第零話 テーブルの穴はテーブルクロスで誤魔化した
「それで、お前はいったい何なんだ?」
皆が寝静まるというには少々早いかもしれないが、日付は変わった深夜。
篠崎家のリビングには家長である俺こと篠崎拓馬と、テーブルの上でスズランテープによって拘束された緑のクマのぬいぐるみが向かい合っていた。
「何もしないペロ、本当に何もしないペロ。だからこの縛ってるのを解いて欲しいペロ」
「ダメだ、UMA」
「じゃあせめて普通に縛って欲しいペロ、この変な縛り方だと妙な気分になるペロ!」
「そりゃ、ママが一時期ハマってた亀甲・・・・なんでもない」
危ない危ない、あれは俺だけが知ってればいいこと。
というか、他人になんぞ教えてたまるか。
「兎に角、お前は何なんだよ? 人語を理解して話す動物なんて聞いたことないし、ロボットでもなさそうだし」
「も、黙秘するペロ」
ダンッ!!
「おっといけない、つい手が滑って裁ちばさみを落としてしまったよ」
「嘘だペロ! ドロップに向けて思いっきり突き立てたペロ!! よけなきゃ死んでたペロ!!!」
大体、みどりの部屋に勝手に入る処から気に食わん。
確かに、みどりは親の俺から見ても可愛くてスタイルもよく活発で優しくて(中略)美の女神といえばみどりの名が挙がるような子で、みどりを標的にするのは一万歩譲って間違ってないとしても、犯罪は許されることではない。
たとえ人の身でなくとも、思考が人のものと同じならば罪は罪だ。
「結論、悪・即・斬!!」
ダンッ!!
「止めるペロ! 糸切りバサミはテーブルに突き立てる物じゃないペロ!!」
「ちっ、縛ってるのによく躱す奴だ」
だが、次は外さん。
俺はテーブルに置いてあった食器籠からフォークを手に取り、よーく狙いを付けて振りかぶる。
「わ、わかったペロ、話すペロ! だからそのフォークを下すペロ!!」
ダンッ!!
下せと言われたフォークを、奴の股の間に突き立てるようにして下してやった。
「分かれば良いんだ。じゃあ、話してもらうぞ」
クマのぬいぐるみよ、覚えておけ、パパは家族の為なら何でも出来るということを。