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徒然に骨生、あてもない共食いの日々  作者: 春うらら
1章:骨を拾う
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1-4.続・どこぞの人の骨

 全てのスケルトンを平らげ、ボキボキと部屋を彷徨う。そう広くない部屋、すぐに壁にぶつかり方向を変える。2転3転4転5転…。壁から壁に行ったり来たり。この部屋から脱出するためには、入ってきた扉に辿り着くか、入り口の反対側、つまりは部屋の一番奥の壁にある上層へと続く階段を上るしかないようだ。


(また、壁か、壁しかないぞ)

 しばらく彷徨い続けた後、彼が段差に躓き、階段を上り始める。そんなに長くない階段を上り終えると、やはり床が薄暗く緑色に発光している廊下がどこまでも続いている。

 

 再び彼は彷徨いだす。当てもなく、目的もなく、何を考えるでもなく、ひたすらに、トボトボと。


 考える力を持つ生き物は、その思考する力から恐怖や不安を創り出し、苦しみを生み出し、生きるということに自ら苦難を与えることが多い。「なにも不安がなく、なにも考えたくない」と、いつの時代も似たような願いを聞くが、少なくとも、彼のようにはなりたくはないだろう。何も感じず、何も考えられない、それはやはり、不死者の特権であり、悩み、考え、そして感じられるのは生者の特権なのだろう。


 歩き続けて、かなりの時間が経過した。ダンジョンの中では分からないが、彼が上層に着いてから実に一週間が経過していた。その間、彼に起こったイベントと言えば、この階層に登って3日目ぐらいにスケルトンと出会い、いつも通りに食べたということぐらいであり、それ以外は他のモンスターに会うこともなく、ひたすら歩いているだけだった。


 そんな代わり映えしない日々で、曲がり角から聞こえてくる金属がこすれ合う音と共に、出会いは突然訪れた。


 薄暗い廊下の曲がり角を曲がった先に、銃口を彼に向ける三人組がいた。それぞれが腰に銃や剣を携えており、上半身や太ももといった急所に鉄の防具をしていた。


 「あー、やっぱりな。はぐれのスケルトンだ。」

 三人の中で一番体格の良い男が構えていたライフル銃を下ろしながら、反応する。髪は短く切り揃えられており、筋骨隆々。年齢は30を少し数えた所だろうか。


 「本当に、ここスケルトンが多いわね。どれだけ人が死んでるのよ…」

 三人組の中で唯一の女性が呆れたような口調でそれに答えながら、腰の右側に装着されているホルスターに小型の銃を収める。彼女は左側の腰には何本かのナイフが装着されている。顔はキツメの美人といった感じだが、肩まで伸びている金髪はボサボサしており、首を振ってそれを後ろに回す所作もガサツだった。

 

 「それで、この子どうするの?」

 

 「スケルトンと腐った食べ物には手を出さない。それになんだコイツ、俺たちに興味ないみたいだぞ。旨くなさそうに見えてるんじゃないか?」

 彼女の問いかけに三人目の男がどこかふざけた感じで答え、銃をホルスターに収める。ふざけて答えたが、正解だった。


 (ゲテモノ?旨そうには見えないな・・・)

 事実、彼にはこの三人は食えなくは無いが、旨そうにも見えない。ゲテモノに映っていた。


 「そうよね。中々倒せないし、、いや倒すだけなら簡単だけど、しぶといし、アイテムを落とす訳でもないからね。グレイもそれで良いでしょ?」

 

 「ああ、流石に、粉々にするまで魔銃をぶっ放すのは、勿体ないしな。どうしてもって言うんだったら、ガストが魔剣で切りまくるって方法はあるが?」

 グレイと言われた体格の一番良い男が頷きながら応える。


 「冗談」

 ガストと言われた三人目の男が首を振る。彼は腰の右側に小型の銃を収めるホルスター、左側には剣を携えていた。体格は中肉中背といった感じでグレイより一回り小さい印象だ。

 

