第四十五話
UPしました!
所々、私なりの解釈が書かれていますのでご勘弁を。
「松下様!申し訳ありません!」
と、スライディング土下座を俺はかましてみる。予定よりちょっとばかし遅れたというより、結局通常の到着時間と同じになってしまった。その理由としては、奇妙丸様に捕まったからだ。奇妙丸様に色々な事を聞かれたのだ。例えば、
ー近江はどういう所であるか?
ー近江には大きな池があるというが、それは本当か?それはどうだった?
などである。
まさに奇妙丸様は信長様の多くを占める特徴つまり大きな好奇心を持っていた。これにはかつて信長様の傅役の平手政秀様の苦労が偲ばれる。こういう時はどうしていたのだろうか。俺としては、この時代の事を教科書で習ったりあらゆる資料で知っていたりしていたが、所々齟齬があることが分かった。だから、奇妙丸様には、「百間は一見に如かず」という言葉を送っておいた。これが間違っているとは到底思えない。こういう所の興味から人々の暮らしを理解する事も必要だからだ。
さてと、目の前に師匠である松下様がいる。この十数年で老けたように見える。俺は織田家側だから苦労も苦労とは思わなかったけど、今川家側となると凄いものがあったんだなと思う。
「ねね様から聞いていますので大丈夫ですよ。藤吉郎。」
「このねねから伝えておきました。お前様。」
「そう言われるだけでも助かります。ねね、ありがとうな。さて、松下様予定より大分早くの来着ですが、何かあったので?」
「それなんだが…、近くの井伊谷でな今川家による暗殺疑惑があってな、松下は今川家に少しばかり信を置いて下さっていたのだが、これには周りに大きなどよめきが起こって流石にもう限界だと思った次第だ。それに戦に巻き込まれ消耗させられるのはごめんだから、夜逃げして来たったわい!わはは〜!」
あ、昔からそうだった。松下様は。なんか、ある特定の個人によく似ているなと思っていたけど、そういうことか。何となく分かった気がした。唯の小坊主であった俺を抜擢する度量の大きさと豪快さも含めて。こういう事も見習わなければな。
「よし、松下様が来られたのでその祝いとして宴をしよう!そして、人数は多いに越したことはないから、お市様の祝言祝いも兼ねて大きく行こう!呼べるだけ呼ぼう!」
「「「おー!」」」
何故宴を開くか?戦に行かれている信長様には大変申し訳ありませんが、織田家にはお市様に憧れていた男どもが大勢いたので、そのガス抜きにもこうするしかないのだ。戦に行っていない組は。
ま、裏事情は隅に置いといて、と言っても置いとける程俺は心は強くないが…、
「 は〜。」
俺は非常に焦っていた。このままでは置いていかれると。
というのも、信長様の美濃攻略直後しばらくしない内に、密かに足利義昭の使者が来たのがきっかけだった。その使者は美濃のかつての国主斎藤家の縁者つまり信長様のご正室の親戚であるということで、信長様は早速に対面した。その人物は誰でも知っているあの明智光秀である。それを件の天下布武の時に聞かされたのであるが、俺としてはもうこの時期に来たかという驚きとともに改めて戦国時代にいるんだというワクワク感でいっぱいになった。
それを機として、前々から計画されていたというより延期になっていた北伊勢の攻略を進めるべく動き出した。そして、今に至る。
北伊勢の攻略の織田家としての意義は全て将軍となるべき足利義昭の為にある。北伊勢で大きな影響を持っている神戸家は六角縁者である。その家を落とすことによって、間接的に浅井家の織田家の信を集め、且つ六角家を北伊勢に集中させておくことでお市様の安全を確保する目的がある。やがて、今信長様が出陣されている戦が終われば、後は六角家をどうにかするだけで京へ上洛する事が出来るという算段だ。
それを密談にてあの明智光秀が提案したという話ではないか。それに乗じ、彼は浅井家との繋ぎを確かにしたという。本当に有能過ぎる。そのおかげで、信長様は大変気に入ったようで織田家の一席に加わるようになった。
「それを知った時はやられたと思ったわ…。」
「どうかしたか?藤吉郎。」
「いや、何でもありません。ですが、最近ちょっと置いていかれているなと思いまして。」
「ん…、それはどうだかな。藤吉郎よ。人には人の役割というものがある。それを分別できないようでは上に立った時に苦労することになろう。よって、今何が大事で否かを見極めよ。」
ここで大切な事に気付かされるとは、俺はまだまだ未熟者だな。正直思い上がっていたかもしれん。あのお市様の祝言の異議申立ても周りを見ていなかった証左やな。しかし、ま、結果としては良かったかもしれないけど。
「はい、分かりました!これからもご教示の程宜しくお願いします!」
「うむ。」
次に決めなあかんのは、松下様の織田家における処遇についてだ。俺の希望としては信長様の直臣となって欲しいところだけど、松下様は絵に描いたような頑固一徹な所があるお方だからな。文では俺の家臣となると書かれいたし…。だが、とりあえず聞いてみよう。
「処遇に…」
「藤吉郎の下でしかつかんわ!これしか考えられん!藤吉郎の為に言っておるのだ!藤吉郎は直臣が少ないという訳でないか!それでは先を見ると何かと必要となろう。既に息子に家督は譲っておるから、儂は相談役でも良い。」
確かにそうやな。まあ、予想通りの返答が返ってきた。俺としてもそう考えていたからな。
「分かった!これからもよろしくお願いします!」
「任せよ!」
「よし!皆の者、今日はどんどん飲め!歌え!踊れ!お市様の幸せを願い乾杯!」
「「「乾杯!」」」
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そして、
約半年後ついにその時が来た。
「次期将軍の御成です。」
私自身もついにその時が来たと思いました。二重の意味で。
まあ、真也にはとりあえず頑張ってもらうしかありません。