパーの荒い呼吸と気配が伝わってくる。だが、ダンジョンスイーパーの体格では、階段は通れないようであった。


『フウウウウウウウウウウウウウ・・・』


 最後に一息を吐くと、ふっとダンジョンスイーパーの気配が消えた。静寂に包まれる小部屋の中で、少しづつ警戒を解いていく。

 「・・・行っ、たか?」

 「・・・わからん」

 「・・・」

 逃げ切れたという事実がだんだんと確信に変わっていくのに合わせて、徐々に三人の銃口が下がっていく。そして、そのまま、床に倒れこんだ。


 「・・・ッた―」

 「・・・もういや・・・」

 「・・・ハーーーー」

 転げ落ちた小さな部屋で、三人は荒い息を吐く。


 「・・・あんなに、強く抱えられて、惚れるかと思ったぜ、ちくしょお」

 ガストが、息も絶え絶えに話しだす。


 「・・・俺も、色々、撃ち抜かれるかと思ったぞ」

 グレイも途切れ途切れに、そしてニヤつきながらそれに応じる。


 「あんたら、結婚しなさいよ。私だけは、理解者でいてあげるから」

 ヨナも笑いながら会話に参加する。


 「違いねえ」

 ガストも乾いた笑いを返し、三人はゲラゲラと笑い出した。

 

 危機から解放された余韻からか、ひんやりとした石畳が気持ち良かったのか、三人は息が整っても、倒れこんだ姿勢そのままに、話を続ける。


 「あーーーー、噂には聞いてたが、"死者の都"名物のダンジョンスイーパーかよ。〔迷宮の掃除屋〕って確かに、あれからしてみれば、俺ら掘り師(ディガー)はゴミみたいなもんだな」

 

 「・・・確か、人間だけ襲うんだっけ?後、探索者の死体はあいつに食われるって聞いたことあるわ」

 

 「ああ、まさに掃除屋なんだろうさ。・・・ギルドの噂話じゃ、食った人間や死体はこの迷宮のどこかに集めて捨ててるらしいしな」


 「うんこでってこと?」


 「ちょっと、ガスト、汚いわよ」


 「いや、本当に噂に尾ひれがついたもんだと思うんだがな、このダンジョン、ピラミッド構造らしいんだ。でも、実はここ、地下もあるんじゃないかって話があってな」

 知識欲が強いグレイが、饒舌になって話し始める。グレイはこういう噂話も好きらしい。


 「そりゃまた、なんでそんな話が流れてんだ?」


 「なんでも、一階層のどこかに大穴が開いてるのを発見したやつがいたらしくてな。好奇心ってやつなのか、ついその穴が気になったそいつは、そこに閃光玉を投げ入れたらしいんだ。そしたら、そこに広い空間が広がってたらしいんだ。1階層と同じくらいの。」


 「めちゃくちゃ広いじゃない。って、それならなんで探索されてないのよ?」

 ヨナは上体だけ起こして、グレイに話の続きを促す。


 「ああ、それがな。その空間、ただ広いってだけじゃなくて、数えきれないスケルトンが蠢いていたらしいんだ。それこそ、覗いた奴の気が触れちまうぐらいの」


 「・・・ええー」


 「・・・ちょっと気持ち悪いな」


 「ギルドに駆け込んで来たソイツは、支離滅裂だったらしくてな。なんとか今の話を聞き出せたんだそうだが。まあ、ソイツ自身、今も記憶が曖昧で、そこがどの辺だったかどうか、もうわからないんだよ」

 

 「酒の飲み過ぎなんじゃねえか?」


 「うーん、確かに、信じがたいわね」


 「まあ、酒の匂いはしなかったらしいが、酔っ払いが見た悪夢って可能性も捨てきれない、というかみんなそう思うだろうな。だから、結局、噂どまりなんだよ。でも、その話が広がっていって、そのスケルトンはダンジョンスイーパーが食ったディガーのやつらなんじゃないかって、噂になったんだろうな」

 

 「死者の都、か。仲間には入りたくねえな」


 「同感よ」

 三人は天井を眺めながら、話を切り上げた。

 その後、しばらく休んだ三人は、誰が言う出すわけでもなく、装備やケガがないか確認を始め、気持ちを整えていった。

 

 「ガスト、弾は平気か?」

 

 「ああ、さっき三発撃ったが、魔鉱の残量はまだ平気だ。弾もまだ予備がある。ま、あんなのはもうゴメンだけどな」

 魔銃のシリンダーを確認する。シリンダーの撃鉄側には小さな魔鉱が詰められており、それがほのかに赤くが発光していた。


 「そうか。ヨナもケガはなかったか」

 

 「平気よ。でも、二人にはもう少し痩せて欲しいわ」


 「・・・余裕そうだな」

 グレイがそれぞれに確認を取り、ゆっくりと立ち上がる。


 「上の階層にダンジョンスイーパーがいたなら、当分はこの2層には来ないだろう。せめて、消費した魔弾の分ぐらいは魔鉱を回収できたら良いんだがな」


 「そうだな。帰りが心配だが・・・さっさと終わらせて、帰ってエールで一杯やろうぜ」


 「そうね」

 ガスト、ヨナがグレイに続く。


 「・・・あら?」

 小部屋の真ん中、小さな床のへこみをヨナが見つける。


 「どうした?」


 「なんだよ?」


 「そこ。床がへこんでるのよ」


 「うん?ありゃトラップじゃないか?踏むと発動するタイプの」

 

 「つまり、どこかの誰かさんもここを通って行ったってこと?」


 「そうだろうな。しかも割と最近じゃないか?この手のトラップは一度発動すると、復活するまで一週間ぐらいかかるから、恐らく、一週間以内だ。・・まだ生きてりゃ良いがな」

 トラップに詳しいガストが興味無さそうにつぶやく。


 「そう、ね。無事だと良いけどね」


 「ああ」

 

 「ま、祈るだけしかできねえがな」


 「ええ、行きましょう」


 そうして、三人は小部屋を後にし、死者の都2階層の探索に戻るのであった。


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