「魔剣だって、有限なの知ってるだろ?そもそも、はぐれだろ?俺らに興味無いなら、こちらから攻撃しなきゃ、無害だ」

 彼を指さしながら、ガストが続ける。


 「それに、明日は我が身かもしれないんだからな。せめて安らかに終わらせてやりたいさ」


 「・・・まあな。襲ってくるなら問答無用だが、こう、ハグレでフラフラと彷徨われちまうとな・・・せめて、聖気で逝かせてやりたいと思っちまうな」

 グレイが答える。


 「そうね・・・ねえ、私達もここで死んで、強く未練でもあれば、アンデッド化するのかしら?」

 

 「あー、確か最近、アレクシアの学者がモンスターは魔鉱にならなかった魔素が生物とか、牙や武器、後、骨だとかだよな、そういうのに宿ったもんだって発表したらしい。だからヨナが物凄く強く未練を残して死んだとしても、魔素が宿らないとアンデッドにはなれないさ」

 グレイが顎に手を当てながら話す。


 「結婚したいとかな」

 ガストがニヤニヤしながら、合いの手を入れる。


 「うるさいわね。出来ないんじゃなくて、しないだけよ。でも、自分で言っといてあれだけど、未練を残しながら死ぬのも嫌だし、未練が無くても魔素が宿ってアンデッドになるのも嫌ね」

 ガストを軽く蹴りながら、ヨナが答える。


 「まあ、俺らみたいに魔鉱を探してダンジョンに潜ってる連中からしてみれば、研究結果なんて今更って感じだけどな」

 フラフラと歩き続ける彼を見送りながら、グレイが続ける。


 「まあな。んじゃま、俺らもおまんま食いっぱぐれて、骨になる前に仕事に戻りましょうか。まだ、あまり魔鉱見つけてないし。ひょっとしたら宝箱もみつかるかもしれないからな。」

 ガストが軽い感じで声を掛け、二人も「よし」「そうね」と同意を返して、アンデッド談義を切り上げ、彼が来た道へと進んでいく。

 こうして、唐突に訪れた彼と人間と初コンタクトは、極めて平和に終わったのであった。

 


 (・・・)

 また、別れも告げずに3人組と別れ、彼は変わらずにフラフラと彷徨い続けていた。

 どれだけ歩いたか、急に彼が立ち止まった。

 

 (なにか、匂いがする)

 少し進んだ廊下の曲がり角、ぽっかりと暗闇があるだけのように思えるが、ここまで曲がりなりに経験を積んできた彼は、漏れ出る気配を感じ取っていた。


 (なにか、くる)

 暗い曲がり角の向こうから、通路を覆うような大きな黒い塊が彼の前に現れた。

 それは通路と同じくらいの大きさがあり、左右に3本ずつカニのような、甲殻類のような足が生えていた。そして、黒い塊だと思ったのは全身を覆う体毛であった。

 顔の位置には大きな口があり、その周りにある8つの赤黒い点が彼を見つめていた。


 これだけ大きいと、お互い無視して廊下ですれ違うのは無理だろう。


 (とりあえず、殴ってみるか)

 彼は右腕を振り上げて、黒い塊に近づいていく。

 それを見ていた、黒い化物が歯を鳴らしながら、ゆっくり口を開けた。


 『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』

 黒い化物が叫ぶ。どんなポン骨でも気付ける程明確な、殺意が溢れ出ていた。


 (ブルブル震えるるるる)

 普通なら、この咆哮だけで戦意は砕けるだろうが、彼には関係ない。ただ殴るのみである。だが、黒い化物の腕は圧倒的なリーチを有しており、そして素早かった。彼の拳骨が身体に届く前に、彼はハサミに殴られ、弾け飛んだ。

 壁に叩きつけられ、崩れ落ちたが、骨が硬くなったおかげか、あちこちにヒビがはいった程度で済んだようであり、彼は立ち上がろうとする。


 そんな彼は、ハサミで挟みこまれ、持ち上げられた。

 彼の目の前には、歯並びの悪い、無数の歯が並んだ口が見える。

 

 (食われそうだ。あれ?なんでこんなこといなってるんだっけ?)

 叩きつけられた衝撃で、朧げな記憶は吹き飛び、まったく新しくなった今、生じた疑問と共に彼は黒い化け物の口の中に放り込まれた。


 『・・・』

 カチカチと、その場で満足そうにハサミを2、3度鳴らして、黒い化物は暗闇の奥の奥、先ほど彼が出会った三人の探索者が向かった先を見つめていた。


骨です。溶けません。

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