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徒然に骨生、あてもない共食いの日々  作者: 春うらら
1章:骨を拾う
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1-3.アンデッドということ

 砕かれた骨を見て満足したゴブリン達は、ニヤニヤとしながら、離れていく。ゴブリンの声がだんだんと遠くなっていき、そして再びダンジョンは静寂に包まれた。


 耳が痛くなるような静けさの中、砕かれた骨から音がし始めた。それは小さな音から始まって、だんだんと大きくなっていく。小さな骨の欠片が重なり合い、大きな破片へと変化していく。やがて肩の骨、腰の骨と残っていた大きな骨同士もくっつき始めた。

 アンデッド系の魔物の特徴として感覚が乏しいことは述べたが、もう一つ大きな特徴が存在する。彼らは生きることを終えた存在でありながら、死からも嫌われた存在である。生きているとも言えず、死ぬとも言えない存在、つまりは不死者なのだ。そのため、砕かれようが時間が経てば再生していくのである。”腐った食料とアンデッドには手を出すな”と、冒険者に言わしめるこの特徴のおかげで、彼もまた再生したのだ。


 だが、どんな傷、どんな攻撃からも再生出来るというわけではない。彼らは不死者であっても不死身ではない。再生出来ないぐらい細切れにされたり、浄化魔法と言われる力に晒された場合は彼らも消滅する。

一説には、『細切れにされたら魂が拠り所を無くすから』『聖なる力で魂が未練などこの世に束縛されている状態から解放されるから』なんていうのがあるが、真意は定かではない。


 再生を終え、彼は、何も無かったかのように再び骨を鳴らしてフラフラと歩き出した。


(なんで、寝てたんだろうか。寝てた?動けなかったんだっけ?)

意図していないが、ゴブリンが来た道をたどっていく。そして、開いたままの扉に衝突して止まる。どうやら先ほどのゴブリン達はこの扉を開いて出てきたようだ。

 骨はぶつかったことで方向を変え、そのまま開かれた部屋の中へと進んでいく。

 

 中は何もない部屋だった。なんの変哲もない部屋。廊下と同じように薄く床が緑色に光っている。何の警戒心も無しに彼は進む。一歩二歩三歩と、丁度部屋の真ん中に来た時だった。


 小さな石畳が凹み、彼がふらつく。


カタカタ、ガタガタと部屋の左右の壁から騒がしい音がし始める。何かが起動するような音、壁が崩れるような音、そしてボキボキボキと骨が鳴るもはやお馴染みにな音。どういう訳か、このダンジョンには大量の人骨があるようだ。

 あっという間に、壁から出てきたスケルトンの群れに囲まれていた。だいたい15体はいるだろうか、何もなかった部屋はスケルトンで満たされ、どれが彼か既に分からない状態となってしまった。彼が踏んだのはトラップの起動スイッチであり、この部屋はいわゆるモンスターハウスもといスケルトンハウスだったのだ。


「…」「…」「…」「…」「…」「…」「…」「…」「…」「…」

 この部屋のスケルトンも罠に引っかかったのが、命ある冒険者やモンスターだったなら襲い掛かっただろう。だが、敵となりそうな存在は目の前に存在しない。どこを見渡しても骨、骨、骨。

 思考する力がない彼らが何を考えているのかは分からないが、恐らく、骨だらけの状況に少し混乱しているようだった。目標を失った大量のスケルトンが部屋の中をウロつく。狭い部屋で、お互いにぶつかり合い、何かが折れる音、乾いた骨が落ちる音が、延々と部屋に響く。


 そんな音の中に、骨を砕く音が混じる。その音は途切れ途切れだが、部屋の中に響き続ける。


 スケルトンに仲間意識はない。まれにスケルトンを統率する上位種が存在した場合は、その統率下で連携を取ることになり、仲間のスケルトンが攻撃されたら、一斉にその攻撃した存在を敵として認識するのだが、この部屋にはそんな上位種は存在せず、それぞれがそれぞれの骨生を謳歌していたのだ。

 それは、つまり、隣のスケルトンが襲われていても全く関心を抱くことはなく、自分に拳骨が振り下ろされた時に初めて、彼を敵だと思えるということであった。


 (・・・おおお、たおれろ)

 また、一体のスケルトンが彼に倒され、食われ始める。要は、この部屋で、彼は一対一の戦いを延々と続けているだけだったのだ。

 

 (なにをしていたんだったか?)

 戦闘中も彼は自分がしていることを時折忘れた。敵対したスケルトンが持っていた剣で反撃され、右肩が欠けたり、頭蓋骨にひびが入ったりもした。だが、気を取り直して彼は拳骨を振るい続けた。

 これで3体目。骨を砕いて、相手を喰らう。折れた骨が生え、ヒビが塞がっていく。そして食べ終われば、次のスケルトンへと襲いかかる。


 恐怖も、憎しみも、喜びもなく、折り、折られ、砕き、砕かれ、時には倒れこむ。だが、しばらくすると再生し、立ち上がっては拳骨を叩きつける。


 一対一の殴り合いが延々と続いていく。流石のスケルトンも喰われてしまえば再生しない。少しずつ、スケルトンの数が減っていく。


 彼は止まらない。

 やっていることに目的なんてなく、ただ思い出しては喰らっていった。

……


 彼が8回目の再生を終えた時、部屋には彼と2体のスケルトンしか残っていなかった。何体ものスケルトンを倒しては喰らう中で、筋肉はないはずなのに、拳骨の速度、威力は確実に上がっていた。


 彼の重い一撃が、相手のスケルトンの左肩を砕き、次の一撃でアバラを砕く。

 何も言わぬまま、スケルトンが崩れる。初めは8、9発掛かっていたスケルトンが今では上手くいけば2、3発で倒せるようになっていた。


 崩れ落ちたスケルトンを食べることで片付けると、休むことなく、次のスケルトンに殴りかかる。一発で頭蓋骨の半分を砕くが、反撃の一撃をもらう。だが、剣があたった骨のアバラはパラパラと白い骨片を散らすだけで、折れも砕けもしなかった。骨もカルシウム摂取のおかげか、より硬くなっていた。


 次の一発でスケルトンの首が折れ、床に落下する。倒れた相手を残さず片付け、彼は、残りのスケルトンへと目を向けた。


 スケルトンが刀を振りあげる。ダンジョンの廊下は薄暗い緑光を称え、静かに、公平に、その戦いを見守っていた。


骨です。骨に味はありません

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