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「っぷあ、いき、いき、できなっ」
「あ、忘れていた。すまないなフラン!シロウ、適当にやってやってくれ」
「適当にって…はあ。分かりましたよ。ルデアさん、こちらを向いてください」
物凄い速さで空を飛ぶドラゴンさん。最初は楽しかったけど、途中から風が強くて息ができなくなってきた。自慢の深い藍色の髪が揺れる。
ぷあっぷあっと必死に息をしようとしていたら、私を支えるように後ろに座っていた三白眼さんの呆れた声が聞こえてきて。
頑張って後ろを振り向いたら、ぐいっと胸元に頭を押し付けられ、そしたら瞬間、すうっと息が楽になった。
「…い、いき、できる!」
「魔法で俺の周りに風を通さないバリアを作りました。…全く、人間はか弱いもんですね」
「ありがとう三白眼さん!空気美味しい!空気に含まれてるだろう余計な物質も美味しい!」
「…三白眼さんじゃなく、シロウです」
「シロ?」
「シロウ」
「シロ…全身真っ黒なのに…シロ…ぶふー!!」
「レナード様、こいつ落としていいですか」
「おう、駄目だ!」
「快活に笑わないでください」
ばっさばっさと翼がはためきながら、凄まじい速度で進んでいく。横目でちらちらと外を見ていたら、とんでもなく大きなお城が見えてきた。あれが魔王さんのお城かな、王宮の何倍も大きいなあなんて思っていたら、にわかにシロさんの私を支える力が強くなって。
え、何、不穏!?
「よし!着地するぞ!」
「待ってください魔王さん!ドラゴンさん全然減速してませんけども!!」
「当たり前だろう?する必要が無いからな」
「え?え!?」
「…俺に捕まっててください。出来るだけ全力で」
「シロさんなんでそんな苦虫を噛み潰したような」
「行くぞっ、今だー!!」
「舌噛まないように気をつけてください」
え。
そう言う前に、ふわりと体が浮いた。
隣に見えるのはドラゴンさん。今まで乗っていたドラゴンさん。この内臓がふわっとする感じ。急に強くなった気がする風圧。体に遅れてやってくる血が全部頭に行くような感覚。
全部足して分かった。
「お、落ちてるー!」
「飛び降りてるんですよ」
「…!閃いた!このスリル感を何かアトラクションに応用できそうな!そう、名付けてジェットコ」
「結界を抜けます、速度があがりますよ」
「新しいアトラクションの体験と思えばーーーあっ無理想像以上に速いーーーー!?」
「(放り出したい)」
****
「…と、いうことで。改めて自己紹介しよう。我は魔王レナード!今までフランが居た星界と対をなす魔界を統べる王だ」
「魔王の従属、シロウ。北の土地を統べる者」
「…?はにかひいまひは?」
「レナード様、こいつ飯に夢中で話聞いてません」
「はっはっは!胆力があるなあ。そらもっと食え!」
「んっぐ、…ありがとうございます!最近はまともに食べてなかったので、ほんと、美味しくて」
「ちょっと、食べながら話さないでくださいよ…」
私はダイナミック飛び降りからシロさんの力を借りて助かり、楽しかったけど内臓がふわっとする感覚に負けて吐きそうな私を見て爆笑する魔王さんに連れられてお城に入った。シロさんその微妙な目をやめて!泣いちゃう!
綺麗な装飾品に圧倒されながら大きなホールに案内されると、魔王さんがぱちんと指ぱっちんをした。
いきなりどうしたんだろうと思っていたら、途端にテーブルが飛んできて、椅子が飛んできて、料理があらわれて。
「食べていいぞ。ここでのもてなしはまず飯と決まっているんだ」
「……ありがとうございます魔王さん!」
「ははは!そんなに食べたそうな目をしていたらこちらもやらん訳にはいかんだろう!どうだシロウ、お前も」
「いえ、大丈夫です」
と、そんなこんなでもりもりとご飯を食べているのだ。うひゃあ…こんな高級なお肉久しぶりだぁ…!
もぎゅもぎゅと食べ進めていたら、「さて、」という魔王さんの声。
「フラン、そろそろお前のことも話して欲しいんだがな?」
「…面白くないですよ?っていうか魔王さん話は聞いたーって入ってきたじゃないですか!」
「いやあ遠隔音声受信は音声が荒くてな、本当に粗方しか聞けていないのだ。そして…面白くない訳がないだろう!普通の人間はな」
王宮で、ましてや王族の目の前で首をはねられかけるなんてない!
…まあ、そうだよなあ。
私は令嬢らしく、きゅっと紙ナプキンで口元を拭いてから魔王さんに向き直った。
少し、私の話をしよう。