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ルデア家ーーーつまり、私の家は、星界の貴族であり、「星界1の奇人家」と呼ばれていた。
それもそのはず、普通の貴族がやるようなお茶会や舞踏会を殆ど行うことなく、各々のやりたいことを自由にやっているから。
なぜそれが咎められないかというと、ルデア家の特質にあるのだ。
それが、「閃き」。
「閃き?ああ、そういや王宮で言ってたな」
「王宮閃き係…でしたっけ」
「はい!ルデア家は皆この髪…深い藍色に白い点が散りばめられた髪を持っています。これは閃きの星と呼ばれていて、多ければ多いほど閃きがあると言われています。子供が15になると親から受け継がれるんですよ!かっこいいでしょう!」
「その閃きとやらはどういうものなんだ?」
「その名の通り、閃くんですよ!」
どどーん!とドヤ顔をかましてみたら、魔王さんは「意味がわからん!」と大笑い、シロさんはいかにも疑ってますよオーラがびんびんな顔をしていた。失礼な!これでもちゃんとルデアの名に恥じない稀代の大発明家だというのに!…自分で言っても恥ずかしくない!本当にだ!
「例えば?」
「ふふん。最近だと、球形飛行機だとか、氷魔法使用の簡易冷却機なんてのは私の閃きです!」
「!」
「なるほどそれは凄いな!人間には出来なかった、空を飛ぶことを可能にした機械と庶民向けの冷却機か!冷却機の普及で随分と食の病が減ったと聞いた。フランは偉い発明家だな!」
「そうでしょうそうでしょう!もっと褒めていいんです!」
「…いや、話を続けてください。なんで首をはねられそうになっていたのかとか」
「もしや、話巻いた方いいです?」
「ええ、できるもんなら」
しょうがない。シロさんが言うなら巻きましょう。
ルデア家の者は代々この閃きを使って、王宮の開発部に所属していました。私の母も祖父も皆です。
「ルデアの閃きは国民を豊かにする為に」の家訓に恥じぬよう、毎日必死に開発を進めていました。
王宮ですれ違う他の貴族や王子様(笑)や騎士様(笑)に「貴族らしからぬ」と馬鹿にされながらも、楽しいので日々頑張っていたんです。ドレスより作業着の方動きやすいし!
そんなある日、王様に呼ばれました。なんだなんだと慌てて一張羅に着替えて王宮に行きましたよ。そしたら何だったと思います?いきなり一番広い部屋に呼ばれて、入ったら王様も有名な貴族も勢ぞろいしててですよ?
「フランカ・ルデア。お主を投獄とする」
「…へ?」
びっくりしました。入って一言目が牢屋宣告て。ええーってなりました。
「大した閃きもせず、遊び回っているそうではないか。役にたたん玩具ばかり作っていると聞く」
「恐れながら心当たりがありません。あと玩具でなく国民の役に立つものです」
「国民などどうでもよい。やっと星界に異界からの姫が現れたのだぞ、今こそ魔界を攻める時なのだ!」
「ええ…。異界からの姫が来たり時星界と魔界はひとつに統一されるって言い伝えまだ信じてるんですか。そんなろくでもないもの…」
そこまで言った時、横目で紫髪の男性とピンク髪の女性がこちらを睨みつけているのを感じました。うわめちゃくちゃ悪口言われてた人だあ。たまにピンクさんの方はガチ睨みしてくるんだよなあ。今みたいに。
というか球形飛行機とか簡易冷却機とか貴族も使ってるんじゃないの。確かに戦争には向かないけど。…いや別に国民さんがちゃんと使ってるならいいんだけどさ!うん!
