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4 宴

  あれ? まだ何かあるっぽい。残念。待機していたのだろう。「蜂の者」と呼ばれた人物はすぐに部屋に入ってきた。

  蜂を思わせる仮面と衣装を見にまとい、手には槍を構えている。


  ヒュンッ


  何かを語ることなく、見事な槍裁きを披露する。風を切る音が気持ち良い。

  しかし、すごいな。槍が生き物のように順応無尽にふるわれる。その度風が吹き、散らされた花弁の残りが宙を舞う。なんとも見事な演舞だ。


  一通り舞い終えたのか、蜂の者は静かに居住まいを正し、入った時同様、静かにこの場を後にした。いや、いいものを見た。あれはお金払っても文句はないレベルだ。


  格式ばったものは今ので終わったらしく、みんな(特に子供)がまた思い思いにくつろいだり、世間話を始める。俺も母さんからおっぱいをもらって満足だ。ここでは特に隠すことなくおっぱいをあげている。外ではしないかもしれないし、身内だけだからなのかは分からないが。


「皆様、お食事でございます」


  使用人がそう言って次々に料理を運んでくる。どれも大皿に山のように盛られ、圧巻だ。よく見ると、母さんといつもいた部屋の絨毯や枕カバーなどに刺繍されている模様が皿の料理にも施されている。「蜂の者」の衣服にもあったような気がする。きっとこの模様には何か意味があるのだろう。いつもよりも遅い時間なので、皆腹ペコらしく、すぐに料理へと手を伸ばしていく。


「シュルッカ、お前これで子供何人目だ?」


  父さんの側に、いつの間にか男性陣がたまりだした。今口を開いたのは、父さんと同じく褐色の肌に、やや癖のある金髪をした、金の瞳の男だ。体つきは逞しい。顔つきがどこか父さんと似ているから、兄弟なのかもしれない。


「十二人目だな。いや、我ながら子沢山で嬉しいよ」


  多いなぁ、俺の兄弟。でも、ここには十二人も子供はいない。他の兄弟はどこへ行った。


「奥さんの産後の調子も良さそうだし、良いことだ。それにしても、嫁や婿に行った子はともかくとして、残っている子らの嫁や婿探しが大変だな。第三夫人の下の娘達ももう年頃だが、決めたか?」


  どうやらこの場にいない者は嫁なり婿となっていないらしい。

  そんなことを思っていると、今度は褐色の肌に、紫がかった癖のない銀髪の男が尋ねる。目は赤みがかった茶色で、父さんやもう一人の男に比べ、やや細身の体つきだ。と言っても、モヤシなどではなく、筋肉で引き締まっている。腕まくりした服の下から見える腕が見事なことで。


「バフメンの所の倅と一度顔合わせをする予定だよ。兄さん達こそ、子供の嫁や婿の目星はついているのかい?」


  やはりこの二人もハイパー童顔だったか。どちらもどことなく父さんと似た顔立ちだったから、なんとなく予想はしてたけど。それにしても、二十代に見えないわ。兄二人がギリギリで二十歳かな? って思う程度だ。チャイニーズコスした高専生と言っても納得出来る。


「お前に心配されるまでもない。腐るほど縁談の話が舞い込んできて一苦労しているくらいだ」


  金髪の方の兄の言葉に、父さんと銀髪の兄、それから青みがかった黒髪の青年と、真っ黒な黒髪の少年二人が笑いながら同意する。この三人も父さんの兄弟なのかな?


「それは大変だ。クリーナのような稀なる美人を娘に持つと大変ですね。伯父上、あまり縁談の話が面倒な様でしたら俺に下さっても良いのですよ?」


  そう言って、猫目の黒髪の少年が嘯けば、その場はどっと湧いた。


「あはは! それはいい! アズリサ兄さん、どうです? 俺の長男のセッタンは? 既に嫁も二人いるし、子供もいる。何より良い男ですよ。それがダメなら次男のケルベルでもいい。こっちも嫁も子供もいて、任せても安心ですよ」


  おっと、黒髪の兄弟は俺の兄だったか。しかも嫁も子供もいるなんて…。早いなぁ。


「はは! 確かに良い話だ。先約があるから、そちらとの顔合わせ次第でそっちに話を持っていく。嫁さん達が実家から帰って来たらちゃんと伝えておけよ」


「それは勿論」


  あれ? なんか新たなお嫁さんが俺の兄さんのところに来るようなフラグが立った気がするが、気のせいか?


  それから男性陣の会話を聞いていると、男性陣の内訳は以下であることが判明。

  まず父さん。父さんは第一夫人の三兄弟の末っ子で、上から金髪の長男アズリサ(三十七歳)、次男カルベル(三十五歳)、青みがかった黒髪の青年が第二夫人の六人兄弟の長男ウルダン(二十五歳。こっちは見た目通りで安心した)。ウルダン伯父さんは、彼以外女の兄弟しかいなかったため苦労したらしい。女五人に男一人。かなりしょっぱそうな青春を送ったと見られる。伯父さんに幸あれ。

  次に俺の異母兄弟。彼らはあの怜悧な印象の強い第一夫人の子で、長男セッタン(十七歳)に、次男ケルベル(十五歳)の二人だけらしい。二人とも、父さんから任された仕事をこなしつつ、この家でお嫁さんと共に暮らしているようだ。ちなみに、お嫁さんは同じ家から貰った姉妹だそうで、今は向こうの親が病気をしたため帰省中とのこと。近々嫁さん一家をこちらに呼ぶ予定らしい。


  うん。俺、家族の名前本気で覚えきれないかもしれない。嫁や婿に行った身内が戻って来たらもうアウトだ。いや、まだこっちは赤ん坊だから名前を呼ぶことは出来ないけど。


  お坊様といつの間にか部屋に戻っていた「蜂の者(若いお坊様らしい)」と談話を楽しんでいるのが俺のお爺さまで、爺ちゃんがテックトゥ(五十歳)、婆ちゃんがファルル(五十五歳)だそうだ。どちらも快活そうで安心した。俺の婆ちゃんは他にもおり、ウルダン伯父さんの母親である第二夫人のエイベリカさん(四十七歳)がいる。本当はもう一人スーニャと言う第三夫人がいたらしいが、子供が出来ないまま、二十歳で夭折したらしい。


  色々あったんだなぁ。俺も早死にしないよう、頑張ろう。幸い、オプションで元気に育つことは確定しているし。あとははしゃぎ過ぎて死なないよう気をつけないとな。あと階段。もう立体歩道橋にしろ何にしろ、階段で死ぬものか。


  その後も皆色々と話し込んでいたらしいが、赤ん坊である俺の活動時間をオーバーしたので、そのまま眠りに就いた。目が覚めた時、新しい部屋にビビって大泣きしたのは、また別の話。


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