間話 ねねの独り言
UPしました!
真也とねねの馴れ初めを書きます。
「お前さま、今日も朝帰りでしたね。何回言わしたら良いですか?」
「すまん!これは仕方ないことなんだ!今度から気をつけます!」
いつもながら土下座して許しを請おうとしている。許しがたいことだが、これにはつい許してしまう。
なぜ、私はこのような方と祝言を挙げることになったか?誰でも疑問に思うはず。私の夫は中村の百姓出身で、放浪の身から出世して武士になった男だ。それに対して、私は杉原の名門武家に産まれ、何の不自由もなく過ごしていた娘だ。出自からして天と地の差がある。
ここに祝言を挙げる経過を話そうと思う。
ある日、尾張で評判となっている解決屋というものが私の屋敷に来た時、はじめてあの人に会った。その時の印象としてはボロボロの服を着た笑顔が素敵なお兄さんという感じだった。その時の家の依頼は大蜂の退治だった。その依頼をこの場ではじめて聞いたのか、あの人はとても驚いていた。目が出るほどだった。だけど、あっという間に片付けてしまい、解決してしまった。これには私は胸を打たれた。格好良かった。だから、退治してくれたお礼に折据をあげた。
そしたら、
「ありがとうね。これで貴様も安心して庭に出られるね!」
と、とても良い笑顔で言われた。
胸が締め付けられるような感じになった。
私は幼いながらもこの人に惹かれているとわかった。もっとあの人の事を知りたかった。私はあらゆる理由をつけて、ある時はあの人の専売特許の読み聞かせを、またある時は玩具作りを頼み、会っていた。とても心地よい有意義な時間だった。その気持ちが両親には分かったのか、あの人に会うことに反対し始めた。しまいには、解決屋に頼むこともなくなった。それにはさすがに悲しかった。二月か三月ぐらい会わなくなった頃、親交のある浅野家からお誘いを受けた。
<お茶の稽古をしませんか。これからはお茶の時代が来るでしょう。 浅野>
このお誘いに両親は、教養を身につけてほしい、という気持ちがあったので、快く承諾してくれた。久々に外に出歩けると思い、とても嬉しかった。それはあの人に会わなくなってから私は家に囚われの身になり、一切外に触れられる機が減っていた。だからこそ、解放されて心が軽くなった。その気持ちのまま、侍女を連れずに行った。それはこの危ない尾張では考えられないことだった。久しぶりの外はとても新鮮で、これからを祝ってもらっている気がした。そして、ついに浅野家の屋敷に着いた。
「ごめんください!杉原定利が娘ねねにございます!」
「入っても良いですよ!」
浅野家から許可が出たので、敷居を跨いだ瞬間、懐かしい声が聞こえてきた。陽気な何となく落ち着く格好良い声が。その時、私でも驚いたけどその声の主へ走り出した。それほど私は会いたかったんだと思った。
「お会いしとうございました!私はお会いしとうございました!」
娘であることを忘れてしまうほど、はしたなく泣いてしまった。これには驚いたのか、あの人は困惑気味になっていた。そして、私は我に返った。途端恥ずかしくなり、逃げ出したくなった。その時、あの人は折据の花束を渡してくれた。その折据の不恰好さはなんとも言えない面白さがあったけど、心が熱くなった。ここまで私を思ってくれていたんだなと。例え、子どもに対する対応の一つだとしても、それだけでも嬉しかった。
「俺は折据では鳥の形しかできないから、花の形にするのはとても大変だったけど、貴様のためなら頑張った。」
「ありがとう!大好き!」
「いやいや、俺は学の無い百姓の出です!そんな恐れ多いことは!」
あの人はそんなこと言っていたけど、それでも良かった。その分私が支えていけば良い。あの人の閃きには驚かされることばかりだけど、少し抜けているところがあるから。それからは、お茶の稽古と称して浅野家に通うことになった。あの人のお話はとてもためになるお話で、ついつい引き込まれてしまう。時には、一国一城の主になるといったことも聞き、あり得ないと思いながらもあの人にはできるような気がした。
そんなある日、あの人は那古野の殿の下で勤めることとなった。これからは忙しくなるからと言って、二月に一回ぐらいしか会わなくなった。寂しかったが、夢のために頑張っている姿を想像するととても頼もしく思えた。あの人は私のことをどう思っているのか分からない。このままでは遠くに行ってしまう。後々のことを考えると不安になった。浅野様に相談しようと思った。
「浅野様、木下様が遠くに行ってしまうと思うと、私は心配なのです!どうすれば良いですか?両親は反対するはずです。」
「ん、どうしようか。杉原家は尾張では名門の家だ。それに似合う方のほうが良いのでは?」
「嫌です!あの人と一緒になりたいです!お願いします!」
その時、浅野様にはとても迷惑をかけたと思う。今でも反省している。だけど、私にとっては一大事であった。何としてもあの人と一緒になることを叶えたかった。このご時世親の意思に逆らうなんて、いけない事だと分かっている。それがどれだけ不敬かも知っていた。私の頭の中ではあの人はこれからの織田家の中で最も大きくなると確信していた。大きくなるにつれて、周りの環境も必ず変化する。その前に一緒になりたかった。あの人の事を一番知っているのは私だから。
織田家が美濃攻めに忙しいある日、浅野様は清洲の殿に呼ばれた。いつものように遊びに来ている時だった。それは何だろうかと思って聞いたら、跡継ぎのことだった。浅野家は長子に恵まれず、未来は家はどうなるか分からなかったそうだ。その相談をしに行くということだった。その時、まさか私にとって幸せになるとは思ってもいなかった。その相談があんなことになるって。
その日は家に帰って部屋に行こうとした時、両親に呼ばれた。何だろうかと、訝しながらも両親の前に行った。
「ねねに言うことがある。ねねはこの父と母に隠れて、あの男に会っていたな。これは浅野様から聞いた。そこの所はどうだ?」
「会っていました!それがどうかしましたか?」
バコッ
「なぜ、ねねはわしらのことの事を聞かない!それだけはやめてほしかった。だが、殿からの命だ。ねねとややは浅野家の養女となって、ややは安井家の息子長吉と、そしてねねは木下藤吉郎とかいう者と祝言を挙げることになった。だが、祝言には行かないからな!わしとしては納得はした。頑張ってこい!」
え!こんなことあっても良いの。一瞬頭が真っ白になったけど、嬉しさをどう現して良いか分からなくなった。あの人ー木下様と一緒になれるなんて、夢みたいだ。
「ありがとうございます!絶対幸せになります!」
それから早六年。祝言を挙げる費用やその仲介人がなかなか集まらず、小さな祝言になったけど、あの人は嬉しそうだった。後から聞いた話だけど、あの浅野家に呼んだのは、私のことが好きだったからと言っていた。それは嬉しかった。相変わらず、忙しそうに殿のために働いている。周りからはあまりの出世の速さに妬み嫉みがあの人に降りかかっている。あの人もそれに気づいているが、鈍感なふりをしていることを私は知っている。あの人は苦しい時こそ笑うから。
少し美化し過ぎているところがありますが、それほど好きだということですね。作者である私は書いてて、リア充爆発しろとか思ったり思わなかったりしましたが…。
今日も読んで頂きありがとうございます!