第三十話
二つ目です!
なんとか、松平家とはお互いに納得した上で同盟を結んだ。そして、来年松平家の嫡男信康と織田家の長女五徳姫の祝言を挙げるらしい。これは俺には関係ない。俺も庭先で掃除するふりをして聞いていたが、別には怒られなかった。交渉要員に駆り出されなくて本当に良かった!俺にはまだそんな器量は持ち合わせていない。絶対無理!
ある日、
「今から城を二ノ宮山に拠点を移す。以上!」
と言って、信長様は評定場から出て行った。相変も変わらず言葉足らずだ。評定を行なう場はいつもなら障子で仕切られているが、今日は特別に末端の武士でも参加できるように開放してあった。その最中に突然言われたものだから、他の人はかなり混乱していた。また、重臣の柴田様や丹羽様は殿の後ろをついて行った。おそらく意見を言うためであろう。信長様もその行動に対して咎めないのは予想されていたことだからだ。
「ついに、建てるのか。」
と小言で言っているのが聞こえなくて幸いだが、与力の浅野長吉殿は困った顔になっている。
「どうしました?浅野殿。困っているようなので、一つ助言を言います。なぜ、清洲から美濃に近い所に移ろうとしているかを考えたら、最も重要なことが見えてきますよ。」
「そうなのだが、長年尾張の中心となった清洲を捨てるなんて、納得はできません。木下殿はわかっているのですか?」
そりゃ、わかってはいるよ。だけど、そんな簡単に教えては彼の身にならないから、あえて答えを促している。そして、納得できるできないの問題ではなくて、重要なものがあるからだ。これは俺の調略もしやすくなる。
最近、美濃三人衆に手を出し始めた。最初は門前払いだったけど、斎藤飛騨の龍興の独占に相当腹が立っているようで、挨拶程度はするようになった。その筆頭は安藤様だ。確か
、稲葉山城乗っ取り事件の首謀者だな。それに巻き込まれるように共謀者となったのがTさん。でも味方になることは拒否されるが。面会の調整をしてくれている丹羽様には感謝しかない。
それから十日ほど経ち、当然のごとく、信長様は、
「二ノ宮山ではなく、小牧山に移るとする。」
と言った途端周りの重臣の皆さんは、
「それで良い!」
と言ったような安堵顔になり、賛成多数で移ることとなった。
「浅野殿、分かりましたか?この間俺が言った問いの趣旨を。」
「分かりました。この十日間必死に考えました。一つは美濃に攻めやすくするため。一つは美濃の監視がしやすくなるため。ですか?」
んー、ちょっと惜しいな。もうひねりが欲しい。
「一つ目と二つ目は同じようなものかな。それと見せつけるためでもある。最も重要なことがあって、これから美濃を取るとしたら領地が増えることになります。その上で、問題となるのが領地分配です。今、織田家の領地は土着している勢力が多く、下手に動かせません。だからこそ、新たな地に行くことで美濃を取った後でも素早く分配ができるようになります。そして、同じ所に住むことで家臣団の結束がより強くなります。分かりました?」
コク
浅野殿は納得したもののめっちゃ驚いている。この間まで農民であった者がこんな事を考えていたとは思いもせんかったんだろう。ふと見渡すと私が語っている時聞いていたのだろう、いつもの面子が揃っていた。前田様と佐々様と柴田様と森様だ。そして、なぜか丹羽様までいる。各々の方は俺の言葉に妙に納得している。
「すみません。出しゃばった真似をしてしまって。俺が城を移すとしたら、何を目的として考えるかと思って。」
「すごいな!木下!よくここまで殿の心を読もうとした!多分、そうであろう。」
「いーや、そうだ。」
突然、後ろに信長様が現れた。心の臓にとても悪いんでやめてもらっても良いですか?そういうサプライズ的なもの。
「この際、言わせてもらおう。小牧山での普請は丹羽長秀に任せることにする。」
と始まった小牧山城の建設だが、すごくヒートアップしている。なぜかというと、石垣を積むのを競争しているからだ。ここに俺も参加しているのだが、周りの皆さんも俺の手口を利用しているようで、物凄い勢いで作られている。この普請にはじめて俺が考案した三点組が導入され、活躍している。その調達担当が俺の弟小一郎だ。やったなと言ったら、スルーされた。悲しい。川並衆が美濃へついた時源七と別れてから素っ気なくなっている。
三点組といえば加藤のおっさんだが、幼い子どもと妻を残し、今年病で亡くなった。あんな健康体であったおっさんがなくなったと聞いた時はすごく悲しんだ。俺も看病の助けをしたんだけど、無理だった。これも天命なのかな。
「おーい、お前たち!俺の組となったからにはパーっとやってしまおう!そこの人、何年か前の清洲普請にもおったよな?」
「そうです!」
「だったらわかるはずだ!終わった後のアレを!」
思い出したようだ。その人に周りの人が次々と聞いている。そしたら、急にやる気を出し始めた。
それかというもの、あれよあれよのうちに立派な城が出来上がった。残念ながら、俺の組は三番となってしまい、褒美は少なく、前回のように豪華三昧はできなかったが、酒を飲み、お別れをした。中には家臣になりたいと言う者が多発した。が、三人は雇ったが他は惜しみながらも断った。その中に、堀尾吉晴がいたので選んだ。そして、信長様に許可を得て付属されることになった。
今回の小牧山城の建設で思ったのだが、猫車いるなと思った。どうするかはまた相談しよう。
その翌年、新年早々小牧山城に移った。中には反抗する者もいたが、屋敷諸ども信長様に焼かれたようだ。伝聞でしかないのは、俺は引っ越しに参加しておらず、旅に出ていた。俺は領地もないのでフリーだ。ねねにはまた苦労をかけた。贈り物でも調達しよう。
真也、動きます!