「しかし安心せよ。王は慈悲を与える者だ」
「はあ、慈悲とは」
「兵器を作れ。魔族を倒せる殺傷能力の高いものをだ。魔界と全面戦争をするのだぞ!ルデア家の閃きをもってすればーーー」
「嫌です」
嫌です。その一言は急激に静まり返った王宮に嫌に染み渡った。えええ…こんなくだらない話されるくらいなら研究室に戻って冷却機の改良したかったんだけどなあ。
10秒後、私の即座な返答から意識を取り戻したとみえる王様や貴族は、どんどん大声で私を罵倒してきた。えええ、何これ。意味わからんです。
聞かねば投獄だーーーはあ、牢屋の中でも閃きはできますから問題ありません。
より高い給料をくれてやるぞーーーいりません。そのお金国民に回して。
ルデア家は今までも火薬や鉄砲など兵器を開発してきたではないか、何を今更ーーーそんなくだらない話聞きませんよ!
「祖父が作った火薬は鉱石の掘り出しで腰を痛めた友人のために少しでも効率がよくなるように閃いたものです。母の作った鉄砲は力の弱い女性の護身用。ルデア家は国民のために閃きをするんですよ。それを軍事に転用しないでもらいたいです」
「やかましい!素直に言う事を聞けばいいものを!」
「…王宮の人達全体的に落ちぶれました?酷すぎません?」
「なんだと!?」
「大体魔界と星界って確か不可侵条約結んでますよね?それをわざわざ」
「黙れ!今こそ王族貴族が更なる富を手に入れる好機なのだ!それを小娘が」
「ルデアは!」
「ルデアは、国民の為に閃きをするんです。王様貴族様の懐具合なんて、そんなくだらないことには力を使いませんよ!!」
そろそろ丁寧口調も疲れてきたし、お金ばっかりに執着するようになった王族なんて興味もない。
もう帰っちゃおうと立ち上がれば、わなわなと口を震わせていた王様が無理やり口角をあげて。
「……これは立派な侮辱罪だ!衛兵!こやつの首をかききってしまえ!」
「っ!?王よ!ルデア家の者を殺すのはまだ惜しいかと!」
「構わぬ、頭さえ潰さねば情報も取り出せよう。できぬならこやつの母を引っ張ってくるのみ…!」
「嘘でしょ待って馬鹿なの!?」
逃げ出そうとしたとき、既に衛兵に取り囲まれていた。
全員が剣を抜いていて、貴族はざわめきながら目を隠したりむしろにやついてこちらを見てきたり。
ああお母さん、お父さん、この国も私ももう駄目です。ちくしょう、簡易冷却機を応用した冷風送機を作りたかった。
「やれ!」という王様の声と声と共に、周りを取り囲む衛兵が一斉に剣を振り上げて。反射のように目を閉じたら剣を振り下ろす音がしてーーー。
次の瞬間、剣は全て床に落ちていた。
「はじめてお目にかかるな、星界の王よ!なるほど、今回の代は随分と頭が悪そうだ」
「ま、まさか…魔王…レナード…!?」
「なんだ、名前くらいは知っていたか。シロウ、どうだ?」
「愚問ですよレナード様。傷ひとつつける訳が無いでしょう」
目を開けると、私はかっこいい黒髪三白眼さんに支えられ、衛兵は全員倒れていた。
扉を向くと、オレンジ色の髪をたなびかせ、煌めく水晶の2対の角をきらめかせ、アイスブルーの瞳を持つまさしくイケメンな人がいて。わあ!助けてくれたお二方顔面偏差値たっか!
「話はまああらかた聞いた。異界からの姫が来たからこちらを攻めるそうだな」
「そ、それは」
「いや気にしなくていいぞ。こちらも迎え撃つのみだからな!そうだ、ついでに宣戦布告でもしておこうか?」
「これは、違うのだ、魔王よ」
「そう焦らずとも分かっておるよ。本当はせめてでも奇襲を仕掛けたかったのだろう?今のところそちらに勝ち目はあまりないからな」
「…っ!」
「さて、こちらもその言い伝えが実現しそうだ。異界からの娘がいれば世界統一のために、不可侵条約を破り攻めてもいいのだな?」
それは事実上、真っ向からの宣戦布告だった。成り行きを呆然と見ていた私はそこで気付く。あれ?この流れもしや?
そうして、彼はアイスブルーの目を細めてにんまりとして、私を見たあとこう言ったのだ。
「よかろう!その娘、魔王レナードがいただこう!」