第二十九話
三話連投します!
よし、首尾は上々だ。
美濃国の中濃の木曽川沿いの城主にはとりあえずは唾をつけた。大半は拒否が多かったけど、さすがは尾張に接しているだけあって、清洲の繁栄には興味がある様だ。だから、別れ際に俺は、
「今、こちらに移るのは難しいと俺は重々分かっています。必ずや、この証文に書いてある本領安堵は約束しますので、何卒早めによろしくお願いします。きっと、俺の主君であれば、今の尾張よりも美濃の繁栄を確かなものにしてくれると思います。そうなれば、美濃は日ノ本一の繁栄と呼ばれることとなりましょう。きっとそうです。」
と言った。
そうしたら、目を輝かせる者が数人いたな。尾張よりもと言われたら嬉しくなるものかな。その中には、坪内氏もあった。史実において、木下藤吉郎が調略で落とした相手だ。やっぱり、歴史の大いなる力が働いているようだ。
蜂須賀様の方は、俺の思った通り私利私欲が強いお方だったようなので、利益を独占しようとしたらしい。ただ、斎藤飛騨にたどり着くのが大変だったらしいが、そこは川並衆の人脈だ。相当頑張った。それを聞いた時、とても申し訳無く思ったので、俺は少ないながらもお金をあげた。
そうそう、もうすぐで年越しだ。この旅は一旦終わりにしなければならない。家に帰る必要がある。ねね、元気にしているかな?
もうすぐ清洲城下だ。なんとも言えない懐かしさに満ち溢れている。まずは殿に報告だ。
「ハゲネズミ、よくやった!」
「ありがとうございます!些か俺は調子に乗り過ぎたようで、長島の件は申し訳ありません!木曽川沿いの城主は反応としては良好で、後一押しがあれば、こちらになびく者もおられます。坪内氏が最有力です!」
「うむ、わかった。」
「引き続き、この旅を続けていきます。」
「それは二月か三月は待て。急ぎすぎるな。それより、ねねの親戚の浅野長吉を与力とする。」
「はい、分かりました!ありがとうございます!」
なんかあるんかな?
待って欲しい要件があるような感じだ。ん〜?なんだろう?少しは予想はついている。
人が増えて嬉しいわ!
ま、今日の所はまあいいや!
ねねに顔を見せて安心させる方が先決だ。
「ねね、ただいま!」
「おかえりなさい!お勤めご苦労様です。」
帰った家に人がいるってめっちゃ良いものだね。孤独感に苛まれなくて、寂しい思いをすることもない。まずは着替えよう。
「清洲でなんか変わったことあった?」
「そう言えば、前田様がひっきりなしにうちへ通っていましたよ。心配そうに。それに、三河との交渉がうまくいきそうで、来月か再来月かになるそうよ。」
「わかった!ありがとう!」
なんでこのことを知っているのだろうか。ねねの行動力には脱帽だ。おそらくは帰蝶様とも仲良くなっているのだろう。それに俺は織田家一(自称)の出世頭だ。妬まれることもある。だからこそ、動いているに違いない。俺には出来過ぎた嫁さんだ。
「おーい、戻ったか?木下よ!一緒に年越しのお祝いと帰還祝いをしようぜ!仲間も呼んである!」
前田様だ。
「ねね、帰ってきてなんだけど、ちょっと行ってくるわ!」
「はい。」
この返事、ちょっと怒っているっぽいな。お土産でも買って行こうかな。
「皆様、お招き頂きありがとうございます!俺は木下藤吉郎秀吉といいます。今後ともよろしくお願いします!」
「そんな肩苦しくなるな!知己の仲間だから。」
前田様にとっては知り合いだとしても、俺には恐れ多い。しかし、人の心を掴むのも大事だ。
「それでは、お近付きの印に、俺の猿踊りを披露してしんぜよう!ウキー!」
「「わはは〜」」
笑いはとれたようだ。これはどこに行っても受けるが、それは場をわきまえる必要がある。ここでは大成功だ。
「面白かったぞ!わしの名は佐々内蔵助成政だ。」
この方が史実であの猿に従うものかと反抗した佐々成政か。そして、疑惑のさらさら越えを決行した。見た感じ気骨な武士という印象を受けるが、少し神経質なところも見られる。服装はきちんとしており、乱れていないからだ。そりゃ、俺みたいな人間は苦手だな。俺の今の格好、まるで百姓のようだもん。ボロボロだ。だから、反物屋に行って買わんとあかんけど。
「木下、久しぶりだな!」
「あん時はありがとな!」
「それはそれは、森様と柴田様ではありませんか。お久しぶりです。森様、この度はありがとうございました。大変助かりました!」
「それは良いことだ!しかし、今までどこにほっつき歩いとった?」
「それは言えません!森様もご存知ではないでしょうか?それよりもお酒飲みましょう!」
「それもそうだな、あはは〜!」
こんな機密、言えるわけなかろうよ!耳が聡い者なら知っているかもしれんけど、森様の場合は元は美濃出身だから、情報は得ているはずだ。意地悪な質問だ。
「柴田様、奥方様は息災ですか?前にもいいましたが、熱がある時は首辺りと脇を冷やすと、すぐ熱が下がります。柴田様も倒れられては奥方様も心配すると思いますので、ご無理なさらず。」
「わかったわ!本当に助かる!どこでこの知識を身につけた?」
前世知識だとは言えないな。この知識にしたって、この時代したら最先端だもんな。こんなん広げてしまったら、衝撃どころではない。特に、傷の治療法だ。金瘡は馬の糞を水に溶かしてその傷口にぶっかけるというものだけど、それは傷口に塩を塗るものと同じだ。だから、俺は一人の人間を死なせたくないから織田家の中で広めようと思う。
「これは南蛮の知識です。知り合いの商人が教えてくれました。」
「そうか。その商人にも言っといてくれ!」
「柴田様、分かりました!そう言えば、同盟も近いとか。」
「そうだな。しかし、村井様は少し手間取っているようだから、まだ二月はかかるのではというのがわしの予想だ。」
やっぱ、手間取っているのか…。のちの徳川家康は侮れないな。交渉がうまいのだろう。話を聞くと、信長様としては臣従の同盟を結びたいのだが、相手は否としているようだから、なかなか進まないらしい。それほど、信長様は家康の才覚に気づいているということかな。
「そうですか。ありがとうございます!」
信長様が二月か三月は待てと言ったのは、そういうことか。交渉要員として駆り出される時を想定せなあかんな。
俺としては、西美濃三人衆に少し接触しておきたいところなんだけど。城が出来上がる前に。
いつも読んで頂きありがとうございます!
真也、楽しんでいます!